ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記22
「……ス……リス……起きて、アイリス!」
「!?」
誰かに肩を揺さぶられ彼女は驚いて起き上がる。
「おばさん。どうしたんですか?」
「うちが火事になったのよ。今すぐ逃げないと」
「えっ。火事……」
寝ぼけ眼で尋ねるアイリスへと女性が切羽詰まった声で話して彼女の腕を引っぱった。その言葉で一気に目を覚ました彼女は慌てて自分の商売道具である裁縫セットだけを手にはだしのまま家の外へと飛び出す。
「!?」
外に出ると一階のお店はすでに燃えていて黒い煙でおおわれていた。騎士団と冒険者それに近隣の住民達が駆け付けて必死に消火活動を行っている。
「おお、アイリス無事だったか」
「オーナー。これは一体……」
アイリスの姿を見た男性が駆け寄って来ると安堵した様子で呟く。そんな彼へと彼女は尋ねる。
「例の放火魔だ。どうやって火をつけたのかは分からないが気が付いたらもう店の半分が焼けていた」
「そんな……」
男性が悔しそうなそして悲しそうな声でそう答えるとアイリスは顔色を青くして言葉を失った。
「アイリス、怪我はないか」
「アイリス。無事か」
「アイリス。大丈夫か」
アイリスの耳にイクトの声が聞こえてくるとマルセンとジャスティンも険しい顔で駆け寄って来る。
「アイリス。怪我なんかしてないわよね?」
「アイリスさん。大丈夫ですカ」
マーガレットが血相を変えて声をかけてくるとミュゥが心配そうな顔で尋ねた。
「アイリスさん。家が燃えたって本当なの」
「アイリスさん。ご無事ですか」
シュテナとジョンも険しい顔で彼女が無事かどうか確認してくる。
「イクトさん……マルセンさんにジャスティンさんそれにマーガレット様にミュゥさん。シュテナ様にジョン様も」
皆の姿にアイリスは驚いて目を瞬く。
「郊外の方で火事があったってマルセンが教えてくれて。それでもしかしてと思って来てみたんだが……予感が的中してしまったようだね」
「イクトさん……うっ。うっ。私、私が借りている家が……」
「うん。怖かったね。もう大丈夫だよ」
優しい口調で言われた言葉に彼女は感情を抑えきれず不安と恐怖に泣きじゃくりイクトの胸へと顔を埋めた。
そんなアイリスを優しく抱き留めその背を撫でながら落ち着かせようと言葉をかける。
「わお。大胆ネ」
「ま、まあ。今回だけは許して差し上げてよ」
その様子にミュゥがにやにや笑い言うとマーガレットが不機嫌そうに腕組みして呟く。
「消火活動は俺達に任せてくれ」
「私達でなんとか火を消し止めて見せる。全力を尽くす……だから。ここで待っていてくれ」
マルセンの言葉に同意する様に力強く頷きジャスティンも話す。
「シュテナ。……僕達も犯人を捜すのを手伝います」
「そうね。まだこの辺りにいるかもしれないもの」
「お二人だけでは危険です。騎士団の誰かを同行させましょう」
ジョンがシュテナへと視線を送るとそう言った。それに彼女も頷き同意する。そんな二人にジャスティンが険しい顔で忠言すると第一部隊の兵士五人を護衛に就かせた。
「……」
「今は火が消し止められるのを待つしかないよ」
「はい……」
少し落ち着きを取り戻したアイリスがイクトから離れると、未だに燃え続ける家屋を見て顔を曇らせ俯く。
そんな彼女へと彼が優しい口調でそう言って聞かせた。アイリスもそれに呟くように答え祈る様に燃え続ける家屋を見詰める。