焼肉と僕とウェディングフォト

もう何年も前のこと。

たしかその日は仕事も休みで、ダラダラと自宅で一日を過ごした。

日が暮れて夕飯時にはなったけれど、周りにあんまり行きたいお店もなくて、ファミリー層向けの焼肉チェーン店に入ったんだ。

当時の僕は、一回の結婚式撮影で何十万円ももらえるようになって、もっと上を上をと目指していた頃だった。

毎日問い合わせを数件いただいては、「その日は埋まってしまっています」と返信する。

営業的にはもったいないけれど、求められているその状況に、悪い気はしなかった。


油っぽい臭いのするその焼肉店の手動ドアを引くと、よく言えば賑やか、悪く言えばうるさい店内の雰囲気。清潔感も100点とは言えないような店だった。

店員に促されて四名掛けのボックス席に座って、メニューに目をやる。

思わず「やすっ」という言葉が出そうになるようなラインナップで、なるべく高いものを探すという珍しいメニューの選び方をした。

特上塩タン、特上カルビ・・・。メニューを決めたところで、店員を呼ぼうと辺りを見回した時だった。


そこには、結婚式のゲスト席で見かけたら絶対シャッターを押すような、これでもかというくらい幸せそうな家族の笑顔がそこら中にあって、

うるさいと感じたさっきの声は、ごちそうの焼肉を前にしてはしゃぐ子どもとパパママたちの笑い声だった。

一瞬、僕の中で時間が止まった。

「めっちゃ幸せに溢れてる。これ以上の幸せって何?高級焼肉店よりここにいる家族の方が幸せに見えるぞ」

「自分がこのままウェディングフォトを極めても、この店には勝てないわ。自分にはこんなにたくさんの人を幸せにすることはできない」

食事中、そんなことが頭の中をぐるぐる巡って、正直、この店の安い特上カルビが特上の味だったのかは覚えていない。


世の中には、高級、プレミア、限定品、色んな商品があって、それぞれに価値がある。

僕もウェディングフォトの世界で、海外にいるような撮影一件100万円のフォトグラファーを目指していた。

でも、この焼肉屋で見た光景が、今も頭から離れない。

自分はどっちの焼肉屋になりたいのか?

写真業界で、どちらの道を進みたいのか?


リブランディングを経て、クッポグラフィーが「少数精鋭のフォトグラファーチーム」から、「『すべての人が心の支えになる写真を持っている世の中をつくる』というミッションを掲げるフォトスタジオ」に姿を変えつつあることに、この焼肉屋が少なからず影響を与えているように思う。


自分は何を大切にして生きていきたいのか。

撮影させていただく方たちと、どういう関係を築きたいのか。

たくさんの人の笑顔を見たいのか。

一年に一回の撮影でも凄いものが撮れたら良いのか。

たくさん写真を撮りたいのか。


答えは自分の中にしかない。

シャッターを押し続けている以上、常に自分に問い続けよう。

迷ったら、おすすめの焼肉店をいくつか紹介するよ。


(この焼肉店から学んだことは、安い=いい、ということではなく、多くの人に届けるという価値についてなので、そこはお間違いなく)

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