エッセー 「日常会話で使われている不思議な言葉 番外編 ”ぜひぜひ”」

マスコミ業界(主としてテレビ屋さん)で良く聞かれる不思議な日常会話。

とある地上波キー局の廊下で日常的に交わされている局プロ(正社員のプロデューサー)と下請けP(下請け制作会社の営業プロデューサー)との日本人ならではのシュールな会話。

局プロ 「あ、○○ちゃんじゃない!」
(2回目以降は"ちゃん"づけ。これ業界の常識)

下請けP 「○○さんじゃないですか! お久しぶりです。お世話になってます」
(立場が上には人にはきちんと"さん"づけ)

局プロ 「何か~、儲かってるらしいじゃん??」
(嫌みのように探りを入れる)

下請けP 「とんでもないっすよ! この不況で、もうカツカツっすよ!」
(カツカツという時は、首に水平にした掌を当てながら横ババチョップのアクションを加える事を忘れずに)

局プロ 「またまた~、○○ちゃんが歩いた後はペンペン草も生えないって、×××の▲▲ちゃんが言ってたわよ」
(このあたりに来ると何故かカマ言葉になるのが局プロの特徴)

下請けP 「勘弁して下さいよ~(笑)」
(顔は笑っているが腹わたが煮えくり返っている。制作費は削るはキックバックは要求する、アイドルタレントには枕営業を強要するは、極悪非道な鬼畜はどこのどいつだ! と叫びたい欲求を抑えるのに必死。この時、瞼がピクピクと痙攣しているケースが多い)

局プロ 「久しぶりにミーノーしたいな~みたいな」
(ミーノーとは’ 飲みたいね ‘ という意味。立場の上の人間が飲みをほのめかす場合、暗に接待の要求。"みたいな" がいやらしい)

下請けP 「いいっすね~! 近々設定しますよ!」
(明らかな外交辞令。努めて前向なように、明るく、嬉しそうに言うのがポイント)

局プロ 「こないだの麻布のあの店、チリバツグーだったね」
("前回行った麻布の店はよかった" という意味。暗にリクエスト、おねだり、たかりともいう)

局プロ 「いつにしようか?」
(スケジュール帳を取りだしたらかなり本気。酒池肉林に飢えている証拠)

下請けプロ 「こないだのあの店、先週たたんじゃったんすよ~。別件探して連絡します」
(もちろんたたんでなどいない。矛先をかわすための方便)

局プロ 「マジ?? 連絡頂戴よ、いつも調子のいい事言いながらバックれるんだから~!」
(実は嫌われている事を薄々感づいている)

下請けP 「マジっすよ。でも○○さん、お忙しいから~」
(外交辞令&暇で無能なくせに高給取りの局プロに対する嫌味)

局プロ 「○○ちゃんとの飲みならいつでも調整するから」
(たかりには異常な執念を燃やす局プロは数多い。根が卑しい)

下請けP 「ぜひぜひ」
(業界用語で " 絶対に嫌だ " の意味。ぜひぜひと続く場合は" 死んでも嫌 "という意味)

局プロ「ヨロピコ」
(即決できないとすぐに次のカモを見つける。手返しが早い)

下請けP 「お疲れ様です」

まとめ① 業界用語では「ぜひ」という言葉は熱意を現す言葉ではなく「拒絶」を意味する言葉として使われる。

まとめ② 「設定します」及び「再度連絡します」は、その場から逃げるための単なる「つなぎ」言葉である。

上記事例は放送業界を事例としたが、出版業界、広告業界も極めて近しいものがある。

また、上記用語は業界のデファクトスタンダードとなっているため、マスコミ業界内であればほぼ全域で使用可能。

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鳴海邦彦 / KUNIHIKO NARUMI OFFICIAL
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