加害者はなぜ暴力をふるうのか〜価値観の歪み
「夫は、気に入らないことがあるとキレてしまい、暴力をふるいます。夫は病気なのでしょうか? やさしいときもあるし、子どももいるから離婚を決断できません」という相談がよくあります。
暴力(身体的暴力に限らない)という、相手を威圧し脅し傷つけ支配しコントロールしようとする行為を、なぜ加害者が選ぶのか? それは加害者が病気(精神疾患)だからなのでしょうか? 精神疾患なら仕方ない、その人を責められない、ということになりますが、はたして、DVは精神疾患が引き起こすものなのでしょうか?
では、精神疾患のある人がみんな暴力をふるうでしょうか。もちろん、そんなことはありません。また、妻や子に暴力をふるっている夫が、会社ではまったくそういう面を見せないということがほとんどです。そう考えると、DV加害者のほとんどは精神疾患ではないことがわかります。また、DVは、その人がやめようと思って努力すればやめられることであり、やめられる人も実際います。
DVは価値観の歪みによって引き起こされる
DVは、その人の「価値観=考え方」の歪みによって引き起こされるものです。
DV加害者の多くは、「男はこうあるべき」「女はこういうもの」という考え方(ジェンダー観)をもっています。「夫は外で金を稼ぎ、妻や子を養うもの」という考え方が、だんだん「だから、妻や子は夫に従うのが当たり前」という支配的かつ歪んだ考えになっていくのです。加害者は、家庭という密室の支配者であり続けるために、意図的に暴力を用いるようになります。
また、そうした加害者は、何か問題が起きたときや困難に陥ったときに、「暴力で解決するもの」という考え方を持っていることも少なくありません。何か問題やトラブルが起きたときに、冷静にそのことを受けとめ考え、他者に相談したり、話し合ったりして最善策を見いだすという習慣を身に付けてこなかったのです。こうした考え方は、成育環境からも大きな影響を受けています。
子どもの頃から、父親が母親に日常的に暴力をふるっているのを見て育ったり、自分も虐待を受けて育ったりすれば、その家庭は暴力で物事が決まる家庭になります。話し合ったり相談したりするのではなく、強者が弱者を力で押さえ込むコミュニティになります。その中で育てば自ずとそうなってしまうのです。学び直しが必要ですが、それはなかなか大変なことです。
自分の暴力性に気づき、苦しむ加害者ももちろんいます。長年やってきたことをやめるのはかなり大変ですが、克服する人もいます。夫と妻双方がその克服の過程に価値を見いだし、お互いが対等な関係性を保ちながらできるなら挑戦してもよいと思いますが、それにはかなりの応援団と時間とエネルギーが必要です。
それならば、まずは加害者から離れ、暴力に怯えなくてすむ、安心安全な生活を得ることが先です。被害者である妻が鬱病等の精神疾患にかかる前に離れることが必要です。暴力からはまずは逃げること、離れること。そして自分の安全を取り戻してから、その先を考えるようにします。暴力に巻き込まれると暴力を暴力とも思わない、DV被害者である自覚すら持てなくなります。
怖い!と思ったらすぐ逃げること。離婚云々は、逃げたあと、自分を取り戻してから考えればよいことです。(Jikka代表・遠藤良子)