家⑳ 祓う
※注 最初の部分は今までのまとめです。不要の方は💠マークまでとばして下さい。
2005年12月、(娘が幼稚園の年長の頃)今住んでいる家に越してきてから、ずっと怪異に悩まされてきた。
今からおよそ9年くらい前に霊能者(Yさん)に視てもらったら、原因は隣家だと言われた。隣家は霊が集まりすぎて、霊能者のYさんには隣家が真っ黒に視えるとのことだった。その集まった霊が我が家の二階のトイレの窓から入ってきて、階段を伝って一階に降りてきているとのことだった。
Yさんは、隣家は危険すぎて祓えないと言った。
昼夜を問わず聞こえてくる、隣の家の奥さんの唸るような歌声。その声は普段の奥さんとはまるで違う、男の人の声だ。それも憑いている男の霊に歌わされているとのことだった。
その後も我が家では様々な怪現象が起きた。
本当に嫌だった。
引っ越した方がいい。
助言されるたびに思った。
そんな簡単なことじゃない。
家を買うというのは一生に一度、あるかないかの出来事だ。数千万円のローンを抱えたまま、家を出ていく勇気なんてない。それでも考えてはみた。
主人の実家に入ることも考えた。でも上手くいかなかった。
二階のトイレの窓から入ってくるモノについて、Yさんから窓に盛り塩を置くことをすすめられた。
盛り塩を置くことで、悪いモノが入ってこれなくなるとのことだったが、効果はなかった。
家⑨の出来事のあとくらいから、トイレや洗面所、お風呂(隣家の庭に面した処)に夜遅くにいると隣家の庭から砂利を踏みしめる音が聞こえるようになった。実はこれ、以前から聞こえていたが、私はずっと奥さんの足音だと思っていた。もちろん奥さんの足音の時もある。奥さんの足音の時は奥さん自身が庭にでるためにシャッターを開けるので、室内の明かりが窓ガラス越しにもれて容易に判別がついた。
ある時私たち夫婦は家で起こることを、夫の血縁者に話した。するとその人も怪現象に悩んでいると言い、Yさんに視てもらいたいとのことで、私たちはA子ちゃんのママ(私達にYさんを紹介してくれた人)に伝えた。
だがこれが金銭トラブルに発展し、最初にA子ちゃんのママとYさんの関係が悪化した。
A子ママは別な霊能者(女性)を見つけ、今はその人についている。私たち家族はその女性霊能者が勧めてくれたお寺に通うようになった。その後私たちもトラブルに巻き込まれA子ママと連絡を取り合わなくなった。(この出来事は別な機会に話したいと思っている)
その後は年に一度の割合で御寺に相談に行くようになったが、怪異は治まるどころか益々ひどくなっていった。
御上人は最初、水の障りではないかと言ったが、会話が進むにつれて狐が関わっているのではないかと感じた様だった。私たちも怪異以外に争いが多い気がして、狐と言われればそうなのかもしれないと思った。実際、調べてみたら主人の家系に稲荷を祀っていた人がいたとのことだった。
御上人の勧めもあって時々、稲荷神社に参拝する様になった。
だが怪異がおさまることはなかった。
他に祓える人を探したが、信仰宗教の勧誘ばかりだった。
A子ママのこともそうだが、信じられないようなことが次々と起こり、私は人間不信に陥っていた。何もかもが嫌になっていた。
そして私は、玄関のドアの向こう側に何かがいるような気配を頻繁に感じるようになり、愛犬もドアの方に向かって唸り声をあげることが多くなった。
隣家の庭で聞こえてた足音は我が家を侵蝕していき、越してきた当初、幼稚園児だった娘が高校生になった頃には、我が家をグルグルと廻るようになっていた。
この頃になると、もう祓うことはできないんだろうなという気持ちになっていた。
救いなのは怪異が生命を脅かす類いのものではないということだった。
断言はできないが、今のところ誰も生命を奪われていない。その事実だけが救いだった。
💠
祓うことは無理かもしれない。でも同じような経験してる人がいるかもしれない。
そんな思いからネットを検索するようになった。
それまで興味のなかったTwitterも覗くようになった。
体験談を投稿している人で霊能者の話をしている人に、助けてほしいとDMしたこともあった。
当然、返信はなかった。こっちは藁をも掴む思いだったが、相手にしてみればただの不審者でしかない。
その後、私はblogを開設し我が家で起こる怪異を投稿するようになった(現在はnoteに移行。一部を怖話サイトにも投稿している)。
同時に心霊系YouTubeを閲覧するようになった。
前向きな考えではないが、世の中には我が家よりも恐ろしい出来事があることを知るということは、自身の安心になっていた。
祓うことはできない。そう思いながらも、どこかに解決の糸口があるかもしれないという希望も捨てきることができなかった。そんな私を子供たちは冷めた眼で見ていた。
家⑲に書いたが2〜3年前から夫の様子がおかしい。我が家の中では霊感のある娘が一番怖い思いをしていると思うが、誰よりも怪異の影響を受けているのは夫ではないかと思っている。
2〜3年くらい前から入浴中に夫が奇声をあげるようになった。驚いて浴室を覗くと夫はキョトンとしている。奇声をあげたことに気づいていないようだった。浴室で大きな声を出して喋っていることもあった。喋っていることに気づいていることもあれば、そうでないときもあった。気づいているときは、ちょっと考え事をしてたと言った。
同時期に夫は洗面所の鏡の前で喋るようになっていた。
奇声や独り言を問うと、不機嫌になるので最初は我慢していたが、鏡に向かって話しているのは不気味だった。
私は夫が不機嫌になるのを覚悟で、鏡に向かって喋るのだけはやめた方がいいと止めた。
以来気をつけているようだが、完全に止まることはなかった。
この事だけでも恐ろしいのに、それにプラスして夫の真似をするモノが現れ、不安になってきた私は再びお祓いをしてくれる人を探した。
今回はYouTubeで活躍されている、降魔師の阿部吉宏先生(以降、阿部さんとさせていただきます)にお願いした。
鑑定を依頼する際、引越ししてきた当初から怪異に悩んでいることと、一度霊能者(Yさん)に視てもらったこと、その時原因は隣家と言われたことを伝えた。そして最近は夫の真似をするモノがいて、私と娘が目撃していることを伝えた。
鑑定はリモートで行った。
令和4年9月2日。
家で起こる怪異を説明。
阿部さんは原因は隣家だけではなく、稲荷も関係していると言った。
「隣の家、首つってる人いますよ」
初耳だった。
以前、隣家の二階の小さな窓に人影を見たと言った人がいたけど(その人影は隣家の家族ではなかったらしい)
首をつった人ってその人かな?とふと思った。
隣のモノは我が家の玄関口にいるときもあれば入り込んでいることもあったようだ。
稲荷に関しては、夫の一族に稲荷を祀ってた人がいると聞いているので、それかなと思った。
(注1 きつねのはなし<其の七>)
今回の鑑定は夫には内緒にしている。
私や娘が夫の真似をするモノの話をすると、夫は不機嫌になるからだ。
夫の真似をするモノ。これこそ狐の仕業だそうだ。
〜狐は人を化かすんよ。じゃけぇ気ぃつけんさい〜
これは生前、私の母が言った言葉だ。
夫の真似をするモノ、私はそれは以前、夫と聞いた隣の奥さんの真似をするモノと同じモノではないかと思っていた。(注2 家⑨)
でも夫の真似をしているのが狐なら、奥さんの真似をしているモノとは別なのか…? それとも狐が私たちを怖がらせるために、奥さんの真似をしていたのか?
実際、奥さんが出す物音は我が家のトイレからしか聞こえてこなかった。
阿部さんに尋ねるべきだったのだろうが、頭が混乱してたのと、このあとの阿部さんの一言ですっ飛んでしまった。
リモート鑑定時、私は階段を背にしていた。理由は
(注3 家⑱廻る怪異<写真>)にあります。(ごめんなさい。全部説明すると長くなるので…)
阿部さんが私の背後を見て笑った。
「実は後ろに女の姿をした狐いますよ」
それを聞いて、私は慌てて振り返った。当然私には視えない。
私は以前娘が階段に女の人が立っていると話していたことと、一階の和室で子供たちが視た女とiPadに映った女の話をした。
(注4 家⑰)
もしかしたら同じ狐かもしれません。
阿部さんは言った。
階段の横で柏を叩くような音を聞いたことがあったが、
「柏を叩く音が聞こえたのは、神様だからですよ。稲荷を祀れば全てが良い方向に向かいますよ」
阿部さんの言葉に私はうなづくことは出来なかった。
夫の一族で昔、稲荷を祀ってた人がいたらしいが、現在その稲荷がどうなったかは不明。もしこれが原因なら、稲荷を祀るべきなのかもしれない。でも稲荷を祀ってその後、私たちが死んだらその稲荷はどうなるのだろう。
同じことの繰り返しになるのではないからという不安をぬぐいさることができない。
「そろそろ始めましょうか」
私の不安に気づいたのか、阿部さんは答えを待たず、お祓いを始めた。
ああ
真言なのかな? とても長く感じたが、時間は20分くらいだったと思う。その間私や家にこれといった変化はなかった。強いて言えば首が火照って汗をかいたくらいか…。
終わったあと、阿部さんは
「大丈夫そうですね。全部引きずり出せました。稲荷は祀らなくても大丈夫です」
引きずり出す…?神様を…?
正直、私は阿部さんの言葉をとても恐ろしく感じた。
でも言葉とは裏腹に阿部さんは爽やかな笑みを浮かべている。
「隣家はご依頼を受けていないので、祓うことはしませんが、◯◯さん(我が家)の敷地には入り込まない様にしました」
阿部さんは言った。時間が余ったので、幾つか質問をした。
(注5 家⑫)
この、和室で見た龍神について、阿部さんは言った。
「それは龍神ではなくて、縄ですよ。ギシギシ音がするのはそのせいですよ」
隣家の首を吊った霊の縄らしい。言われてみたらそうなのかもしれない。龍神の顔みてないし。
なんか、投稿したの、すごく恥ずかしくなってきた。
まぁ龍神に怨まれるよりは隣家の首を吊った人の縄の方が危険度低そうだからよかったかもしれない。
私自身は後ろに女の狐がいるって言われたところから冷静ではいられなくなってしまって、聞きたかったことの半分も聞けずに終わってしまった。この女の狐も私に憑いているのか、階段にいるのか聞けなかったし。
このあと、夫の実家にある、人を斬っている刀について尋ねた。
以前お世話になった霊能者のYさんからは、その刀は人を斬ってるから手元に置かない方がいいといわれていた。だかどうすればいいか分からず押し入れにしまっていたそうだ。
今回鑑定、お祓いを受けた阿部さんは反対の意見だった。
「確かにその刀は人を斬ったかもしれないけれど、その時は持主を守ったんですよね。なので手放さないで大事にした方が良いと思います。でも人が死んだのは事実なので、死んだ人は供養してあげてください」
鑑定が終わってから数日後、私は夫に今回のことを話した。最後まで黙って聞いていた夫は、沈黙のあと重い口を開いた。
「あの、黒部ダムに行ったときに聞いた隣りの奥さんの足跡さ、お前が奥さんだって言ったからそうなんだと思ったけど、本当は首吊り自殺した人が、あそこで首を吊ってる音だったんじゃないかな。同じことずっと繰り返してたけど、自殺した人って死んだあとも同じこと繰り返すっていうじゃん」
(以下 家⑨より一部抜粋)
「シャーシャーと網戸を拭いたあと、砂利を踏みしめ物干し竿に近寄り、竿を拭きながら右から左へ移動する音。そして少しの静寂のあと、再び始まるシャーシャーと網戸を拭く音と砂利を踏みしめる音。それらは一定のリズムで繰り返し聞こえてくる。何度も何度も繰り返し……」
最初の網戸を拭く音が夫にはビニール袋を触る音に聞こえたらしいが、私が網戸を拭く音だと言ったので、そうなのかと思ったそうだ。
私にはあの時の音は、昼間隣りの奥さんが掃除をする音にしか聞こえない。でも、袋から縄を出し縄を何処かに結びつけて首に縄を縛りつける……。想像するとそんな音に聞こえなくはない。
それよりも、鑑定の後で気づいたのだが、阿部さんが言っていたギシギシと音がするって……。
私、一度も聞いたことないし、そんなこと言ってないし……。
阿部さんにはずっとその音が聞こえてたのかな?
それが怖い。