大掃除の神様(7)
ハナは堀君が自分の誘いに同意してくれた事に感激する一方で
なぜ堀君を呼び止めたのか後悔もしている。
顔の火照りは収まるどころかますます紅潮してきた。
もうとっくに日は暮れていて、空には星が点々と輝きを見せている。
12月の肌寒い空気が肌の表面をなでてくる。
寒さのおかげで冷静さを保てていられるような気がしてきた。
「佐倉、開けてみて。」
「うん、ちょっと待ってね。」
堀君がプレゼントボックスを持ち、ハナが開封することになった。
こんなに至近距離で堀君と一緒に作業するなんて、初めての経験だ。
考えれば考えるほどに上手く手先が動かない。
リボンをほどこうとするのだが、ツルツルした素材のせいか
緊張のせいか(おそらく後者だ)
ハナはリボンをほどく事ができずもたもたした。
そんな様子を見て堀君が肩を震わせて笑い出した。
ハナはきまり悪そうに堀君の顔を見つめる。
「ごめん、ごめん。佐倉って意外と不器用なんだな。
ちょっとこっち持って。」
恥ずかしいやら情けないやらで、うなづきながら堀君に言われた通り
ハナは両手でプレゼントボックスを包むように持った。
堀君が慣れた手つきでリボンをほどいた。
「包装紙もとっていいかな?」
ハナがうなづいた事を確認すると、堀君が包装を解いた。
堀君はリボンと包装紙を破いたりせず、丁寧に扱った。
ハナは堀君のこういう繊細な部分に惹かれる。雑な感じが一切ない。
ますます堀君の事が好きになった。
ラッピングを解くと、白い段ボール地の箱が現れた。
「開けるね」堀君が優しく言った。
何が出てくるのか、ワクワクと緊張の入り混じった空気が二人を囲む。
中から出てきたのはクリスマスツリーのオーナメントだった。
目を閉じて口元には優しい微笑みを浮かべ両手を広げた天使と
満面の笑顔を浮かべたサンタクロース。その手にはおもちゃが入っているであろう大きな袋を抱えている。
二つのオーナメントが入っていた。
「かわいい」ハナは無意識につぶやいた。
天使の穏やかな顔つきと全てを受容する懐の深さと、
子ども達の夢と希望を一手に引き受けたサンタクロースの使命感を感じた。
とっても寒いはずなのに、ハナの心はやわらかくあたたかいもので満たされた。
ハナがただただ感動していると堀君が天使のオーナメントを指さして口を開いた。
「これ、佐倉みたいだな」
「え?」ハナは聞き返す。
私が天使ってどういう事だろう?
少なくとも馬鹿にされていない事は分かる。多分褒められている事も分かる。
でも、私が天使みたいって……。また恥ずかしくなってしまった。
呆然と堀君の顔を見つめるハナに、堀君は「しまった。」という顔をしながら
続ける。
「いや、変な意味じゃなくてさ。佐倉いつも笑ってるし。
なんか似てるなって思ったんだよ。
気に障ったらごめん。」
堀君は、ハナが「いつも」笑っている事を知っている。
ハナはいつも堀君に見られていたのかと気づき、
またさらに鼓動が大きくなってきた。
顔はリンゴのように真っ赤になっているに違いない。
顔が熱くてたまらないのだ。
堀君はますます伏し目がちになり、黙ってしまった。
心なしか堀君の頬がうっすらピンクに染まっているように見える。
ハナばかりドキドキさせられているのも癪だった。
思い切ってハナも堀君に伝えてみる事にした。
声が震えるのは、寒さのせいだ。
「私が天使なら、このサンタさんは堀君だね。
私にこうやってプレゼントを届けに来てくれたから。
堀君サンタクロースみたいだって思ったよ……」
ハナの言葉を受けて、堀君の顔はピンクを通り越して一気に真っ赤になった。
ハナは内心ガッツポーズをした。
『私ばっかり緊張しちゃって恥ずかしいから、ちょっとだけ仕返し。』
「ありがとう。今日は寒い中来てくれて。遅くなっちゃったよね。
おうちの人心配してると思う。ごめんね」と、ハナは続けた。
「あ……うん。うちは大丈夫。」堀君は赤い顔のまま答えた。
ハナは勢いで堀君に「大好き」と言いかけて、自分でも驚いた。
なんで自分がこんなに大胆なのか分からない。
天使に似ているなどと言われて浮かれているのだろうか。
だとしたら、自分は単純すぎる。
「俺も急に来てごめん。会えてよかったよ。
じゃあ俺もう行くわ。また冬休み明け、学校でな。」
堀君はそう言って自転車にまたがった。
「うん。またね。」
ハナは自分が今日一番の笑顔になっている事に気が付いた。
堀君は軽く会釈して、自転車をこぎ始めた。
ハナは堀君の姿が見えなくなるまで、見送った。
(続く)