カーコラム「ダートラ・ラリー界を席捲した日本初のフルタイム4WDマシン "マツダ BFMR型ファミリア4WD」
BFMR型ファミリア4WDは思い出深いクルマである。
85年のリリースからギャランVR-4がデビューするまでの約2年間、取材でダートトライアル会場やラリー会場に行くとパドックはこのクルマに埋め尽くされていた。
モータースポーツ界、特にナンバー付き競技の場合にはベース車両のポテンシャルがダイレクトに影響するため、そのクラスの高性能車を供給する数社で寡占状態となるのだが、BFMRは日本初のフルタイム4WDマシンという事もあり、特に土系競技ではほぼ独占状態だった。
1600cc DOHC ターボエンジンは最高出力140PSと決してハイパワーではないものの、フルタイム4WDならではの優れたトラクションと直進安定性によりライバル車の追随を許さぬ圧倒的なパフォーマンスを誇った。
センターデフをボタン一つでロックできたので競技時はほとんどのドライバーがデフロック状態で走っていた。
競技レベルの話だが、BFMRファミリアをダートで早く走らすにはコツが必要だった。
非力なエンジンと4WDシステムの組み合わせはスタビリティには優れているものの、積極的に振り回すような走りには向いていなかった。
わかりやすく言えば豪雪地帯や寒冷地向けの「生活四駆」に毛が生えた程度の走行レベル。そのため、ラインを外すとリカバリーが難しく大幅なタイムダウンを喫してしまう。
そのため、BFMRを速く走らすには「針の穴に糸を通す」ような正確なライン取りが不可欠で、特にコンマ一秒でしのぎを削るダートトライアル競技の場合には、競技前の完熟歩行は極めて重要だった。
ラリーの場合にはコーナリングアプローチが重要で、完璧に姿勢を作ってからコーナーに進入するのが鉄則。振り回す癖のあるドライバーはドライビングスタイルの変更を余儀なくされた。
また、コンパクトなファミリーカーのボディに大きいエンジンと複雑な4WDシステムを搭載したBFMRの整備性はあまり良好とは言えなかった。
取り回しの関係上エンジンを残してトランスミッションだけを切り離す事ができないため、クラッチ交換やミッションのオーバーホールの際にはエンジンまで降ろさなければならなかった。
さらに、前軸荷重が重い(フロントヘビー)のためフロントのハブベアリングのガタが出やすく、ブレーキローターの偏振によるノックバック現象が頻繁に発生した。特に横Gがかかるラリーのターマックステージではその傾向は特に顕著だった。
何度ブレーキペダルが床まで入る恐怖を味わったことか。しかし、この現象も慣れの問題で、コーナー手前で一度ブレーキペダルを軽く仮踏みしてやれば解決した。
日本初のフルタイムマシンであるBFMR型ファミリア4WDは、良い意味でも悪い意味でも革新的なクルマだったことは紛れもない事実である。