そうだ!檜原村へ行こう!
連休中、台風が去って、多分今年初めての秋晴れの朝が訪れた。
もう10年近く前に執筆した『室井の山小屋』…
ストーリーの冒頭の舞台に選んだ奥多摩の『檜原村』には、実は一度も行ったことがなかった。
当時は仕事が忙しいこともあって、檜原村も月夜見沢もGoogleMapのストリートビューで済ませたのだ。
ストーリーの冒頭も雨天開け秋晴れの日、主人公が『檜原村』を訪れるところから始まる。
ちょっとした目論見もあって、一度ちゃんと『檜原村』を記録しておきたかったので、『よしっ!行ってこよう!』と物語通りまだ朝のうちの9時半ごろに自宅を出発!
まずは目黒駅から新宿駅へ…
新宿駅で中央線ホームから青梅行きに乗り換えるのだが…ダイヤの隙間なのか20分ほど待たされた…
新宿から昭島の1つ先、『拝島』へ…
ここで五日市線に乗り換え、終点『武蔵五日市』を目指す…
この辺りに来ると、車窓からの風景は郊外の住宅地から森や畑へと変わってゆく…
途中停車の駅も長閑で小さかったりする…
秋川近辺で降りる乗客の中には結構外国人やアーティスト風情も多く、明らかに旅行者ではないので、この辺りは余程家賃も安く住み心地が良いのだろう。
武蔵五日市駅は思った以上に近代的な立派な駅舎だった。
ここからはいよいよ檜原村の中心本宿を目指してバスに乗り換える…
『えーと… 五里か五滝ってバスだよなあ…』
駅前のバスロータリーに立ち、周囲を見回している私の目の前に一台のバスが停まり、数人の乗客を降ろした。
バスには『五里18』と書かれていたので、運転手に声を掛けてみる。
「すみませーん、檜原村に行くのはこのバスでいいんですかあ?」
「ああ…このバスはこのまま回送になります。1番の停留所からもうすぐ出ますから、どうぞあちらへ…」
そう言って運転手が示した方を見ると、もう十数人ほどの乗客が並んでいる停留所がある。
長く続いた天候不順と緊急事態宣言下、久々に訪れた秋晴れにフラストレーションを抑えきれなくなったハイキングファンたちであることは、見た目にも明らかだ。
列に並んだ私の後ろにも、どんどん乗客が増えていく...
昼前にバスが出発した時には座席はそんな乗客たちでほぼ満席だった。
まるで通勤バスのようだ...
バスは街中を抜けて、いよいよ檜原街道に入る...
周囲はすっかり山の中の風景だ...
この辺りにはいろんなハイキングコースがあるのだろう...
バスが停留所に止まるたびに1組また1組とハイカーたちが減っていく...
そしておよそ30分後、目指す檜原村の『本宿役場前』に到着。
檜原村役場は周囲の環境にはミスマッチの立派な鉄筋の建物...
もう正午はとうに過ぎている。
物語と同じように、少し空腹も感じる。
バス停から進行方向に道は大きく左にカーブしている...
その先に定食屋『あけぼの屋』のモデルにした『たちばな家』が見えた。
『よし、主人公と同じ体験をしてみよう...』
近付くと、看板に『手打ちラーメン 川魚塩焼き』と書かれている。
『山女定食、ご飯少なめ...主人公が注文したメニューを、いっちょ食べてみよう...』
と、近づいていくと...
店先ののれんの前に行列ができていた!...
さっきから、街道には上りも下りもひっきりなしに乗用車が行き来し、信号が赤になるとどんどん車が溜まってゆく...
バイクのツーリンググループが、暴走族のように塊になって駆け抜けてゆく...
その合間を縫ってツール・ド・フランスの選手のような格好のロード自転車愛好家がやはりグループで通り過ぎる...
『なんでこんなに人が多いんだ??...』
これでは、私が物語に描いたあの長閑な奥多摩の古い町・檜原村のイメージとは程遠いではないか...
物語に描いたあの『あけぼの屋』を経験するのに、行列に並んで、混んだ店内で食事する気にはなれず、昼食は断念...
少しの間、本宿の街並みをブラブラと散策...
そのまま再びバスに乗り、昼食抜きで目黒の自宅に戻った...
意外な経験となってしまったが、秋晴れの中、実際の檜原村の風景と空間を体験できたことで、今回は良しとしよう。
さてさて、次回は平日に車でさらに奥地へ....『月夜見沢』周辺を目指すことにしようか...
このエッセイでは表紙イラストを、毎回一点イラストレーターであり絵本作家のカワツナツコさんに描き下ろして頂いています。
カワツナツコさんの作品・Profileは…
https://www.natsukokawatsu.com
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?