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孤高のゴームリー像に会いにいこう。
冬の晴れた日こそゴームリー像
五辻不動からの眺めは格別だ。国東でも指折りの景色ではないかと思う。空気が澄んでいる冬の晴れた日の景色は特に圧巻だ。瀬戸内海に浮かぶ姫島がくっきりとみえて、遠く四国や瀬戸内海の島々まで見渡せる。海から吹き上げてくる風は冷たいけれど、それを超える感動がある。
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五辻不動に行く途中で出会えるのが今日の本題である「ゴームリー像」だ。崖に立つその姿は、まさに孤高を絵にしたようでもある。その瞳には何が写っていますか?何を思っていますか?と尋ねてみても、もちろん返答はない。でも、隣に立って一緒に景色を眺めていると自然と心が落ち着いてくる。冬の澄んだ空気の中だとより心が洗われて透明度が上がっていく。そんな感じがする。だからこそ、ゴームリー像に会いに行くなら、冬の晴れた日がおススメなのだ。
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そもそもゴームリー像ってなんだ?
ゴームリー像は、2014年の「国東国際芸術祭」の開催にあわせて、この地に設置された。「国東国際芸術祭」には、国内外の25組以上の現代芸術作家が参加し作品を残している。今では、これらの作品群は国東半島のレガシーとなっているが、中でも、このゴームリー像は、もっともシンボリックな作品と言える。
ゴームリー像の正式な作品名は「ANOTHER TIME XX」という。実は、この像は、作者のアントニー・ゴームリー氏が自身の体を精密にかたどって作成された作品である。
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1970年にインド仏教を学んで以来、彼は、自身の体をかたどった鉄製の人物像を造り続けており、国東の崖の上に立つ「ANOTHER TIME XX」もそのひとつ。1950年にロンドンで生まれたアントニー・ゴームリ氏は、世界的な賞の受賞歴も多く、大英博物館の理事を務めるなど世界的に著名な現代芸術家である。「Angel of the Earth」という彼の作品をみたことがあるという人も多いかもしれないが、鉄製の人体像をベースにさまざまな表現を行っているのが特徴と言える。
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日本では東京国立近代美術館や東京オペラシティでも彼の作品が展示されているが、やっぱり「崖の上のゴームリ―」を現地で味わってほしい。1度じゃ、その魅力は味わいきれないので、四季折々の、様々な天候の、そして様々な時間帯のゴームリ―像を味わってほしい。
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国東版プロジェクトX「ゴームリー像を救ったチーム国東」
ゴームリ―像には隠れた秘話がある。しかも、それはプロジェクトXばりの感動物語なのだ。
ゴームリ―像は、当初ヘリコプターでの設置が予定されていた。壊してはいけないので芸術作品の設置には細心の注意が払われる。しかし、鉄製のゴームリ―像は630kgもあり、風にあおられてなかなか安定せず、設置が困難を極める。そして、いろいろな策を練ったが危険を取り払えず、ヘリコプターでの設置は断念される。
そこで立ち上がったのが、地元の「シイタケ農家」さんと「建設業者」さん、「釣り愛好家」さんを中心に構成されるチーム国東。生業や趣味で長年培ってきたノウハウを総動員して鉄製の像の設置が試みられることになった。
なんと設置に活かされたのは、シイタケの運搬を支えてきた索道技術。まず、釣り愛好家さんがポイントまでワイヤーをピンポイントで投げ、索道施設を建設業者さんが組み上げ、シイタケ農家さんが架線運搬するという、チーム国東の見事な連係プレイで、難工事を成功に導いた。近代科学技術の粋を集めたヘリコプターを凌駕する、地元の技術力、実に恐るべしである。
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この設置物語にはもうひとりの主役がいる。それが、運搬試験に使われたゴームリ―像のダミー人形「Dummy XX(通称ダミーちゃん)」。今は、役目を終え不動茶屋脇の斜面にひっそりとたたずんでいるが、その姿がなんとも愛らしい。
ダミーちゃんは、試験運搬用のためだけに作成されたコンクリート製の700kgの人形だ。あんなに精密にかたどられた本家ゴームリ―像とは対極にある出で立ちだけど、パーマンのコピーロボット並みの、いやそれ以上の働きをしたと言える。
1回目の運搬試験では、300kgの水タンクで運搬方法を確認し、2回目の大雪が降る日にダミーちゃんが登場。悪天候の中で運搬を乗り越え、3回目の本番で見事に成功。このプロセス自体が芸術作品ではないかと思えてくる。ぜひダミーちゃんを主役とする感動物語を作品と共に味わってほしいと思う。
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ゴームリ像ーへの訪れ方とおすすめの過ごし方
ゴームリ―像へは「不動茶屋」を目指してお越しください。不動茶屋の駐車場にある公衆トイレの脇から山道を5分ほどのぼると、ゴームリ―像に会えます。途中、岩場などがあるので、滑りにくい靴や動きやすい格好で、安全に気をつけてお越しください。
暖かい飲み物を持参すると寒さをしのげるのでちょっと長くゴームリ―といられます。不動茶屋で野点でお茶やコーヒーを入れるのも趣があります。
(国東鬼太郎)