オタクに優しいギャルはいつ生まれた?
うるせ~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、「いるかいないか」が定番の話題になるほどすっかり定着した属性、「オタクに優しいギャル」。ギャルなヒロインが登場する漫画が出版され続けている状況ですが、一体なぜこれほどの人気を得ているのでしょうか。
Twitterで検索すると、だいたい2015年ごろには「オタクに優しいギャル」が流行として認知され始めているようです。
(「風潮」「TLで見る」といった既成事実として語られている)
2014年ごろのツイートでも説として認知はされているものの、「一部の狂ったオタクの唱える珍説」という雰囲気がまだ強いです。
(妄言扱い)
「オタクに優しいギャル」が確立したのは2015年ごろ……と推測はできるのですが。一時は珍説扱いされるほどだったはずの「オタクに優しいギャル」が、なぜ次々と漫画に描かれるほどの人気ジャンルとして確立するに至ったのでしょうか。
「ビッチ」がオタクの琴線に触れることはできるか?
「オタクに優しいギャル」を描いた代表的な漫画を見てみましょう。
教えて!ギャル子ちゃん(2014年連載開始、2016年アニメ化)
はじめてのギャル(2016年連載開始、2017年アニメ化)
その着せ替え人形は恋をする(2018年連載開始、2022年アニメ化)
道産子ギャルはなまらめんこい(2019年連載開始、2024年アニメ化)
これらの作品では(キャラ本人がそうでないにせよ)、典型的な「ギャル」のイメージが語られています。
派手
明るい
スタイルが良い
スクールカースト上位
砕けた口調
露出高い
距離感が近い
ヤリマン
興味深いのは、「派手」「スクールカースト上位」「ヤリマン」といった要素です。いわゆる「オタク」にとって明らかにマイナス、というかほとんど”天敵”と言って良い要素がヒロインの属性になっているのは不可解です。
かつての男性オタクが下す「ビッチっぽい」の基準はエロゲーなのにヒロインがオナニーしただけでビッチ扱いされるほど厳しいものでした。ギャルは見た目や喋り方だけでNG、というオタクが多数派だったはずです。あとスクールカースト上位のギャルはオタクくんのことを毛虫扱いしていじめてきそうです。素直に考えると、ギャルはオタクにとってスルーされるべき女性像のはずでした。
ひとつの答えは、「ギャップ萌え」です。
きつく当たってくるのに実は惚れられている
超エリートの名家のお嬢様が同人オタク
硬派な女騎士が実は乙女
マイナス要素をプラスに転換するのが、ギャップ萌えという偉大な発明の力です。お嬢様や女騎士のような、普段は絶対に交わることのない世界のヒロインと価値を共有できたら?、という興味と同じように、ギャルの世界にオタクの興味が向いても、それほど不思議なことではないでしょう。
ただ、「オタクに優しいギャルとはギャップ萌えである」という説明は、少し一面的すぎる見方でもあります。先ほど挙げた「ギャルっぽい要素」をもう一度見てみると、「明るい」「スタイルが良い」「距離感が近い」……あれ、そもそもギャルってオタクの大好物なのでは?
下記の記事では、オタクに優しいギャルの歴史を変えたギャルとして「春日部咲」「城ヶ崎美嘉」「由比ヶ浜結衣」の3人が挙げられています。
城ヶ崎美嘉と由比ヶ浜結衣は共に、2011年に登場したキャラクターです。そしてどちらも、オタクにとってのマイナスイメージを抑えた、むしろ直接的に「優しい」性格のキャラクターです。ギャルと萌えの交差するところ、一言でいえば「明るさや人当たりのよさといった人となり」が全面に押し出されているといえるでしょう。
(『げんしけん』の春日部咲については本題から逸れるので割愛します。ギャルがオタクに馴染んでいく過程として与えたインパクトは非常に大きかったと思うのですが、ヒロイン萌えという意味では「オタクに優しいギャル」ブームとの直接の関係性は薄いように思います。)
彼女たちの登場によって、ギャルへのマイナスな偏見は少しずつ薄れていきます。
もちろん、いくらマイナス要素を抑えたとしても「見た目だけでNG」というオタクは決して少数派ではなかったはずです。ただ、時代が下るにつれ原理主義的な処女主義が退潮していったこともあり、彼女たちが受け入れられる土壌は少しずつ整っていたのではないでしょうか。特に城ヶ崎美嘉の場合は自分で担当を選ぶというゲームの特性によってうまく棲み分けができたこと、由比ヶ浜結衣の場合は実は全然ビッチではないという描写が細かく重ねられていたことなどが、好意的な反応を集めた要因として挙げられるかもしれません。
「オタクに優しいギャル」の世代交代
一旦まとめます。
オタクに優しいギャルが属性として認知され始めたのは、2015年ごろ
ギャルの持つ「ビッチでスクールカースト上位」なイメージはオタクにとって天敵だが、ギャップ萌えにもなる
一方で、ギャルの持つ人当たりのよさや明るさは素直に萌えでもある
「ギャルは天敵」という価値観は時代が下るにしたがって薄れていっている
ここまでを踏まえると、「オタクに優しいギャル」と一口に言っても、その萌えのツボはある時期を境に大きく転換していることが見て取れます。
【オタクに優しいギャル 第1世代】
代表的なキャラは高坂桐乃。「ギャルはオタクの天敵」というギャップ萌えがメインになるキャラクター。オタクへの理解があるものの、基本的にはトゲのある態度でこちらに当たってくる。デレることはあっても基本はオタクと相容れない世界の住人として一定の緊張感はなくならない。
【オタクに優しいギャル 第2世代】
代表的なキャラは由比ヶ浜結衣。ギャルの人当たりのよさ、明るさを重視したキャラクター。「ギャルはオタクの天敵……ってわけでもないかも?」という価値観のゆらぎが背景にあり、その価値観に沿うように、物語中でも序盤はビッチや別世界の住人扱いされ、中盤以降ではすっかり「こっち側」の親しみやすいキャラクターになっていくのが典型的な流れ。
由比ヶ浜結衣の登場する『俺ガイル』の発表や城ヶ崎美嘉の『シンデレラガールズ』の発表は2011年です。現在の「オタクに優しいギャル」ブームは明らかに第2世代の流れにあるわけですが、これらの作品の影響を受けたオタクがギャルの洗礼を受けてギャル萌えオタクと化していったことが、じわじわと流行を後押ししたのではないでしょうか。
(補足すると、2011年~2014年ごろはAKB48が爆発的に流行っていた時代であり、二次元オタクにとって清楚系が飽きられていたのかな、という推測もできるかもしれません。『デレマス』を例に挙げても新田美波や鷺沢文香のNTR同人が妙に流行るなど、やはり清楚系へのオタクの価値観が揺らいでいたことを感じさせます。)
いずれにせよ、「オタクに優しいギャル」が誕生するにあたって「オタクはギャルの天敵」という風潮(悪く言えば偏見)が克服されていったことが深く関係していることは強調に値します。今ではもっぱら「いるかいないか」話になりがちですが、歴史を辿ってみると、それが許されるかどうかを決めるのは「萌えられるかどうか」というオタクの心の側の問題だったのですね。
第3のギャル?
とはいえ「オタクはギャルの天敵」という価値観が揺らぐことで第2世代が生まれた、という図式的な説明は少々拙速に過ぎるでしょう。オタクに優しいギャル第2世代でも、「オタクはギャルの天敵」という価値観はギャルと切っても切り離せないものでした。
例えば、『俺ガイル』の由比ヶ浜結衣について。『俺ガイル』1巻にはもう一人のヒロイン、雪ノ下雪乃が先に登場します。雪ノ下雪乃は学年1位の秀才で黒髪ロングの美少女であり、見事な清楚系ヒロインです。この2人が同時に登場することで、主人公の口からは彼女たちの第一印象について「ビッチ」「美少女」と対照的に語られます。由比ヶ浜と交流を続けるうちに、その人となりが少しずつ見えてきて……というのが序盤の主要な展開でした。
ここにはやはり、「ビッチ」からのギャップという構図があります。ギャップ萌えの要素は薄くなったとはいえ、「一見ビッチなヒロイン、だけど」という(第1世代的な)ワンクッションが、ギャルヒロインにとっていかに切り離せない要素であるかということを、ここから読み取ることができます。前世代のギャル像を踏まえることで次のギャル萌えが生まれる。「オタクに優しいギャル」の魅力の形は、ある時期に見つけ出されたものではなく、数々のヒロインが生み出されることでグラデーションのように変化していったというべきでしょう。
その帰結として、近年では「ギャルだけど」というワンクッションが必要なくなりつつあることも注目すべきです。例えば「ギャルあさひ」は爆発的に人気を博しました。『ブルーアーカイブ』の「アスナ」も明らかにギャルっぽい見た目のキャラなのですが、人となりは快活で人懐っこく、もはや「ビッチっぽい」第一印象すらふさわしくないようになっています。ギャル漫画でも『道産子ギャル』ではスクールカーストやビッチっぽさには目もくれず、ただギャルのかわいさを描く作風が見て取れます。
「オタクに優しいギャル 第3世代」とでも呼ぶべき、ギャルの可愛さを引き継ぎながらもスクールカーストやビッチのイメージを払拭したキャラクターが親しまれつつあるのが昨今の状況だといえます。
「オタクはギャルの天敵」という価値観の影はもうありません。「かわいい」すなわち良い、というギャルへのフラットな目線がそこにあります。ギャルあさひはかわいいです。
『アズールレーン』等、昨今のソシャゲには必ずギャルキャラがいると言っても過言ではないでしょう。もはや、ギャルとは「メイド」に匹敵するような万能の属性へと変遷していっています。
(余談)ギャルの祖先、ギャルの子孫
実は2011年以前からギャル属性が大人気だったジャンルがあります。エロです。
全貌を把握するのは大変なので断片だけ覗いてみますが、DMMで「ギャル」な成人向け漫画を検索すると、「オタクに優しいギャル」以前から一定の人気を誇っていることが分かります(やはり最近になると「オタクに優しいギャル」っぽい漫画が増えている)。実写AVでの黒ギャル人気については言わずもがなです。
成人向けでのギャル人気はどちらかというと「肉食系」への需要が強く、「オタクに優しい」の部分と直接の繋がりは薄いかとは思います。しかし成人向けでのギャル供給の厚さが、少なからずギャルヒロインの人気を後押ししていたことは疑いないでしょう。
ニトロプラスのイメージキャラクター「すーぱーそに子」や『食戟のソーマ』の「水戸郁魅」のように、肉感的なギャルのイメージに準拠しつつも一般向けに親しまれるキャラクターが生まれたことで、いわば「ギャルエロのカジュアル化」が起こったと考えれば、「オタクに優しいギャル」を支えるもう一つの流れを見ることができるでしょう。特に『ギャル子ちゃん』のちょい下ネタガールズトークな作風は、成人向けでのギャル文脈と多分に交わりつつ、親しみやすいギャル像を作り上げることでギャルエロのカジュアル化に大きく貢献していたように思います。
ちなみに黒ギャル系が大半を占めるなか異彩を放っているのが「にったじゅん」氏の作品です。ギャルにからかわれる作風が強めで、ソフトマゾ向けに分類されると思うのですが、ちょっと第1世代的な「ギャップ」に通じるところを感じます。
今回取り上げた「城ヶ崎美嘉」の原型として、Xbox360版『アイドルマスター』の「星井美希」の存在についても触れておきます。星井美希は決してギャルではないものの、金髪の派手な見た目で、2007年当時としてはかなり衝撃的なキャラだったようです(「ビッチですよビッチ!」)。にもかかわらず、長きにわたって多くのオタクの心を掴んだ人気キャラでもあります。ちょっと周囲と違う空気を持っている感じが、むしろオタクにとっては新鮮で、親近感を覚えた面すらあるかもしれません。そんな「清楚美少女じゃないけどちょっと浮いてるヒロイン」をどのオタクも一度は好きになったことがあるのではないでしょうか。そういう経験が少しずつオタクの遺伝子に織り込まれていったことも、実は「オタクに優しいギャル」の下地となったのかもしれません。遡っていくとエヴァの「アスカ」すら通じるものを感じなくもないですが、脱線しすぎるのでこのあたりで。
「オタクに優しいギャル」登場以降に影響を受けたと思われるのが「地雷系」です。ビッチなイメージがあるファッションで、一見オタクからは忌避されそうですが、そのイメージを取り払って親しみやすく、そして可愛いキャラクターとして根強い人気を獲得している点で、「オタクに優しいギャル」以降ならではの属性といえます。(みちきんぐ『アザトメイキング』ではまさに「オタクに優しい地雷系」ヒロインが描かれています)ギャルよりも「オタク趣味がありそう」なイメージが強いので、「オタサーの姫」のイメージと相まって、「オタクに理解のある女の子」属性としてギャルと差別化されている点も興味深いです。
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