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登場するもの: 時計 時計屋 時計 調子が悪くなったので、なおしてもらうことにした。 針の先がなんだか重いし、ねじのところはぎしぎし言うし。 ときどき息切れもする。 最近。時間が経つのが妙に遅くなったのは、きっと気のせいじゃない。 うすうす気づいてはいたんだけれど、認めるのが怖かった。 だけどついに、ごまかしきれなくなってしまった. 修理に出かけることにした。 時計屋 (脈を取る)
作・ 久野 那美 その頃うさぎは走っていた 長い耳をぴんとたてて あとあしで地面を蹴って。 風の中を走った 雪の上を走った ぬかるみの中を走った どこまでもどこまでも走った 行かなくちゃ。もっともっと遠くまで。もっともっと、もっともっと遠くまで。 雨をよけて走った 川に沿って走った 地平線を越えて走った 地球を何回りもして 小さな足跡をたくさん残して 空気は冷たく 地面は固かった 鼻先をかすめていくやわらかい風
作・ 久野 那美 足音が近づいてくる。 一本道を。男が歩いてくる。 歩く男 (N)ふと足と止めて見渡すと そこはただっ広い牧草地だった たくさんの羊がひしめきあう音・・・ そして・・・ざぶん。バケツで水をかける音・・・ 洗う女 ごめんなさい。かかっちゃいました? 歩く男 ・・いえ。大丈夫です。 洗う女 すいません。(と言いつつもごしごしと擦っている) 歩く男 すごい数ですね。(羊を見渡して) 洗う女 え? 歩く男 羊。 洗う女 ああ。そうで
作・ 久野 那美 ラジオのチューニング きゅいーん きゅるきゅるきゅる・・・・電波の乱れる音 耳の痛い雑音 ときどき断片的に聞こえてくる音や言葉の数々・・突然だったり とぎれとぎれだったり 雑音の中に紛れていたり・・・やがてチャンネルが合う。ひとつづきの言葉が浮き上がってくる ときおり雑音にけされそうになりながらでもはっきりと意味を持つ言葉として・・・・。聞こえてくるのは音楽と低い笑えるくらい芝居がかったノリのいいDJの声 あか抜けない古くさい台詞・・・ 男
登場するもの: 男 女 女 子供の頃。誕生日は特別だった。 ひとつ年をとるたびに世界はひとまわりずつ大きくなっていったから。 365日のうちの1日がほかのどの日とも違う特別な日で、 それは私にとってだけ特別な日で、 その日が特別な一日だということをみんながちゃんと覚えていてくれる。「おめでとう」という言葉とささやかなプレゼント・・・。。 だけど世界がどんどん大きくなって、もうそれは以上大きくなれないほどにふくらんでしまっても。それから後も特別な日は毎年必ずやってき