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カーコラム「奇跡を生んだ衝撃のギヤオイル "RED LINE GEAR OIL MTL(レッドライン ギヤオイル MTL)"」

 E38A型ギャランVR-4 RSのダートラ車に乗っていた時のお話。

 このクルマは昭和63年式の初期型(205馬力仕様)に、ラリーアート製のラリーフルキットが組み込まれたコンプリートカーで、平成元年に中古で購入した。因みに、その際の走行距離は1050kmだった。

 初期型のVR-4はE39A型・E38A型ともにトランスミッションに弱点があった。

 まずシンクロのヘタリ。これは特に競技車両として使われるE38A型(RS)に多発したトラブルで、ローで高回転まで引っ張り。セカンドギヤに入れようとすると、「ジャー」、「バキッ」という物凄いギヤ鳴りが発生してギヤが入らないか、あるいは入り難い状態となる。

 オープンレシオでローとセカンドとのギヤ比が大きい事とシンクロナイザーの容量不足、それに追い打ちをかけるかのようにロー、セカンドを多用するダートラやラリー競技特性など、様々な条件が重なった結果発生するこの現象は、オーバーホール以外に対処する術はなかった。

 さらに初期型のシフトフォークがアルミ製だったため鋳鉄製に比べ強度が低く、無理な操作をすると破損する危険性があった。シンクロのヘタりによるシフトの渋さ故ついつい荒い操作を繰り返し破損に至るトラブルがをよく耳に挟んだ。

 シフトフォークが鋳鉄製に変更されたのはマイナーチェンジ後の220馬力仕様からである。

 シンクロのヘタりは我が愛車にも発生した。

 競技車両、編集部のテスト車両、そして一般の足として酷使されていた状況を鑑みるに、その結果もむべなるかなである。

 次第に症状は悪化し、ついにセカンドからサードに入れる時にも異音が発生し始めたある日のこと、オーバーホールの費用を密かに見積っていた自分のもとに一本の電話が入った。

 電話は筑波サーキット近くにオフィスを構える知り合いの社長さんからで、新しく取り扱う事になったアメリカ製のオイルのインプレと取材をお願いできないかという内容だった。

 テスト車両のVR-4用として取り急ぎ10W-30のエンジンオイルとミッションオイル、それにデフオイルをそれぞれ一台分送ってもらう事に相なった。

 翌日、編集部に大きな箱が届いた。中にはエンジンオイルが5本、ミッションオイルが4本、デフオイルが4本の計13本のクォートボトルが入っていた。

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 そのクオートボトルには" RED LINE "とうメーカー名が表記されていた。

 テスト車両の昭和63年E38A型ギャランVR-4 RS用として一台分(エンジン用、ミッション用、デフ用の3種類)が提供されたが、一気にすべて交換してしまうと単体での評価が困難になるため、各部用オイルを段階的に交換する事にした。

 正直、得体の知れないオイル(当時はほとんど無名に近かった)を入れるため、壊れても良い部分からやろう(笑)という話になり、遅かれ早かれオーバーホールを予定していたミッションオイルからテストする事となった。

 VR-4のギヤボックスはトランスミッションとデイファレンシャルは一体となったトランスアクスル式で、ギヤオイルはトランスミッションの潤滑・保護とディファレンシャルの潤滑・保護を兼務する性能を備えた物が必要となる。

 送られてきたRED LINE社製のオイルの中でミッション用は「RED LINE GEAR OIL MTL GL4」というもの、クオートボトルに貼られたラベルの英文を読むと「FR車のトランスミッションまたはFF車のトランスアクスル用。柔らかいオイルを指定する車両向き、シンクロナイザーに特に優しいオイル・・・・・」とのこと。APIの粘度は70W80だった。

 「ハイパワーなVR-4に使って大丈夫かいな??」と思いつつ「どうせ壊れたら編集部の経費でオーバーホールができるし・・・・」と邪(よこしま)な考えも含みつつ、えいやっの気合で交換に踏み切った。

 オイル交換からおよそ2週間が過ぎた頃、我が愛車に異変が起こった。

 交換後もシフトチェンジの度に発生する異音とシフトフィールの渋さは続いていた。しかし、交換後一週間ほど経過すると心なしかシフトチェンジがスムースになった(ギヤが入りやすくなった)ような気がしてきた。

 「いや~、そんな馬鹿な。新油に交換したんだから当然だ。そのうち元の状態に戻るさ。」と平静を保ってはいたものの、もしかするとかなり改善されるかも、という淡い期待を持ち始めた自分がいた。

 そして、交換後およそ2週間が経過した某日。その日は筑波山麓にあるジムカーナ場「茨城中央サーキット(ICC)」で企画もの取材があった。

 その帰路の常磐道での出来事。

 「桜土浦」料金所でチケットを受け取り、本線に合流すべくローで全力加速、4G63型エンジンは一気に吹け上がりすぐさまセカンドへシフトアップ。ここで異音と嫌な手応えが、 うん? 手応えがしない! 異音も嫌な手ごたえもない。

 ローで6500rpmまでひっぱりセカンドへシフトアップすると、これまでのトラブルが嘘のようにスルリと入ったのである。

 セカンドで引っ張りサードへ、もちろんスムーズ。気がつくといい感じのスピード。

 「いや、これは偶然だ、ありあえない」と否定しながらも、心は期待感で溢れんばかり。あっという間に柏を過ぎて料金所に到着。

 料金を支払い、再び全力加速、ロー、セコ、しない、音がしない。スムーズに入る。その時、始めて実感した。治った。この日を境にミッショントラブルは劇的に改善されたのである。

 もちろん、この一件後はRED LINE GEAR OIL MTLを「自腹」を割いて継続使用した事は言うまでもない。

 その後、我が愛車E38A型ギャランVR-4 RSは日常の足、ダートラ、ラリー、パーツテストなど、まさに酷使に継ぐ酷使の連続だったが、一度もトランスミッションのオーバーホールをする事なく編集部の後輩に有償譲渡(要は売却ね)された。

 RED LINE GEAR OIL MTL 恐るべきギヤオイルである。


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