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漫文駅伝特別編 『アル北郷人生挽歌~続きを待てずに』㉒ アル北郷

前回までのあらすじ。

95年の秋。憧れの“殿”の元へ弟子入りを直訴したわたくしは、同じ日に弟子入りきていた、全くの他人、小林&原田と、翌日より、見習い期間といった感じで、ダンカンさんの付き人になったのです。が、見事なポンコツでミスを繰り返した結果、罰的な意味で、当時、一大ブームを巻き起こしていた、「猿岩石・ユーラシア大陸ヒッチハイクの旅」のパロディとして、芸名を「犬岩石」と命名され、無一文で宮崎県まで行って帰って来る、ヒッチハイクの旅に出されたのです。

東京の新中野から始まった、わたくしのヒッチハイク旅は、なんとかトラックを乗り継ぎ、名古屋へ到着。
そこで、諸々ありまして、なぜか店舗型ファッションヘルスにて、衣食住をお世話になる代わりに、働く事となったのです。

男のワンダーランドのその店舗にて、わたくしが任された仕事は、店内に併設されていたバーでのバーテンダー。
お客様が指名した女の子を待つ間、時間を潰すため待機するバーです。
店の制服を着て「犬岩石」と書いたたすきをかけ、時にはシェイカーを振り、モスコミュ―ルなんかを出し、お客様とお喋りをして過ごす仕事。そんな仕事を続けて一週間程した頃、店に突然、ラッシャー板前さんが客として現れこちらを驚かせると、その数日後には、東京からガタルカナル・タカさんもやってきたのです。まさに、スケベある所にたけし軍団あり。

とにかく、そんなこんなで宮崎まで途中の寄り道で、名古屋で働いていたわたくしだったのですが、この寄り道を、気に入らない方が居たのです。それは、このヒッチハイクの旅の提案者、ダンカンさんです。
説明します。
わたくしとヘルスで会ったラッシャーさんが、東京へ帰り、「北郷が名古屋のヘルスで働いていた。それも楽しそうに働いていた」とダンカンさんにお伝え。それを聞いたダンカンさんは、ヘルスにて、衣食住も保障され、綺麗な女の子に囲まれ、一向に名古屋を出ようとしないわたくしを、
“あいつ、罰として出した旅で、なにを楽しんでいるんだ。それにいつまで名古屋に居る気なんだ?” といった思考になり、電話にて「すぐにそこを出ろ!楽な方へ行くな!」とお叱りを受け、名古屋を出ることとなったのです。
が、当たり前ですが、全く名古屋から出たくはありませんでした。

季節は11月。寒空の下、僅かなお金しかなく、いつ捕まるとも分からないトラックを探し、ヒッチハイクをするのは本当にユウウツで、出来ればやりたくない。

それに、次、どこにたどり着いたとしても、名古屋のように働かせてくれる場所など、運よく見つかる気もしないわけで、つくづく旅の再開を躊躇するわたくしでした。

そうは言っても、出なくてはならない。
渋々、ヘルスの社長に「お世話になりました、そろそろ、次の旅へ向かいます。ここを出ます」と報告を入れると、「うちの店には、車で大阪方面から来てるお客さんも多いから、お客さんに声をかけて、お願いして乗せていってもらいなさい」と、ナイスなアイデアを提案されたのです。
で、さらに、“東京からヒッチハイクで来た、ヘルスで働く犬岩石”を面白がってくれた、名古屋の風俗情報誌がいくつかあり、取材を受けていたのですが、その時知り合ったカメラマンの方が、「もし京都に行く事があったら、ここに連絡してみるといいよ。ここの社長、面白い人だから、なんかしら協力してくれるよ」と、京都のある人物の連絡先を教えてくれていたのです。

そんなこんなで、早々にその日の夜、来店するお客様に声をかける作戦をスタート。
が、内心は、「そんなに簡単に大阪から来ていて、しかも車に乗せてくれる客なんていないだろうな」と思いながら、夜8時過ぎ、受付を済ませ、女の子とのプレイを待つ間、バーに入って来た、若い二人組のお客さんに、飲み物を出したあと、なぜわたくしが「犬岩石」といったタスキをかけ、ここで働いているのか、そんなトークを座談交じりに展開し、早速に「次は大阪方面を行きたいので、今、乗せてくれる車を探してるんです」そう告げると、二人組の一人が、「俺たち大阪に帰るで。だったら、乗ってけばえーやん」と、あっさりと待っていた答えが返ってきたのです。

そこから先はもうバタバタでした。
乗せてくれる二人が、プレイルームで女の子のサービスを受けている45分の間、お世話になった、社長、従業員、バイトの方々に別れの挨拶をして、荷物をまとめ、いつでも出れる準備をしてバーで待機。
いつだって別れは突然やってくる。

大阪まで乗せてくれる二人組が、プレイを済ませ戻ってくるまでの僅かな時間、わたくしは名古屋の地での2週間に及ぶ体験を、諸々と思い出していた。

5年勤めたナンバー1の女の子が風俗をあがり、辞める送別会に参加してはしゃいだ夜。
休憩時間、ヘルスの個室で、スケベ椅子をまくらに仮眠をとった昼。店が終わった後、車を持っている大学生のバイトの男の子と、ドライブがてら、名古屋港につれて行ってもらい、海を見ながら朝までだらだら喋った夜など。
で、図々しいとは思いながらも、少しばかり心残りだったのは、お店の天使、綺麗な女性の方々との、アバンチュール的なloveがまったくなかった事。つくづく、人生そんなに甘くない。

時刻は夜の9時過ぎ。
プレイを終え、戻って来た二人組の兄さん達に乗せてもらい、お世話になったヘルスを後に、一路大阪へ。
車中、スケベトークでもりあがり、大阪駅まで送ってもらい、熱い抱擁を交わし、二人組と別れた。
時刻は深夜。ゲームセンターなどで時間をつぶし、なけなしの金で、東京にはない、24時間やっている「金龍ラーメン」で腹を満たし、駅前の風と雨がしのげる場所を探し、野宿をしようとしたところ、地元のホームレスに「ここはダメだよ、他へ行け」としっかり洗礼を受け、だらだらと土地勘のない大阪の町を歩き回り、ほとんど寝ずに朝を迎えた。

で、高速以外の普通の道ではヒッチハイクは難しいため、諦め、なけなしの金を使い、電車で京都まで出た。

さっそくカメラマンから聞いていた、京都の人物に公衆電話から電話を入れる。
すると、あっさり電話はつながり、「いきなりすいません。カメラマンの〇〇さんから紹介してもらった、たけし軍団の犬岩石です。今、京都にいるのですが・・・」と、おそるおそる、図々しいのを承知でこちらの事情を述べると、「おう!聞いてるわ。すぐおいで」と、拍子抜けするほど簡単に事態は良い方へ。
教えられたままの住所へ徒歩で歩く事10分。するとそこは、「東寺」でした。が、「東寺」は「東寺」でも、お寺の「東寺」でなく、ストリップ小屋、「DX東寺」だったのです・・・。

つづく。


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