ペイフォワード。文化庁継続支援事業について。
多くの演劇人が、自分以外の若い・助成金申請に不慣れな芸術家人のために、手弁当で協力をしています。この助成金が、個人ではなく演劇界ー芸術界全体を救う趣旨のお金だからです。「自分自身のギャラは出せない」というこの助成金の設計は、「不正受給を防ぐ」というのがそもそもの趣旨であったとしても、この際前向きに、創造的に受け取るべきだと思います。つまり、これは、「自分以外の誰かの」ギャラを払うために使えるお金なのです。
小劇場の世界は、全体のお金がなさすぎることがそもそもの理由ですが、その事情の上に、習慣的に市場原理ではありえない低額な報酬または無償で技術や時間がやりとりされています。でも、私たちが演劇を通して世界に提供している技術や時間は本来、他の技術や労働と同様に金額換算できてもいいものであるはずです。
わかっているけれど、でもお金がないからどうしようもない。それをお金のない個人間で解決しようとしても、解決しない。個人間で解決しようとすれば、構造の矛盾に敏感な者から順番につぶれていき、状況はさらに悪くなります。
でも、それを解決できるかもしれないお金を、今回、国が出してくれようとしている。芸術界で経済を回すための助成金です。
国から誰が受け取るかはたいした問題ではなく、今後の芸術界やいまお金に困っている芸術関係者に回すことのできる誰かが受け取って仕事と引き換えに自分自身の創作にとって必要な芸術家に配る。このお金で、共演者やスタッフにギャラを払うことができる。歩かなくても電車で稽古場へ行くことができる。よりよい作品をつくるための資料や材料を購入して、「観客にとって」より質の高い作品を作ることができる。劇場を借りることでその劇場が閉鎖するのを防ぐことができる。
「自分は、創作に必要な本や資料を買う資金に困っていないからいらない」
という人も、助成金貰ってもっとたくさん買えば、その資料を創った他の芸術家が潤う。特に、都市部ではないところで活動する人たちが助成金をもらえば、そして使えば、地域の芸術まわりの産業も潤う。(劇場、書店、資材店、機材販売店…)
創作することは消費ではなく生産であるという意識を持ちたいです。
芸術家が創作に必要な本を買うのは、機材を買うのは、劇場を借りるのは、個人の楽しみのためではなく、良い作品を世の中に提供するためです。
個人のためではなく、芸術のため、ひいては、芸術を必要とする人たちのため、芸術を必要とするひとたちの生きる世界のためです。
だから、多くの芸術家が、コロナ禍で自分の創作に忙殺される中、直接自分の得には全くならないたくさんの時間と労力を使って、
「そういうこと(創作の場を求めていて、経済を回し、文化芸術に役立つこと)ができる」人に協力を呼び掛けています。
誰かひとりに協力すれば、その人がまた周りの人を助けることができるので、できるだけ、ハブになりそうな人に最初に協力をしたい。
とはいえ、だれでも無条件に申請できる助成金ではないので、限定された権利を持った人はがんがん手を挙げて受け取るべきだと思います。誰かが「あなたはもらったほうがいい」と協力を申し出てくれた時、可能ならその支援を受けてあげてほしいです。つまり、その人を通して芸術界に協力してほしいと思うのです。自分にとって決してマイナスにならない方法で世界を救える機会なんてそうそうないですから。
「自分はプロなのだろうか?」「自分には助成されるだけの能力や資格があるだろうか?」と悩むステージに立ち止まって躊躇している人は、(芸術家にとって難しい事ではありますが)、いったん、その自意識を捨てましょう。
それを考えたい気持ちはわかりますが、今それは、わりとどうでもいいことなのです。これは、あなただからもらえる助成金ではなく、一定の基準を満たしてさえいれば誰でももらえる助成金です。選ばれたひとりとしてではなく、くじに当たったひとりとして、当番のようにお金をうけとり、芸術界がうまくまわるようにそのお金を回す。
わたしはそういう風に考えています。当たりくじ持ってる方、申請しましょうよ!
期限は、2020年12月11日です。