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漫文駅伝特別編『矢文帖』第8回「ぴんく・ゆる〜く・ミュージックと、ボクシング界のぶっちゃけ話(宝島社)」如吹 矢ー

かつて、英国の詩人ジョージ・ゴードン・バイロンは「嘘とは何か。それは変装した真実にすぎない。」という言葉を残したという。

私が「嘘」で真っ先に連想する人物は漫談家の街裏ぴんくさんだ。

体がデカく、見た目が怖い。
「街裏」ではあるが「ぴんく」ではないと思ったのが最初の印象だ。

彼の体験談という形で語られる漫談は嘘で構築されたファンタジーで、どこかサイケデリックで奇妙な世界と登場人物に脳みそのいけない部分が刺激され中毒性がある。

年々中毒者は増加。独演会のチケットは毎回完売。皆、ダルクに背を向け会場を目指す。

私は街裏ぴんくさんとYouTubeの苦肉祭チャンネルで毎週火曜更新の「ぴんく・ゆる〜く・ミュージック」というコーナーをやっている。

普段、嘘の漫談ばかりをやるぴんくさんがこのコーナーでは本当の体験談を語り、好きな音楽を紹介し歌う。

最近の出来事や昔のエピソード、家族の話、さらには自分の熱い気持ちまで本音で語ってくれて、嘘の漫談とはまた違った面白さが堪能できる。

昔、クラブでR&Bシンガーとしてステージに立ち、EXILEのオーディションを受けた経験があると聞いた時には、あまりの意外さに嘘だと疑ったが本当らしい。「事実は小説よりも奇なり」

紹介する曲はヒップホップやJ-POP、歌謡曲やEDMなどジャンルの幅が広いことにも驚く。
左卜全とひまわりキティーズの「老人と子供のポルカ」を紹介したかと思えば、L’Arc〜en〜Cielの「侵食-lose control-」を紹介したりする。
選曲が、料理から掃除まで使える重曹の用途くらい幅広い。

一緒に撮影していて感じるのはぴんくさんの仕事に対する真面目さと熱さなのだが、そんな中で最も驚くのはたまに彼が撮影中に号泣することである。

撮影は大抵、公園やちょっとした空き地などの屋外で撮影している。

周りに人がいたりする状況なのにも関わらずエピソードを語っている最中に感極まり号泣する。
さらには思い入れのある曲を歌い心震わせ号泣する。

熱い人だなとか純粋な心を持っているんだなという感想が頭をよぎるのだが、そんなことより変だと思う。泣いている姿を見て失礼ながらいつも笑ってしまう。

ある時は初めて行った学園祭の営業での失敗を語り悔し涙を流し、またある時はMONO NO AWAREというバンドの「風の向きが変わって」という曲を歌いながら、かなづちで叩くように歌詞が心にどんどんと刺さっていき尻上がりに泣いたこともある。

ちなみにMONO NO AWAREのボーカルの玉置周啓さんはこの時の配信をみてくださったらしく、ご自身のポッドキャスト番組で言及していただき嬉しかった。

しかしまあカメラが回っていて、人も見てて、しかも配信されるのに屋外で号泣する。これは只者ではない。

待ち合わせの間にイヤホンで曲を聴き、会う前から泣いていたこともあった。

涙腺にETCが導入されてるんじゃないかってくらい涙がスムーズに流れてくる。
次世代の徳光和夫である。

しかし、一方で羨ましいとも思う。人やカメラの前で自分の感情や恥ずかしい部分を曝け出すことができるのは人間味があってどこかキュートである。街裏ぴんくさんの粘膜のような「ぴんく」の部分なのかもしれない。

そして、ぴんくさんは優しい。
ある撮影の日、私が前日に深酒をして寝坊、1時間ほど遅刻してしまった時も「急いで来て、腹減ってるやろ?」と言って食事をご馳走してくださった。

会計時に遅刻した申し訳なさと優しさに対しての感謝が妙な具合に積み重なって、レジ前で何度も頭を下げた。店員から見ると強面のヤクザとその舎弟に見えたかもしれない。

そんな街裏ぴんくさんは今、武器である漫談をきっかけに様々な業界、現場からひっきりなしに声がかかっている。

テレビやラジオ、本人の憧れだったライブ、さらにはお芝居の舞台まで、ジャンルを超えて大活躍している。

近い将来、バイロンが言った「ある朝目覚めてみると、僕は有名になっていた。」という状況になるのではないかとわくわくしている。

「ボクシング界のぶっちゃけ話」畑山隆則(宝島社)

本書はタイトル通り元WBA世界スーパーフェザー級、同ライト級チャンピオンの畑山隆則氏がボクシング界の裏側や自身の現役時代の舞台裏を綴った一冊である。

ボクサーが試合に臨むまでの過程やトレーニングのメニュー、国ごとのボクサーの特徴、K-1からのオファー、さらにはボクサーのファイトマネー事情やチャンピオンベルトの値段まで赤裸々に書いてあり、ボクシングファンでも驚くような内容になっている。

今や伝説となっている坂本博之氏との死闘の舞台裏が試合から10年以上経ったからこそ語れる事実も収録されている。

そんな中、驚いたのは畑山氏のモテっぷりだ。とあるクラブで酒を飲んでいると、その店のママがテーブルの上に現金300万円をドンと置き「これで一晩、私と付き合いなさい」と言ってきたとか。

さすがボクシング界のスターのエピソードは一味違うなと舌を巻いた。

そんなゴシップ的なおもしろさから、ボクサーの過酷な状況まで興味深いエピソードが多数収録された一冊となっている。

「ボクシング界のぶっちゃけ話」(宝島社)
畑山隆則

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