[ことばとこころの言語学・5]アンジャッシュとダイクシスの関係
これまでダイクシスについていろいろと見てきましたが、ダイクシスを巧みに利用しているのが、アンジャッシュのすれ違いコントです。
エンタの神様「小学校教師と小児科先生」の一部を以下に挙げてみます。
児嶋:こういった先生の集まりって何か疲れちゃいますね。
渡部:私もこういう堅苦しいのは苦手でね。
児嶋:あぁ申し遅れました私児嶋と申します。
渡部:あぁ私渡部といいます。
児嶋:いや~子供相手ってホント大変ですよね。
渡部:あぁ子供はわがままですからね。
児嶋:うん。
渡部:あと今年ほら集団の食中毒流行ったから大変じゃなかったですか?
児嶋:集団食中毒うちもありましたよ。
渡部:やっぱり。
児嶋:ええ、ですからうちは慌てて休みにしましたよ。
渡部:休んだんですか?そんな時に?
二人は「先生」なのですが、児嶋は小学校の先生、渡部は小児科の先生です。しかし、児嶋の「こういった」と渡部の「こういう」が指しているものが本当は違うにもかかわらず、互いに同じものだと思い込んでいることで会話が展開し、そのちぐはぐさがおかしさを生み出しています。そして、子供という言葉が小学校の児童を前提として話す児嶋と、患者として話す渡部で会話が次々と展開していきます。
渡部:たまにある泊まり込みの24時間勤務が大変ですね。
児嶋:24時間勤務とかあるんですか?
渡部:はい。
児嶋:何で24時間も泊まり込むんですか?
渡部:たまにね深夜遠方からすごく悪い子がヘリに乗って来たりするんですよ。
児嶋:悪い子がヘリに乗って来るんですか?めちゃくちゃ悪いですねそれ。
児嶋の「めちゃくちゃ悪いですねそれ」の「それ」は渡部が伝えたかった「患者がヘリコプターで運ばれてくる」というものを指しているのですが、彼はそういう風には思ってはいません。彼の中には渡部も小学校の先生だという思い込みがあるので、「素行不良の生徒が学校にヘリコプターでやってくる」と勘違いして、突っ込みをいれています。
つまり、ダイクシスというのは会話が行われるコンテクストを話し手と聞き手が共有して初めて成り立つことばなのです。このように、話し手と聞き手が異なったコンテクストで会話をすることで、誤解を生んだり、コントの場合は「笑い」を誘ったりすることになるのです。
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