ゆうびんの話
白山羊さんはある日。手紙を食べずに封を開いた。
そんなことは初めてだった。
どうしてそんなことをしようと思ったのか、
ぜんぜんわからなかった。
はじめて開いた手紙は干し草の香りがした。
「さっきの手紙のごようじなあに。」
几帳面な小さな文字がならんでいた。
あの日。
白山羊さんは黒山羊さんに手紙を書きたかった。
どうしてもどうしても手紙を書きたかった。
だけど何を書けばいいのかわからなくて、
考えている内に、なぜだか「さようなら」の手紙を書いてしまった。
どうしてなのかわからなかった。
だけどどうしても。
どうしても黒山羊さんに手紙を届けたかったので
「さようなら」の手紙を出してしまった。
次の日。
黒山羊さんから返事が来た。
「さようなら」に返事が来た。
白山羊さんは困ってしまった。
どうしていいのかわからなくて。
途方に暮れているうちに、食べてしまった。
仕方がないので返事を書いた。
「さっきの手紙のごようじなあに。」
あれから気の遠くなるような時間が過ぎ。
気の遠くなるような数の手紙がふたりの間を行き来した。
はじめて開いた手紙は干し草の香りがした。
「さっきの手紙のごようじなあに。」
几帳面な小さな文字がならんでいた。
白山羊さんはちゃんと覚えていた。
さっきの手紙のごようじ…「さようなら」
の手紙を書いた。
黒山羊さんは今日。手紙を食べずに封を開いた。
そんなことは初めてだった。
どうしてそんなことをしようと思ったのか、
ぜんぜんわからなかった。
はじめて開けた手紙は干し草の香りがした。
「さようなら。」
几帳面な小さな文字がならんでいた。
KIKIMIMIシアター第7話『ゆうびんの話』はこちらから
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