ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記27
そのころ作業部屋に入り服作りをしているはずのアイリスなのだが、なかなかいい案が浮かばない様子でデザイン画を描いては丸めて捨てるを繰り返していた。
「ん~。こんなんじゃだめ。なんか私らしくない。私お客様の服を作ることはできても、大会用の誰も着ない服を作るのはできないんだわ……こんなんじゃイクトさんの期待に応えられないよ」
俯き悩むと作業台の上へと突っ伏す。
「どんな服を作ればいいのか全くアイデアが出てこない。このままじゃ大会に出場する事さえできやしないわ」
「アイリス。頑張っているようだね」
悩みでうんうん唸っている彼女の耳にイクトの声が聞こえてきた。
「イクトさん……私全然だめで。どんな服のデザイン画を描いてみてもしっくりこなくて。このままじゃ……」
「……アイリスは何でお針子になりたいと思ったんだい」
「それは子どもの頃おばさん達との旅行でこの街に来た時に見たこの仕立て屋アイリスで働きたくて、だからライセンスを取得したんです」
アイリスがお手上げと言った様子で話した言葉に彼が優しく尋ねる。その言葉に彼女は素直に答えた。
「うん。そうだったね。それじゃあ質問を変えるね。お店で働いてみてどう思った」
「お客様が私の仕立てた服を着て喜んでくれたのが私も嬉しくて。もっとお客様の笑顔が見たくてお客様に満足して頂けるそんな服を作りたいってそう思って毎日働いてました」
それを聞いたイクトが同意するとさらに質問する。アイリスは働いてみて自分が感じたことを伝えた。
「うん。実は今日マルセンやマーガレット様。ミュゥさんに隊長。ジョン様にシュテナ様。それ以外にも君が服を仕立てたお客様がいらしてね。皆君が大会に出るって聞いて応援していると伝えて欲しいと頼まれたんだ」
「へ?」
彼から伝えられた言葉に彼女は驚いて目を大きく見開く。
「君はこの一年の間にこの街の人達の笑顔のために服を仕立ててきた。そんな誰かのために一生懸命に頑張って服を仕立てる君を皆応援したいと思ったんだよ。だからねアイリス、君が今回の大会にどんな服を作るのか皆みてみたいと思っている。そして楽しみにしているんだよ」
「皆さんの期待に私……応えられるでしょうか」
話しを聞いて不安になった彼女は瞳を曇らせ俯き小さな声で言った。
「そこは君の頑張り次第だよ。ただ。君がこのお店で働いてきてお客様のために服を仕立ててきた事。その優しい気持ちを忘れずに服を作ればいいんじゃないかな」
「イクトさん。有り難うございます。おかけで私どんな服を作ればいいの見えてきました。私が作りたい服は。大会に優勝するために作るんじゃない。その服を着てみたいって人達のために街の皆のために最高の逸品を仕立ててみます」
優しく語りかけてくるイクトの言葉に励まされたアイリスは眩いばかりの笑顔になり答える。
「うん。瞳が宝石みたいに輝いている。それならもう大丈夫だ」
「はい」
彼も笑顔でもう安心だと判断する。彼女も力強く頷くと早速この気持ちを忘れないうちにとデザインを紙に書き始めた。
そうして出来上がったデッサンを基に服の素材を選び仕立てていく。作品が完成したのは閉店した後の事だった。
「できた……」
「お疲れ様」
達成感に浸っていると紅茶を持ってきたイクトが部屋へと入って来る。
「イクトさん見て……あ。でもイクトさんは審査員だからこれを今見たら反則になってしまうんでしょうか」
「そうだね。残念だけど今は見てあげられない。だから大会で君の作品を見るのを楽しみにしているよ」
今までのようにイクトに見てもらおうと思ったアイリスだったが彼が審査員であることを思い出しそう言った。
イクトも残念そうに笑うとそう言って伝える。
「はい。私の中では自信作なんです。なのできっとイクトさんに認めてもらえると思います」
「それは楽しみだな。アイリスがどれほど成長したのか早く確認したいがもう少し待つことにするよ」
胸を張り語った彼女へと彼が微笑み話す。
こうして作品作りは無事に終わり、時間はあっという間に過ぎ去り大会当日の朝を迎えた。
「……大丈夫。大丈夫よアイリス。自分の作った服に職人の誇りを持ちなさい」
大会の会場へと赴いたアイリスは緊張と不安で押しつぶされそうな自分を激励して作品を持ち受付へいく。
「仕立て屋アイリスのアイリスです。本日はよろしくお願い致します」
「はい。アイリスさんは番号札18番となります。これを持って会場へお進みください」
「はい」
受付をすませると会場となる大広場の中へと入る。そしてたくさんの作品が飾られている中に自分の服が新たに飾られた。
その様子を見守りながら、周りの服を見ては不安にかられる心を抑え込む。
「それではこれにて受付は終了いたします。開催に先立ちましてまずは国王陛下よりお言葉を頂きます」
「今回我が国で仕立て屋の大会が開催される運びとなったこと大いに嬉しく思う。これを機に我が街の職人達がより切磋琢磨し一流の職人へとなってくれたらと思う。この国の発展と世界との交流をこれからも続けていきたいと思いわしの挨拶を終了とする」
「それではこれより審査を始めたいと思います。審査の間皆様は自由にお過ごしくださいませ」
司会者が言うと国王の挨拶が始まり大会が開催される。審査をしている間は皆それぞれ自由に他の人の作品を見たり自分のお店の宣伝をしたりとして過ごす。