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大矢のカンガルー 10


第10章 フロアの4人組


いよいよ本番、収録日の前夜、正治、大矢、梶井、シゲの4人は制作室に泊まり込んでいた。収録現場は局の一番大きなスタジオである。夜から深夜にかけて美術部による大道具の建て込みが始まっていた。4人は建て込みの確認を終えた後、香盤表を広げて何回も本番の段取りを確認し合った。

深夜、前山がふらりと制作部屋を覗きに来た。
「あ、クマさん。お疲れさまです」
「おう、お疲れ」
「あれ?前山さん今日は出(で)だったんですか?」
「いや、お前らが頑張ってるんだろうなって思ってよ…ちょっとな、差し入れに来てやったんだよ。ほれ、これワッフル。あれ?岩本さんは?」
「昼間は応接室で競馬観てましたけど…仕込みは任せるって、とっくに帰りました」

前山はいつものように不機嫌そうに舌打をすると「ヤブも一緒か?」と尋ねた。
「はい、ずっと一緒でしたよ」
「で、お前らのことは放ったらかしか?」
「ええ、まあ…でも、殆ど仕込みは終わってますから…」
「あの人の、そういうとこが良く分かんねえんだよなあ…ま、俺の知ったこっちゃねえけどよ。川村、ほら、みんなにコーヒー入れてくれよ。ここのワッフル旨えんだぞ。一緒に食おうぜ。残った分はよ、朝みんなで食っとけ。岩本の下じゃどうせ昼飯も食えねえぞ、きっと」

「前山さんは本番見にきてくれないんですか?」
「へへ…他人の現場覗きに行くほど暇じゃねえよ、俺ぁ。来週からロスに出張だしよ。少し準備もしとかなきゃなんねえしな」
「薮畑さんは観に来るって言ってましたよ」
「観に来るも何も、ありゃお前え、金魚の糞だ。岩本の拡声器みてえなもんだからな。図体がでけえからってビビるこたねえぞ。何か言われても聞き流しとけ。ま、じっくり話せば結構気のいい奴なんだけどな、ちょっと気が小せえんだよ。あんまり嫌わねえでやってくれよ」
「あ、はい…」

「とにかく、ま、あんまり怒鳴られねえように、せいぜい頑張れよ。予定通りに収録が終わって、予定通りにオンエアされて、まあ今回だったら7、8パー以上数字取れりゃ、こっちの勝ちだからよ。いいか?岩本が本番前日でもカリカリしてねえってことは、準備が上手くいってるって事だ。俺だったら少し気い遣って本番前に旨いもんでも食わせて、緊張しなくて大丈夫くらいのことは言ってやるんだけどよ、ま、ディレクターにはそれぞれやり方があるからな」
「でも、あの…やっぱり本番は怖いすよ。タイミング間違えちゃったり、焦っておたおたしたりすると、迷惑掛かるし…」大矢が本音を漏らした。

「ばーか、生番組じゃねえんだぞ。撮るべきもんが撮れねえとか、揃えるべきもんが揃ってねえとか、そういう致命的な問題が起きなきゃ大丈夫なんだよ。後で編集かけんだから。材料さえ揃ってりゃ何とかなるんだよ。収録の本番っていうのはよ、編集の素材でしかねえんだぞ。あんまり堅く考えんなって。ディレクターが怒鳴んのはよ、後の編集が面倒臭そうだから怒鳴んだよ。ま、一種の我が侭だな。お前らの仕事はもう殆ど終わってるんだよ。本番なんておまけみたいなもんだ。岩本が編集できるように素材を揃えてやってるって位の気持でいいんだよ。ここまでやってやったんだからあとは自分でなんとかしろってな。ここまで来りゃあ大丈夫だから、心配すんな。ただし、後で岩本がどう編集するかだけはちゃんと見とけよ。なかなかいい腕してるからな。フロアでキュー振るなんて、やり方さえ覚えりゃ馬鹿でも出来んだからよ」
「そんなもんですか…」
「そんなもんだよ。だからもう気楽に考えとけ。本番なんてどうせ一日で終わっちまうんだ。おう、それよりよ、ワッフル食おうぜ」

前山の差し入れに舌鼓を打ちながら、雑談に花を咲かせていると、4人の緊張も収まってくる。
「もう今夜は酒でもかっくらってよ、ゆっくり寝とけ、な。じゃ、俺はそろそろ帰るからよ。頑張れよ」
「はい。有り難うございます」
「お疲れさまです」
「おう、お疲れ…」


翌早朝から、美術と照明の仕込みが始まった。正治たちも副調室や楽屋、打合せ会議室、メイクルームの準備に取り掛かる。照明の仕込みが概ね終わる頃、撮影班がスタジオに入る。局のTDが副調室の調整卓の前に座る。出演者たちが楽屋入りし、マネージャーたちが入れ替わり副調室に挨拶に来る頃、岩本、薮畑、タイムキーパーの玉江が副調室に入る。

「お早うございますっ」
「おはようっす」
「おはよーっ」
「宜しくおねがいしまっす!」
「おう、おはよー、宜しくな。おいフロアー、準備は問題ねえか?」
「はい、問題ありません。香盤通り出演者との打合せしますんで」
「おう、御苦労。今村ちゃんカット割り目え通してくれた?」
「概ね了解です。あとはカメリハで調整しましょう」
「宜しく。おいっ、ヤブ!コーヒー」
「はい」
「玉江さん、素材全部VTR室に入ってます」
「了解」


スタジオと同じフロアの会議室で出演者たちとの合同打合せが始まる。さすがに岩本は饒舌に要領良く、収録の段取りと出演者それぞれの役割を説明し、僅かに30分足らずで90分枠の特番の全体像を明確に示した。正治も大矢も、岩本の現場は勉強になると言った前山の言葉の意味がようやく少し分かったような気がした。

正治と大矢が出演者打合せに出席している間、シゲと梶井はスタジオの裏手に用意された仮設の待機場所に続々と到着する動物プロダクションの動物たちや調教師たちの受け入れを行なっていた。犬、猫、山羊、豚、虎、ペンギン、狸、ニシキヘビ、オットセイ、鷹、オウム、カンガルー、ダチョウ、チンパンジー、ワニ、インドゾウ、オオアリクイ、アルマジロ…等、20種類以上もの動物たちが関東近郊の主だった動物プロダクションから集められている。シゲと梶井は動物たちのスタンバイの状態を調教師たちに確認して貰う。


そして、再び副調室に集合した正治たち4人はいよいよインカムを装着して全員フロアに降りる。番組中、幕間に披露されるゲスト歌手の歌やお笑いタレントによるコントなど、別セットによるインサート部分を午前中に収録してゆく。ここまでは現場としてはまだまだ序盤戦だ。副調室内でも穏やかに事が進んでいるのがインカムやフロアのスピーカーから聞こえるトークバックの声の調子で良く分かる。

「すみません。もう一度回させて頂きます。こちらです」
『2カメから入るよー…クレーン位置もうちょい下げ』
『スタンバイ』
『照明、OKでーす』
『おーや、キュー上手(かみて)から出せ』
「了解っす」
『VTRさーん、ロール2インサート、テイク2でーす。宜しくでーす。はーい…VTR回りました。15秒前…10秒前…』
『はい、10秒前です』
「5秒前、4、3、2…」

手際よく、次々と各シーンの収録が終わってゆく…
「はい、OKです。頂きました。じゃ、暫く休憩に入りまーす。メインセットのリハーサルは13時30分開始でーす。昼食後各自スタンバイ、技打は10分前、宜しくお願いしまーす」

正治たち4人は急ぎ、仕出屋から届いた弁当を美術部、照明部、音声部、撮影部、副調室、各楽屋、控室ごとに人数分を配布し、それぞれお茶の準備をする。この間にスタッフたちや出演者たちから様々な質問や雑談が次々と浴びせられる。

「おい、リハってよ、前説込みだろ?」
「はい、事前打合せは終わってますんで、ロールごと、10分位です」
「こっち、お茶のお代わりくんない?」
「今、持って行きます」
「シゲ、風呂付に引っ越したんだって?ギャラ上がったのかよ」
「へへ…ちょいだけですよ」
「順撮りなんだよな?」
「そうです。午後は視聴者参加がありますんで」
「西条なんですけど、今日は少し早めに上がれますか?」
「一応香盤通りでお願いします。順撮りなんでラストロールまでは出番ありますから」
「川村ちゃん、今回企画構成だって?すげえじゃん、ごぼう抜きだな」
「いえ、前山さんと大矢さんに大分手伝って貰いましたから」
「カジ、カメラ前あんまりウロチョロすんじゃねえぞっ!画角広げられねえじゃねえか」
「すいません…気い付けます」
「あのさ、ブーム位置、あそこだと写り込まねえ?」
「あとで、カメリハの時3カメさんと相談して下さい」
「悪い、こっち弁当一個足りねえや。アシが一人増えてんだよ。言うの忘れてた…大丈夫?ある?」
「あ、いいですよ。これ、はい。俺昼飯抜きでいいですから…」
「え?じゃ、いいよ、悪いから。我慢させるから…」
「へへ…冗談ですよ。ちゃんと余分に用意してありますから」
「順調じゃん…岩本ちゃん、今日は怒鳴んねえな」
「これからですよ、これから。インカム、耳から離しといた方がいいかもですよ」

いくら忙しいからといって、こういった問い掛け一つ一つにもADは丁寧に対応しなければならない。現場全体の雰囲気を和ませるのも重要な役割だからだ。勿論正治たち4人が落ち着いて昼食を摂る余裕などないのが普通なのだ。前山が言ったように、現場が始まる前に甘いものを口にしておくと、何とか長時間の空腹も我慢することができる。場合によっては始めからADの人数分だけ弁当をとらない現場もある。どうせ弁当を食べる余裕などADにはないことが分かっているからだ。

「大矢さん、土井教授、控えに入りましたよ」楽屋から戻った梶井が声を掛けた。
「分かった。川村、挨拶に行こうぜ」
「はい。じゃ、シゲさんと梶井さん、子供たちと保護者の方たち、会議室の方に集めといて下さい。土井先生の挨拶終わったら説明に行きますから」
「おう、もうロビーにちらほら来てたから、連れてっとくよ」


土井教授は控室で既に司会者と挨拶を交わしていた。
「あ、大矢さん、川村さん。先日はどうも…」あれから大矢と川村は構成と説明の打合せで幾度か教授の研究室を訪れていた。

「宜しくお願いします。その後、お母様はお元気ですか?」
「今日はやっちゃんが来るかな、やっちゃんはいつ来るかなって、毎日言ってますよ。また、是非顔を見に行ってやってください」
「はい、この番組終わったら、少し休めますから、近い内に是非伺います」
「今日は宜しくお願いします」
「はいはい、今司会の方とお話しましたけど、もうお任せしますんで、何かあったら何でも仰って下さい。あ、洋服とか髪形とかこのまんまでいいんですか?」
「あとでメイクさんが来ますから、御相談なさって下さい。じゃ、僕らは上でいろいろ準備がありますんで、あとでまた、呼びに伺いますから」
「はい。宜しく…」


午後の収録の為の最終打合せが副調室で始まった。美術・照明・音響・撮影の各チーフ、TDの今村、岩本、玉江、大矢、正治が集まり、手早く質疑応答が繰り返された。

「さあ、ここからが本番だぞっ!制作部は気合い入れていけよ。ロールごと通しでいくからなっ。おーや、おたおたして途中で止めさせんじゃねえぞ。台本なんか見てる暇ねえからな」
「はいっ!宜しくお願いしますっ!」
「おしっ!じゃ、スタンバイっ!」
「宜しくお願いしますっ!」
「宜しくっす」
「宜しくう」
「宜しく頼むよ」

大矢は緊張の面持ちでインカムを装着した。フロアに降りようと階段に向かうと、副調室の端にずっと座っていた薮畑が近付いてきた。
「大矢、川村」
「はい」
「ここまで出来てりゃ、もう大丈夫だからな。緊張しないで落ち着いて仕切れよ。多少怒鳴られてもあんまり気にしちゃ駄目だからな。頑張れよ。大丈夫大丈夫。ちゃんと出来てるよ」
「あ、はい…有り難うございます」
「頑張ります」
「おう、落ち着いてな。慌てんなよ」
「はい…」


大矢の前説は多少たどたどしかったが、無事に終わり、オープニングや回答者登場、ゲスト紹介、動物の入出、回答装置の扱い、正解と解説への運びなど、進行やカメラ回しのタイミングが必要な場面のリハーサルが手早く行なわれてゆく…そして、およそ1時間後、予定通り本番を迎えた。大矢の緊張は見た目にも明らかだった。

「では、みなさん。本番にいきまーす…あの…ス、スタジオにいらっしゃる方々は、どうぞ…どうぞ…あの…お静かにお願いいたしまーす」声が震えていた…

『じゃ、収録いくわよ。いい?VTRさん、宜しくう』玉江の声がインカムから聞こえる。
『はい、回りましたあ…15秒前…』

大矢は固まっている…咄嗟に脇の正治が声を出した。
「VTR回りましたあ!はいっ、10秒前っ!」
『こらあ!おーやあ!フロア仕切れっ!』早速岩本の怒鳴り声がインカムを震わせる。
「は、はいっ…ご、5秒前っ!よんっ!さんっ!」声が裏返っている…

「大矢さん…落ち着いて…」正治はインカムのマイクを手で覆いながら、そっと声を掛けた。
しかし、大矢の緊張はその後も収まることはなかった…

『おーやーっ!ボケッとすんなっ!キュー出せっ、キュー!』
『タイミングがおっせーんだよっ!ちゃんと現場見てろっ!』
『カットだ、カットお!VTR止めろおっ!ばーか、撮り直しだっ!』

岩本の怒鳴り声は全てインカムの中だけのことだ。出演者たちには一切聞こえていない。
「すみませーん、いったんカットしまーす。こちらのミスでーす。少々お待ち下さい…」
『何がこちらのミスだっ!お前えのミスだろが!おーや、ちょっと上がってこいっ!』

「すみませーん。ちょっと直しますんで、少しお休みください」インカムの中とは打って変わって穏やかな岩本の声がスピーカーからフロア中に響いた。大矢が副調室への階段を駆け上がってゆく…途中階段につまずき危うく転びそうになる…心配そうに迎えに出た薮畑が手を貸し、何か耳元で囁いている…ガラス越しに副調室の調整卓横で大矢が岩本に何度も頭を下げている…その大矢の横っ面を岩本が丸めた台本で張りとばした…再び大矢が深々と頭を下げ、慌ててフロアに戻ってきた…その後から薮畑も降りてくる…大矢はそのまま司会者の傍まで行き、台本を示して撮り直し箇所の説明をする…

「すいませーん、お待たせしましたあ。台本前ページのゲスト呼び出しのところから撮り直しまーす!3カメさんの抜きから入りまーす。宜しくお願いしまーす…」

何とか再び収録が始まった。
『こらあっ!クレジットはどうしたあ!もういいよっ、そのまんま行くぞっ!』
『次のゲストスタンバってねえぞっ!誰か走らせろっ!』
『歩くんじゃねえっ!走れ走れ走れっ!』
『装置のキューはどうした!お前えら馬鹿か!低能っ!反応しろっ!』
『おたおたしてんじゃねえっ!おーやっ!お前えが指示しねえから、周りが動かねえんだよっ!日本語、分かんねえのかっ!』
『押してるって言ってるのが分かんねえのかっ!巻き入れろ巻きっ!ぼーっとすんじゃねえっ!』
『ぶん殴るぞっ!』
『殺すぞっ!』
『死ねーっ!死んじまえっ!』
岩本の罵詈雑言がインカムを通して次々と正治たちの脳髄に突き刺さる…


それでも、何とか本番半ばが過ぎ、数分の短いインターバルが与えられた。正治はお茶を入れた紙コップを持って、大矢に差し出した。
「半分きましたよ。大丈夫ですか?」
「あー…俺…全然駄目だな…」
「大矢さん岩本さんに反応し過ぎっ。落ち込んじゃ駄目だよ」シゲが励ます。
「大矢さんすげえよ。俺だったらとっくに折れてるな。泣いちゃってるかもな」梶井も何とかフォローしようとしている。
「大丈夫ですよ。ちゃんと進んでるじゃないですか。前山さんが気楽に行けって言ってたじゃないですか」
「そうだよな…でもな…はあ…」大矢は深いため息をついた。そこに、フロアで進行を見ていた薮畑が近付いてきた。4人は何か言われると思い、一瞬緊張した。

「すいません…俺、ポカばっかで…」大矢が頭を下げた。
「何言ってんの?全然OKだよ。最初はちょっとつまずいてたけどよ、岩本さんの現場はこんなの普通だから。俺だって毎回死ぬほど怒鳴られてんだ。でももう現場止まってねえじゃん。岩本さんは怒鳴り続けてんだろうけどさ、もうあんまり意味のあること言ってねえだろ?」
「そういや…そうですね…馬鹿とか死ねとか…」良く考えるとその通りだった。

「あれね、単なる勢いづけなんだよ。こっちはさ、はいとか、すいませんとか、適当に返事しときゃいいんだよ。周りもみんな、またかって思ってるだけだからよ。お前ら良くやってるよ。俺、お前らのこと見直したからな。もう大丈夫だろ。安心したよ。俺はもう上に上がってるからな。親分の御機嫌取らなきゃ、また機嫌悪くなるしよ…じゃ、頑張れよ」薮畑はそう言い残して副調室に戻って行った。

「薮畑さんって、意外といい人なんですね」
「本当だな…分かんねえもんだな…」
「悪い人なんてさ、本当はいないんだよ…」大矢が呟いた。


後半の収録中、大矢は相変わらず岩本から怒鳴られ続けていた。しかし、現場が止まってしまうほどの問題は一度も起きず、薮畑の言う通り、無事に全ての収録が予定の時間通りに終了した。

「はい、OKです。全て頂きました。出演者の皆さん、スタッフの皆さん、お疲れまでした。有り難うございました」岩本の穏やかな声がスピーカーから響いた。
「お疲れ様でーす」
「有り難うございました!」
『お疲れー』
「お疲れです」
「楽屋と控室の方に出演者の方々分の弁当とお茶を用意してあります。お急ぎの方は、どうぞお持ち帰り下さーい。スタッフの方々には社食の食券を配らせて頂いてまーす」梶井がフロアの中央で声を張り上げていた…

「大矢さん、川村さん、お疲れさまです」土井教授だった。
「あ、先生。どうも有り難う御在いました」二人は深々と頭を下げた。
「いやいや、こんな経験もたまにはいいもんですね。では、今日はお二人ともお忙しそうですから…また、近い内にお立ち寄り下さい。母も待ち兼ねてますから」
「はい。宜しくお伝え下さい」
「お疲れさまです…」

二人はシゲと梶井にフロアを預け、副調室に上がった。
「お疲れさまでしたっ!」
「おう、お疲れ!」
「岩本さん…」大矢が岩本に頭を下げる。
「いろいろ、御迷惑掛けて申し訳ありませんでした。あれでちゃんと撮れてましたか?大丈夫でしたか?」
「馬鹿野郎…俺がOKって言ったら、OKなんだよ。何か文句あんのか?」
「いえ…大丈夫ならいいんですけど…」
「もう済んだことをごたごた言ってんじゃねえぞ…ま、良くやった方だ。それより撤収任せたからな。俺あちょっくら外に出てくるからよ」
「はい、お疲れさまでした…」
「ちょっとお、何処行くのよお?美味しいもの食べに行くんだったら、あたしも誘いなさいよ」玉江が岩本に文句を投げ掛ける。
「ちっ、タマちゃんからそう言われちゃ、誘わねえ訳にゃいかねえな。あとが怖えからな」
「じゃあね、大矢くんたち、あとは宜しくね」岩本と玉江と薮畑は部屋を出て行く。最後に薮畑が二人に少し目配せをした。

「タレント事務所からの御招待ってとこだな」TDの今村が小さく呟いた…

最終章につづく...

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