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記憶屋Amber - 第二話「オパールは自分の気持ちに気付く」 -
〇記憶屋Amber・店外(夕)
店の外に立つ奏多の姿。奏多、店を見上げている。
前田の声「消したい記憶、ございませんか?」
奏多「消したい記憶?」
笑顔の前田が立っている。
前田「うちの前に居たということは、何か記憶でお悩みなのでは?」
奏多少し慌てて、
奏多「あ、いえ、俺はただ、幼馴染がここに入っていったので気になっただけで……」
前田「ああ、奈央さんの」
奏多「あ、そうです」
奏多、伺うように前田を見て、
奏多「あの、消したい記憶って?」
前田「ここは記憶屋。ここに来れば嫌な記憶を消すことも、欲しい記憶を手に入れることも、可能です」
奏多、怪訝な表情。
奏多「なぜ、奈央はここに?」
前田「奈央さんには昨日ご来店いただきまして」
奏多「奈央の記憶を操作したってことか?」
前田「操作した、とはあまり良い言い方ではないですね。記憶でお悩みでしたので心が回復するお手伝いをしたまでです」
奏多、前田に詰め寄る。
奏多「奈央に何をした⁉ あいつ今日変なんだ」
前田「お客様のことはトップシークレット、何もお答えできません」
店の扉が開き、奈央が出てくる。
奈央「前田さん、雨野さんが呼んでる……」
奈央、奏多に気付く。
奈央「何でカナタがいるの? 杏奈は⁉」
奏多「わすれてた……」
奈央、怒り顔になり、
奈央「信じらんない! あんた何やってんの? 早く戻って杏奈に謝って‼」
奈央、前田の腕をつかみ、中に引き入れる。
扉が乱暴に閉じられる。 残された奏多。途方に暮れる。
〇藍学園・2年3組(朝)
朝礼中。奈央の隣の席には誰も座っていない。
教壇に立つ教師(47)、教室を見渡し、
教師「林奏多は? 小森、何か聞いてないか?」
奈央「何も、知らないです」
教師「そうか」
奈央、隣の空席を見る。
〇記憶屋Amber・店外(朝)
店前をうろうろする奏多の姿。
Amber二階から雨野の声が聞こえる。
雨野の声「おい」
奏多、上を向く。
二階の窓から雨野が奏多を見下ろしている。
雨野「林、奏多だな」
奏多、少し戸惑いながら頷く。
奏多「何で俺の名前……」
雨野「そこで待ってろ」
雨野、窓から離れる。
〇記憶屋Amber・店内(朝)
ソファに座り、店内をきょろきょろと見渡す奏多。
対面に座る雨野。
奏多「えっと、ここは何のお店ですか?」
雨野「記憶屋だ」
奏多「記憶屋って言うのは?」
雨野、手袋をはめる。
雨野「そうだな……お前、誕生日は?」
奏多「10月25日です」
雨野、奏多の頭に右手をかざす。奏多、思わず目を閉じる。
奏多、目を開くと、目の前に開かれた雨野の右手。その上に小さなオパールのような琥珀糖。
奏多「なん、ですか? これ」
雨野「オパールだな」
不思議そうな表情を浮かべる奏多。
雨野「誕生日は?」
奏多「さっきも言ったじゃないですか……あれ?」
奏多、言葉に詰まる。
雨野、手のひらの琥珀糖を奏多の口に突っ込み、抑える。
奏多、思わず飲み込む。
雨野、手を離す。
奏多「な、何するんですか?」
雨野「誕生日は?」
奏多「10月25日……あれ?」
雨野「こういうことだ」
雨野、手袋を外す。
雨野「俺は記憶を結晶化できる。そして、その結晶をまた取り込めば記憶が元に戻る。今はお前から誕生日の記憶を奪っただけだ」
奏多、戸惑いの表情。
奏多「な、なるほど……?」
奏多、ハッとし、
奏多「じゃ、じゃあ奈央の記憶を操作したのって」
雨野、鼻で笑い、
雨野「操作したというか、あいつがそう望んだから奪っただけだ」
奏多、雨野に詰め寄る。
奏多「奈央は何を失ったんだ⁉」
雨野、少し考え、棚に向かって歩く。
雨野、奈央の記憶(サファイア)が入った薬瓶をローテーブルに置く。
雨野「これがアイツの記憶だ」
奏多、薬瓶を見る。
奏多「綺麗な、藍……」
雨野「石言葉って、知ってるか?」
奏多、首を振る。
雨野「何でもかんでも意味を持たせようとする人間の悪い性だがな」
雨野、ソファに座り直し、
雨野「俺は記憶を結晶化できる。そしてその結晶は宝石の形になって意味を持つ」
店の扉が開き、前田が入ってくる。
前田「ただーいま」
前田奏多を見て驚いた表情をし、近づく。
前田「えー、何でこの時間にいるの? まだ学生は授業中でしょ」
奏多、ばつが悪そうに、
奏多「どうしても、気になって」
ローテーブルの上の薬瓶に気付く前田。前田、あきれ顔で雨野を見る。
前田「ねぇ、アメちゃん、お客様のことはトップシークレットだって言ってるでしょ⁉」
無視する雨野。
うなだれる前田。
奏多「あ、あの、奈央の記憶は……」
前田、薬瓶を手に取り。
前田「こちらですか?」
奏多「それ、何の記憶なのか教えてもらえないか?」
前田「お客様のことはトップシークレット。アメちゃんにヒントくらいは貰ったんじゃないですか?」
奏多「でも全然わかんなくて……」
前田「二週間後迄は奈央さんのもの。秘密です」
前田、鋭い視線で奏多を見る。
奏多、少し考え、立ち上がる。
店の出口に向かう奏多の後ろ姿を見る雨野。
〇記憶屋Amber・店内(夕)
紅茶を入れる前田。
雨野、ソファに座り、奈央の記憶(琥珀)を眺めている。
店の扉が開く。
前田「いらっしゃいませ」
奈央と奏多が入ってくる。
前田「あ! 久しぶり、奈央さん」
奈央「お久しぶりです! なんか、最近カナタが周りでしつこくて来れなかったんですよー」
奏多「しつこいってなんだよ」
奈央「そのまんまだよ。しかも杏奈と別れるし。意味わかんない」
奏多、ソファに座る雨野を見つけ、傍に歩いていき、
奏多「奈央の記憶を返してほしい」
奈央「ちょっと、カナタ⁉」
奏多、前田の方を向き、
奏多「もう二週間経っただろ?」
前田、奏多に向かって
前田「この記憶が何なのか、予想がついたわけ?」
奏多「詳しくはわかんねーけど、サファイアは誠実さや冷静さを表すんだろ?」
奈央、奏多に詰め寄り、
奈央「なに? 私が誠実じゃなくなったって言うの?」
奏多「そうじゃねぇけど、なんか俺に対する雰囲気が変わったからそこら辺の考え方が変わったんじゃないかと思って」
前田、ため息をつき、
前田「質問。貴方は奈央さんの記憶を手に入れてどうするおつもりですか?」
奏多「そりゃ、奈央に返して……」
前田「それならばお渡しできません」
奏多「何で⁉」
前田「当たり前でしょ。記憶を手に入れる本人様の承諾なしにお渡しできるはずないじゃない」
前田、奈央を見る。奈央、首を横に振る。
うなだれる奏多。
奈央、思い出したように前田に、
奈央「あ、看板は毎日見てましたよー。この間はリスで、おとといはピアノ? チカちゃんの楽しかったことが見れて私も楽しかったです」
うなだれていた奏多、顔を上げ、
奏多「あ、そーだ。あの看板の絵、奈央が描いたんじゃないのか?」
雨野、動きを止める。
奈央「違うよ? 雨野さんの娘さんのチカちゃんって子が描いた絵」
奏多、驚きの表情で雨野を見る。
奏多「娘⁉」
雨野「何でそう思ったんだ?」
奏多「へ?」
雨野「なんで小森奈央が描いた絵だと思ったんだ?」
奏多「ああ……えーっと、」
奏多、少し考え、
奏多「ああ、そうだ。奈央が、保育園の時に持ってきた絵に似てたからだ」
奈央、不思議そうな表情で
奈央「そんなことあったっけ? ぜんっぜん覚えてない」
奏多「あ、そうだそうだ。お父さんに描いてもらったーって、嬉しそうに」
目を見開く雨野と前田。
奈央「あぁ‼ そっか、懐かしいと思ってたら、お父さんの絵にそっくりなんだ!」
すっきりした表情を浮かべる奈央。考え込む雨野。
前田「お父さん?」
奈央「はい。父親が昔描いてくれた絵にそっくりなんです」
前田「今は、描いてもらったりとかしないの?」
奈央「あー……」
奈央、少し寂しそうに、
奈央「なんか、いきなり居なくなっちゃったんですよね。私が3歳くらいのころらしいんですけど」
前田「そうなんだ」
ソファに座る雨野。考え込んでいる。
前田「お父さんのことは、他には覚えてないの?」
奈央「それが、全然覚えてなくって。途中までお父さんがいたこと自体忘れてたんですよね」
前田「なるほど?」
奈央「でも、友達とかからお父さんの話をされるときがあって」
前田「うん」
奈央「その時に、あれ、私のお父さんってだれだろうって思って。で、母に聞いて。その話の内容しか覚えてないんですよね」
奏多「全く覚えてないのか?」
奈央「うん……絵だけは、お母さんが写真撮ってたから見せてもらったんだけど……その写真もいつの間にかなくなっちゃってたし」
前田「なくなった?」
奈央「そうなんですよ。大切にしまっておいたはずなんですけど、いつの間にか消えてたんですよね」
前田「奏多君は、奈央さんのお父さんのこと覚えてないの?」
奏多「見たことないんだよね。参観日にも来なかったし」
不思議そうな表情の奈央。
奏多「なんか、いきなり奈央からお父さんの話がなくなったのは覚えてる……その時変だったのが、周りのみんなも奈央のお父さんの話覚えてないって言ってたんだ」
奈央、訝しげに、
奈央「何? それ」
前田「みんな、奈央さんのお父さんの話を忘れちゃったってこと?」
奏多「うん、そんな感じ」
ソファで考えていた雨野、
雨野「林奏多、お前、俺みたいなやつに会ったことないか?」
奏多「雨野さんみたいなやつ?」
雨野「頭に手をかざしてくるような奴にだ」
奏多、考えている様子。
雨野「じゃあ、小森奈央の父親が消えた頃に不審な人物は?」
奏多「えー……あ、なんか、オッサン? 兄ちゃん? わかんないけど男の人に声かけられたような……?」
雨野の視界。奏多の記憶を透視している。
×××
奏多の記憶。しゃがんでいる奏多を覗き込むように立つ掛田洋一(42)。年齢不詳。
×××
考える奏多。
雨野、奏多から目をそらす。