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初演からのバトンを。    久野那美

※ウイングホットプレス6月号 裏面に書かせて頂きました文章を、
noteにも載せてみます。

ウイング再演大博覧會に初参加する、「トレモロ」さんのご紹介です。トレモロさんは、早坂彩さん演出で、久野那美作「Port-見えない町の話をしよう-」を2024年6月21-23日、ウイングフィールドで上演されます。


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「見逃した芝居は面白い」ウイング再演大博覧會が15年ぶりに行われます。
私も若い頃大変お世話になったプロデューサーの故中島陸郎さん発案の企画です。6月も沢山の素敵な作品が再演されます。

皆様よくご存じの劇団の中にそっと混じっている「トレモロ」という劇団について、そして今回再演大博覧會に参加することになった経緯についてお話させて下さい。

トレモロさんは、2011年の結成以来、東京で継続的に活動を行なってきた劇団で、30代の演出家・脚本家の早坂彩さんが一人で主宰・運営されています。
早坂さんは、2015年に利賀演劇人コンクールの優秀演出家賞二席・観客賞を受賞(同年優秀演出家賞一席は山口茜さん)、その後青年団に入団して活躍の場を広げ、利賀、豊岡、京都(THEATRE E9 KYOTO)、東京(こまばアゴラ劇場)でツアー公演を行い高評価を得る等広く活躍しておられます。
そのトレモロさんが、今年から劇団の拠点を阪神間に移され、関西で新スタートを切ることになりました。関西から東京へ進出する劇団は多けれど東京から関西への移転は珍しく、ほぼ丸腰でやって来られたトレモロさんは人脈も知名度もまだ殆どない関西での今後の活動について悩んでおられました。

一方、私は再演大博覧會にお声掛け頂いたものの、予定が上手く合わず断腸の思いでお断りする所でした。

ふと、「私の戯曲をトレモロさんに再演して頂いたらどうだろうか?」と思いつきました。
『Port-見えない町の話をしよう-』という神戸及び阪神間の土地と歴史を描いた戯曲があるのですが、東京から拠点を移されてこれから阪神間(関西)で活動していこうとしている劇団さんが関西への挨拶代わりに上演してもらうことで面白くて豊かな事が起こる様な気がしたのです。演劇は面白くて豊かな方がいいに決まっています。新しい団体を関西に迎え入れるのにとても素敵な機会だと思いました。

早坂さんはウイングフィールドのことは以前からご存じで、「ぜひやりたいです。東京と大阪の俳優・スタッフを混在させたチームを作ります」とプランを立てて下さいました。俳優同士の交流もできるし、東京の俳優やスタッフにウイングを知ってもらう機会にもなります。ウイングフィールドさんに、「こういうイレギュラーな形の再演でも構わなければ、ぜひ参加したいのですが」とご相談しました所、丁寧に時間をかけてご検討下さり、参加を認めて下さいました。

『Port-見えない町の話をしよう-』は初演が2017年、大阪ガス㈱主催の朗読劇シリーズ「イストワール」の神戸版として、また、「港都KOBE芸術祭」連携事業として、脚本・演出久野那美で神戸で上演されました。
時代の変化の中で失われていった神戸の港の熱気について後世に語り残す物語になる予定だったのですが、私自身の偏屈な我儘により違った物語になりました。
何かが失われていく時には同時に何かが生まれている筈で、どちらか一方に熱を込めて語る事は何かを覆い隠して見えなくしてしまう様な気がして…良い形で中立的に描くことが私には難しかったのです。
悩んだ末に、「時代を30年とか50年単位で考えない」事にしました。
30年単位で考えるから過去と未来を比べてしまうのであって、土地に流れる時間を100万年単位で捉えれば、「本当は」何があって何がなかったのか実は誰にも分らない事が表面化するし、時代は良くなったのでも悪くなったのでもなく、「良くなったり悪くなったりを繰り返して来た」のだという事になります。それは、私が出身地である神戸という町に対して抱いていたイメージとも一致します。そういう訳で、『Port-』は神戸の町を100万年単位で(必然的に寓話的に)描いた作品となりました。神戸の100万年は幕末も港の変遷も震災も通り抜けてきた筈ですが、劇中に固有名詞は一つも出てきません。

『Port-…』の中に、「生き物は、知りたいと思う先の事を知るちょっと前に終わる様にできている。それは次の人が知る。次の人が知りたかった事はその次の人が知る。生き残るってそういう事」という台詞があります。
一つの作品が生き残っていくという事も、そういう事なのかもしれません。
生き物は、同じ作品を永遠に上演し続けることはできません。私が匣の階の上演の際にみつけられないまま終わった物がきっとある筈ですが、それは、次に上演するトレモロさんやそれを観る観客が見つけてくれるのだと思います。さらにその時にみつけられなかった物は、その次に上演する人やそれに立ち会う人が…
そうやって演劇作品は生き残っていくのだと思います。今回、他の再演作品もスタッフや出演者の一部が新しい人にバトンを渡しての上演になっているかもしれませんし、劇場や観客が違っているかもしれません。それはとても素敵で希望の持てる事です。「再演」という形で伝え残せる、演劇ならではの希望です。ぜひ皆さまも初演からのバトンを受け取りに、ウイング再演大博覧會に足をお運び頂けますと幸いです。

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久野那美
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