ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記18
そして翌日。約束通りに少年が開店とともに来店する。
「おはようございます。昨日頼んでいた服を取りに来ました」
「いらっしゃいませ。どうぞこちらになります」
お客の言葉に服を手に持ち小走りで駆け寄ると広げて見せた。
「これはとても丁寧な作りですね。国宝級の品をその若さで作る事ができるなんて凄いです。早速試着させてもらってもいいですか」
「はい。どうぞこちらへ……」
「こうやって着てみるとシャキッと背筋が伸びる感じがします。それに重くなく動きやすい。これならきっとシュテナも喜んでくれそうだ」
「お気に召したようで嬉しいです」
姿見に映る自分の格好にとても気に入った様子で微笑む少年。アイリスも満足してもらえて嬉しそうに笑う。
「早速お会計を」
「はい」
試着を終えて出てくるとお客がそう言って会計を頼む。彼女は返事をするとカウンターへと向かい伝票を用意する。
「アイリス、この前頼んでいたドレスの仕立ては終わっていまして」
「あ、マーガレット様いらっしゃいませ」
その時扉が開かれマーガレットが来店した。カウンター越しにアイリスは笑顔で出迎える。
「いらっしゃいお嬢様。申し訳ないですが俺はこれから出かけるので……お相手して差し上げられないのですが」
「イクト様はお忙しい身ですものね。わたくしのことはお気になさらずに。お仕事頑張ってくださいね」
イクトも会議に出かける準備を整え店に出てくると申し訳なさそうにそう話す。彼女はゆるりと首を振ると笑顔で見送る。
「うん。それじゃあアイリス行ってくるね」
「はい。店番は任せて下さい」
マーガレットへと笑いかけるとアイリスへと声をかけて出ていく。扉を開けて外出する彼へと彼女も声をかけ見送った。
「あら、先客がいらしたのね。ならわたくしは少し待たせてもらいますわ」
「申し訳ない。直ぐに終わりますから」
先客がいた事に気付いたマーガレットが少年を見て言うと彼は申し訳なさそうに謝る。
「あら?あなた……どこかで見た顔ですわね」
「僕のような顔の者など大勢います。きっと気のせいでしょう」
「まあ、あなたも見た感じ貴族の方のようですから、どこかのパーティーでお会いしたことがあるのかもしれませんわね」
「ははっ……そうでしょうね」
少年の言葉に納得して頷く彼女に彼は苦笑を零して相槌を打つ。
「お待たせしました。こちらが伝票になります」
「ありがとう。それじゃあ僕はこれで失礼します」
アイリスから伝票を受け取ると会計をすませ少年はいそいそとお店を後にする。
「マーガレット様お待たせしました。こちらがこの前頼まれていたドレスです」
「まあ、今回のは明るい色ですのね。それにこの逆チューリップ型のふわふわのスカートも気に入ってよ」
ドレスを見た彼女が嬉しそうに満面の笑みを浮かべて言う。
「お気に召したようでよかったです。お披露目のパーティーに出席なさると伺ったので地味な色よりも明るい色の方がよろしいかと思い、お嬢様は赤色系統が似合うのでワインレッドの生地を選んでみました」
「あいかわらずその観察力だけは認めてあげても良くってよ。それじゃあまた様子を見に来るから、イクト様にご迷惑をかけるんじゃありませんことよ。昨日だって失敗してお店においてある商品をぶちまけたんですから」
「は、はい」
マーガレットの言葉に彼女は畏縮して頷く。
「べ、別にあなたが失敗して困っていないかとか心配できているわけじゃなくってよ。ただわたくしがしっかり見張っていないとまたドジをするんじゃないかと思って」
「分かっていますよ。マーガレット様の優しさ身に沁みます」
「ふ、ふん。それが分かっているなら結構です。それじゃあね」
聞いてもいないのに理由を説明する彼女へとアイリスは小さく笑うとそう言って頭を下げる。マーガレットは照れた顔を隠すように明後日の方向へと向くとそう言って店から出ていった。