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『仙の道』あとがき

『龍』をテーマとした物語は古今東西、それこそ全人類に寄り添うように無限に存在する。
しかし、私には『龍』という存在に格別の想いがある。

私は乳児の頃小児麻痺を患った、結果右足に麻痺が残った。
もちろん私自身は覚えていない。幼児の頃からの記憶の芽生えは母親に連れられ幾度も大きな病院で検査を受け、3日に空けず注射や電気治療、マッサージなどを続けさせられたことである。
家に篭ることは法度で、常に外で遊ぶ事を強要された。しかし、いつまでも経っても、片足を引きずるように歩行し、走る事はできなかった。

まだ就学前の事だった。ある日整体術を学ぶ叔母に連れられ、その師匠である野口晴哉と言う人物に引き合わされた。初老の小柄で優しそうな人物であったことを良く覚えている。かくして私は整体操法の創設者、野口晴哉氏の治療を受ける事となった。

我が家は整体や気功を信じる家ではなかったが、母は藁をもすがる思いで、叔母に私を託したのだろう。
幾度か叔母と一緒に道場に通うことになって、整体治療を受けた。
初めは弟子の方々が整体を施す。それは今思い出しても単なる整体術、つまりマッサージのようなものであった。
しかし、いよいよ野口氏の施術を受けると、それは全く異質のものだった。
横たえられ野口氏が身体に手をかざしただけで、頭の天辺から足のつま先まで全身が加熱するのを感じた。
『ああ…このおじさんは魔術師なんだ…』幼い記憶ではあるが自分の身体の中で何かが変化したのを良く覚えている。
ほんの数回の施術だった様に覚えている。

果たして、就学後は麻痺の状態は見る見る回復し、中学を終える頃には運動能力は健常者とほぼ同等にまでになった。
当時の医者からは中年を過ぎる頃には必ず杖の補助が必要になると言われていたが、70を迎えようという今になってもその時期が訪れる兆候は全く見られない。
今は亡き伯母の話では、その野口氏は巷では『白龍』に例えられていたということだ。

マスコミの仕事に没頭していた頃、無理が祟って腎臓を患った。
親しい仕事仲間から評判の若い天才温灸師を紹介され、病院と併用して通った。
その温灸師が初診の折、私の身体に触れてこう言った「川崎さんのお身体には、どなたかの手が入っていますね…普通の治療の跡じゃないな、これは…」
もしやと思い野口氏の話をすると…「なるほど…これが野口さんの治療なのかあ…白龍様ですよね…はじめて見せて頂きました」としきりに感心していた。

さらにその後のこと、取材でインタビューを終えた著名な占い師から「あなたは龍に守られていますよ」と言われた事もあった。

現在アトリエに使用している南阿蘇の山小屋の土地も、結婚以前から妻の実家が未使用のまま所有していた別荘地で、昔から『白水』と呼ばれ、『龍の通り道』と伝えれていたらしい。

この土地の氏神『八坂神社』は龍の玉『八尺やさか』を祀ったおよそ1300年の歴史を持つ古い社で、山小屋建設の折、そこの神主から伺った『龍』のパワーを継承する『龍族』のお話がこの物語執筆の発端でもある。
https://blog.goo.ne.jp/kumanihongi/e/0e1ddfd191077c2d0c2ae0dc8c3a549b
『八坂神社』は周囲のロケーションも含め物語中の『庵』に反映されている。

それ以外にも数えればきりがないほど様々な事由があって、『龍』については格別な縁を感じる一方、私なりの想いとイメージがあるのだ。

この物語を書くに当たっては、まず『善蔵』という龍の力を宿す人物を創り上げた。
前述の野口氏の他印象深い何人かの老齢者を重ね合わせモチーフにしている。
善蔵が次の世代の後継者とどう出合いどのように龍の力を継承してゆくか…ストーリーを構築する中で、主人公は次世代の龍族『礼司』に変わっていった。


『龍』とは一体何だろうか?
何故人間はこれほど『龍』に霊的な信仰心を持つのだろうか?
もし『龍』が想像上の生き物なら、人種交流のない太古の時代から何故世界中の人々が同じイメージを共有していたのだろう?

もしも、『龍』が本当に実在するとしたら…
我々が暮らしている現代のこの世界に、この歴史の中で、ずっと存在し、これから先もずっと存在し続けていくものだとすると…『龍』とはどんな生き物なのだろうか?…

私なりのイメージをこの物語に託してみた。

『仙の道』続編のイメージは既に頭の中にはあるのだが、未執筆の状態...
いずれ、お披露目できる時が来ると思う。その時まで、お待ち頂きたい。


因みに、表紙タイトルの龍のマークは私の亡き父が晩年にデザインしたものを使用しています。

仙の道マガジン用画像2

また、今回は各話ごとの表紙用に私の拙い小説の愛読者でもあるイラストレーターのカワツナツコさんが各話の印象をイラストに描き下ろして下さいました。
この場を借りて、深く感謝すると共に、第1話から最終話までの『仙の道』イラスト全29点をまとめて展示掲載させて頂きます。

カワツナツコ『仙の道』表紙イラスト集



カワツナツコさんのProfile 他作品URLは...
https://www.natsukokawatsu.com


さて、noteに小説の掲載を初めて約1年。
これまで全7作の中長編小説を掲載いたしました。
次回に予定しているのは、現代と太平洋戦争末期を時空の糸で結ぶ新作ファンタジー長編小説『私がわたしである理由わけ』です。
まだ全編は描き終えていませんので、連載開始までは暫くお時間を頂き、今春からとさせて頂きます。
しばし、お待ちください。
どうぞ宜しくお願い致します。


これまで掲載された連載小説はこちらからどうぞ...

『双葉荘』第1章
『室井の山小屋』第1章
『大谷のカンガルー』第1章
『翼が消えるとき』第1話
『少年ジェットがいた日』第1話
『父の残像』第1話
『仙の道』第1話





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