見出し画像

レビュー「米津玄師/Lemon」


米津さんの楽曲にあっという間に惚れ込み、「月を見ていた」「地球儀」のレビューを書いてきた。

この流れで今回はLemonである。



このLemonという曲は流行に疎い私でも聞いたことがある曲だった。
でも、米津さんの魅力に今まで気づかずにスルーしていた。
時を巻き戻すように、今回聞いてみた感想を書いてみたい。
(※このレビューは、あくまでも個人の感想です。)

この歌は10代〜20代前半の若い恋だろうか。
「愛してた」「忘れられない」「恋」など、直接的な表現が多い。

夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢に見る●
忘れたものを取りに帰るように
古びた思い出の埃を払う

「あなた」への未練
「夢ならばどれほどよかったでしょう」を息継ぎなしで、さらに「ど」と「よ」の間を空けていない。本来の文節からすれば離すのが自然だけど、あえて続けている。また次の文に移るときも間が少ない。未練があるから離れられないだろう。
ここの曲のほとんどの部分がそう。

また、歌い方を極端に表現すると「夢ならばぁどれほどぉよかったでぇしょうー」
全ての言葉で余韻を引きずっている。また、よじれて絡みつくような歌い方や黒鍵部分の音の多用も割り切れない思いが現れているようだ。

さらに、「ど」も「よ」も母音が「O」で、未練の強さレベルもなかなかすごい。偶然かも?とも思えなくないが、他の箇所でも多用されている。↓

夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢に見る
忘れたものを取りに帰るように
古びた思い出のほこりを払う

「ウェッ」について
引用の歌詞で、ウェッの部分を●印にしてみた。
初めに聞いた時は「クエッ」だと思っていて、ガチョウの鳴き声と思っていた(笑)けど、これは頻回に出てくるので自分でもコントロールできない、胃液が上がるようなゲップ、しゃっくり、軽い痙攣なのかもしれない。むせび泣くと、そういう事あるなあ、みたいな。

初めのパラグラフでは●は1回、2つ目のパラグラフは全て
曲の後半はこれは出てこない。
自分なりに、心を整理して行く作業をしているのかな。
でも、まだ払拭できないから、未だに「あなた」を思い出して嗚咽するくらい泣くのかもしれない。

戻らない幸せがあることを●
最後にあなたが教えてくれた●
言えずに隠してた昏い過去も●
あなたがいなきゃ永遠に昏いまま●


なんと、ここは全てウェッ●が登場。
「古びた思い出の埃を払」い、前向きに処理したいが、体はどうしたって反応してしまう。
あるいは、夢に引きずられて自分から思い出してしまうのかもしれない。

「暗い」ではなく、「昏い」と表現している。
暗鬱としたものではなく、黄昏(夕日)を思わせるような温かな思いや切なさを感じる。
「あなた」は「昏い過去」を聞いて受け入れてくれたんだろう。
感謝の思いが溢れる。

胸に残り離れない苦いレモンの匂い
雨が降やむまでは帰れない
今でもあなたはわたしの光

レモンといえば? 
黄色くて、食べると酸っぱい、食べなくても思い出しただけで酸っぱくなる。フレッシュで新鮮。
「私」はレモンの匂いが苦く感じている。

レモンの匂いが苦いとはどういうことだろうか。
嗚咽して胃液が上がってきている比喩?
レモン=あなたとの思い出、あなたと過ごした日、あなたと共有した全てなどと置き換えるとすっと馴染んでくる気がする。
2人の生活でレモンを一緒に育てていて、分かれるときに切ったのかもしれない。


ここはほとんどの語尾の母音が(i)で終わる。
「離れない」、「匂い」、「帰れない」、「光」
否定形と母音の韻を揃えることで、強烈な印象を与える。

そこに加えて、
「レモン」の色と匂い(視覚、嗅覚)
「雨」が降っている(視覚、聴覚)
「光」(視覚)
など五感を刺激する言葉が散りばめられている。

胸に残って離れない、苦しいほどに胸が疼く。
忘れなきゃいけないのは分かっている。
本当は今だってすごく会いたい。
だけどそれは無理だとわかっている。
だからせめて私の心の中、雨(涙)が降やむまではこのままでいさせて。
…みたいな気持ちだろうか。

暗闇であなたの背をなぞった●
その輪郭を鮮明に覚えている●
受け止めきれないものと出会うたび●
溢れてやまないのは涙だけ●
何をしていたの 何を見ていたの
わたしの知らない横顔で

あなたに触れた日々が懐かしい。
だけど、すれ違いは生じていき、わたしはあなたを見ていたが、あなたはわたしと違う方を見ていた。

あんなにそばにいたのに
まるで嘘みたい
とても忘れられない
それだけが確か

「それだけが確か」にウットリ
「あんなに〜忘れられない」はここでも母音(i)の韻を踏んでいる。
「それだけが確か」の音が曲の中で個性的に光っていて美しい。
「とても忘れられない」で昂った思い(音)が、「それだけが確か」の一音一音と共にゆっくり舞い落ちていく葉のような寂しさ、ゆらめきを感じさせる。
「忘れられない」のだが、同時にあなたとの復縁は無理だと分かっていると萎んでいく気持ち。季節の移り変わりのように、時間をかけて風化していくのだろう。


切り分けた果実の片方の様に
今でもあなたはわたしの光

「切り分けた」=鋭利なナイフを連想する。苦しくて、悲しくて、痛い。
「切り分けた果実」はもう元には戻ることはない。
レモンと書かないで「果実」と書くのは韻の問題かもしれないし、アダムとイブの禁断の果実(一般的にはりんごだけど)を意図しているのかもしれない。
「今でもあなたは私の光」今はレモンの鮮やかな色が心象の光に変わっている。

レモンという実体のある物から、形のない光になる。
それは触りたくても触ることのできないあなたであり、思い出(過去)なのだろう。
切り分けた果実は元には戻らないけれど、あなたと愛し合った事実は変わらないし、大事な思い出として心に残っている。
それが私にとっての光(希望)でもある。

最後、歌い終わった後の音。やわらかく優しい光がたゆたっている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?