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『室井の山小屋』を掲載し終えて…

『室井の山小屋』を書き始めたのは『双葉荘』執筆の少し前のことです。

当時熊本・南阿蘇に小さな山小屋を建てて、東京と阿蘇との往来に少し慣れ始めた頃でした。
山小屋は阿蘇中岳の中腹、別荘地から離れた国有地(牧野)との境にポツンと建っている完全な隠れ小屋です。

かろうじて200mほど離れたところに元々の知り合いの方が一人暮らされていて、そこには犬や猫が数匹ずつ飼われています。
私が山小屋に滞在するときには、一匹の犬がそこから脱走して毎日遊びに来るのです。
物語中に登場する『タロ』はまさにこの雌犬がモデルです(実名はタロコといいます)。

タロ

『キリ』は実際に30年前に東京の我が家にいた飼い猫で、もちろん今は居ないのですが、歴代の飼い猫の中ではやけに気のあった猫で、山小屋に一人でいると、たまに『キリ、訪ねてこないかなあ.. 』とふと思い出すのです。

キリ3

たまに牧野から逃げ出した牛が庭にいたりすることもありますし、夜は周辺を徘徊する野生動物の足音が時折聞こえたり、周囲に人の気配が全くない分、どこか人生のプロセスや時空そのもから解放された気分になって、妄想やイメージが膨らんでいきます。
空想と現実の狭間にいる感覚です。

この物語はそんな中で生まれました。
舞台を奥多摩の『月夜見沢』としたのは、あくまでもその地名の美しさからです。

ちなみに物語中の重要人物・川添康三が語るパラオ戦線のメリー島(戦時中の名称はメリル島)の体験談は、私の亡父が戦時中実際に体験した実話で、ここから生還された戦友の方達にも大分以前に直接インタビューする機会を得ました。
父を含め、メリー島に取り残された若者たちが何を見、何を学んだのか...
その印象もこの物語の軸に取り入れてみました。

また、南阿蘇は私が山小屋を建てて以降、水害・地震・噴火..といった数々の災害に襲われています。
そんな中でも地域社会が結束し、助け合って、人々が明るく前向きに生き続けている...
そんな姿もこの小説の基軸にしたつもりでいます。

みなさんのご意見をいただけると嬉しいです...




さて...次の掲載ですが、
昭和50年代初頭、私がテレビ業界に入ったばかりのアシスタント時代...
日本のテレビ業界がもっとも元気でエネルギッシュだった時代の人間模様をいくつかの実話をベースに描き出したヒューマンドラマ『大谷のカンガルー』です。
もちろん、未発表作品ですので、よろしく!

『室井の山小屋』を第1章から読む

『双葉荘』を第1章から読む

『大谷のカンガルー』を第1章から読む

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