漫文駅伝特別編 『アル北郷人生挽歌~続きを待てずに』㉜ アル北郷
ダンカンさんの付き人時代、「同じ人ばかりでなく、他の軍団の兄さん達にも付いたほうがいいだろ」といった声がどこからともなくあがり、わたくし、世界で唯一の‘‘会いに行ける裸族‘‘井手らっきょさんの付き人に、一ヶ月程付いた事がありました。
井手さんの付き人初日、ダンカンさんの付き人では当たり前のようにやっていた、車の運転を任されるものと思い、井手さんの愛車ベンツの鍵を預かろうとすると、井手さんは、「運転はいいよ。俺がするから」と、わたくしを助手席へといざなったのです。
そして、仕事場へ向かう道すがら、「北郷、なんか最近面白い事あったか?」といった質問を放り込んできたので、お喋りなわたくしは、ある事ない事ミックスして、夢中になってペラペラやると、井手さんは終始ニコニコしながら頷き、最後には、「北郷、お前って面白いな~」と、嬉しい感想をもらしたのです。
さらに、「北郷、お前タバコ吸うんだろ? 別に吸ってもいいぞ。俺の前で我慢する事ないからな」と、ナイスな指示まで。
この日からわたくしは、井手さんの運転するベンツの助手席にてタバコを燻らし、勝手気ままにお喋りする、実に楽しい付き人生活が始まったのです。
で、現場、テレビ局での井手さんの仕事といえば、それはもう脱ぐのみ。
どこの現場でも、服を着て局の楽屋に入り、本番で全裸になる。
やってる事はストリッパーとなんら変わらないスタイルでした。
ただ、井手さんの全裸芸は、どこの現場でも激しくウケていました。
わたくし、井手さんと知り合って25年程経つのですが、井手さんが脱いでスベった姿を、一度たりとも見たことがありません。それくらい井手さんの全裸芸は、確立された芸なのです。
「裸になれば、全裸になれば、誰でもウケるんじゃないの?」
そう思ったそこのあなた?それは全く違います。
脱ぐタイミング。 間。 脱いだ時の体のシルエット。脱いだ後の表情などなど。全裸芸は大変奥が深いプロの芸なのです。
以前、殿は酒席で、誰よりも早く全裸になると、
「この“間”が分かるまで30年かかった。遊びじゃないんだ!」と、冗談まじりに叫んでおられました。さらに、「脱いだ時よ、ポコチンがデカすぎても、小さすぎても笑えねえんだよ。あるんだよ、笑えるサイズが」と、しみじみとした発言をされていました。
ウケるためには、ポコチンのサイズでさえ、選ばれし者の丁度いいイチモツでなければならないのです。
ちなみに、ポコチンを人前にさらす芸人の衝動的行動について、立川談志師匠は、入院中見舞いに訪れた鶴瓶師匠に、「チンポとは・・・・」と、唐突に切り出すと、続けて「たけしは出せと言ったら出す。三枝(現・六代目桂文枝)は出さない。鶴瓶は出せと言わなくても出す」
そう語ったそうです。
話を芸能界をヌーディストビーチと勘違いしている井手さんに戻す。
そんな井手さんの、テレビ以外の仕事、地方での営業では(主に野外ステージでの営業がほとんどでした)、イチモツをタオルで隠して全裸で登場し、開口一番、「あれ、ここって大浴場じゃないの?」とやります。これがまた、どこへ行ってもどかんとウケるのです。
そんな井手さんは野球が大変得意で、過去、日本ハムファイターズのプロテストに合格した事実があります。
そんな井手さんですから、芸能界最強と言われた、たけし軍団草野球チームでは常に主役でした。
当時、たけし軍団は、年間200試合以上試合をこなしていました。
海の向こうのメジャーリーグでさえ、年間162試合ですから、200という数字が、どれほど異常だったのかがよく分かります。
で、よくあった野球絡みの仕事が、プロ野球のオフシーズン時、球団のファン感謝DAYなどに呼ばれ、プロとやる営業試合です。
ちなみに、たけし軍団はかつて、阪神と日ハムに勝っています。
草野球チーム・たけし軍団が、プロとの試合で、必ずやっていた団体芸が《たけし軍団乱闘大作戦》です。説明します。
ピッチャーの井手さんが、対戦相手のバッターにデッドボールを当てる。
当てられた選手は当然怒り、井手さんのいるマウンドへ詰め寄る。
ドーム内は一触即発の空気となり、やがて、両軍のベンチから選手が飛び出し、形ばかりの大乱闘に発展。マウンドの上は両軍の選手が入り乱れ、井手さんの姿が見えなくなる。
と、ビートたけし監督が見かねて出てきて、「お前ら、やめろやめろ!」と仲裁に入る、ここで選手達は我に返り、乱闘を止め、マウンドから潮が引いたように去っていく。と、誰もいなくなったマウンドの上には、いつのまにか全裸になった井手さんが、一人ぽつんと立っている。ここで満員ドーム内は大爆笑。
さらに井手さんは、股間を押さえ、全裸でグラウンドを走り回る。
子供も沢山来場しているファン感謝DAYです。これがやはり、とんでもなくウケるんです。
どうでもいい豆知識ですが、井手さんはこの芸で4大ドームを制覇しています。当時、4大ドームを制覇したのは、井手さんと浜崎あゆみぐらいです。
一度、この芸で調子に乗った井手さんが、全裸のまま甲子園球場のバックネットを、蜘蛛男のようにかけ上がり、かなり上まで登った事があったのですが、当然、下からは肛門が丸見えで、下から見ていた殿は、「井手!どうしてお前はそうバカなんだ!!」とツッコミを入れながらも、目が無くなるほど程笑っていました。
そんな、全裸芸で向かう所敵無しの井手さんが、一度だけウケなかった地方営業があったと、本人から聞いた事があります。
なんでもその営業は、群馬の外れの山の上のお寺での、節分の豆まきで、井手さんは良かれと思い、神社の境内の上から、褌だけまとい、ほぼ全裸で登場したそうです。
すると、場所柄、見に来ていたお客はどなたも高齢者ばかりで、井手さんの事をイマイチ認識していなかったようで、いつもの笑いが全く発生せず、一瞬嫌な間があり、井手さんは「あちゃ~。スベった~」と内心凹んでいると、いつのまにやら、方々から「ありがたやありがたや・・・・」といった声があがり、皆一斉に井手さんに向かって拝みだしたそうです。どうやら、あのつるつる頭の井手さんの風貌から、どこかの高僧と勘違いしたらしいのです。
そんな井手さんは、野球とセックスに対しては、大変まじめです。
2005年、井手さんが資金を集め熊本に開校した、「プロフェッショナル・ベースボール・アカデミー(PBA)」といった、少年少女を対象とした、野球の専門学校があったのですが、のちにこのPBAから、プロ野球のドラフトにかかる選手が出るのですが、わたくしが知る限り、4人の選手がプロになっています。
その中に、WBCで活躍された、史上最年少三冠王、ヤクルトの村上選手が居たりします。
全裸で人を笑かし、野球で人を育てる、現存する唯一の裸族。それが井手らっきょさんなのです。
そんな裸族が、たけし軍団リアクション芸史上最高にくだらなく、その場にいた誰もが「人生で、これほど笑った事はない!」とはっきりと言わしめた、圧倒的爆笑をかっさらった、とんでもない事件を、テレビの地上波でやらかす事になるのです・・・・。
つづく。
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