カーコラム「ISUZU PF60型ジェミニZZ Rの思い出 Part.8」
過去にPF50型、60型ジェミニのオーナーだった方ならご存知の事と思うが、ミッションオイル(ギヤオイル)にはSE級SAE30という純正エンジンオイルが指定されていた。
ギヤオイルもエンジンオイルも粘度の表示方法は同一だが、それぞれ基準とする粘度指数が異なるため実際の柔らかさを比較した場合には互いに表示された数字とは異なってくる。
ジェミニのトランスミッション用には30番のエンジンオイルが指定されてているが、これをギヤオイルの粘度表示に当てはめるとほぼ85W相当となる。
トランスミッションでのパワーロスを抑えるためにはギヤ歯面精度の向上と流体抵抗の低減が不可欠ととなる。
今から遡ること40年前、いすゞはいち早くギヤオイルの低粘度化によるフリクションロスの低減化を実践していたのである。
等級によっても異なるが、ギヤオイルには油膜切れにより歯面同士が境界面潤滑となった際の焼き付き防止のため、硫黄、塩素、燐などの減摩剤や極圧添加剤が入っている。
しかし、使用環境が異なるエンジンオイルにはこうした添加剤は一切入っていない。
それでもメーカーのトランスミッション用オイルの指定はSE級SAE30のエンジンオイルなのである。
不思議に思い、一度ディーラーのメカニックに聞いことがある。その回答は、
「ギヤの材質と加工精度、それにトランスミッションの組み上げ精度も高いので焼きついたり破損したりする心配はない」との事であった。さすがいすゞである。異様なまでの自信。
かつて三菱のGTOに搭載されたドイツ ゲトラグ社製の6速トランスミッションを初めて発表会で見た時、そのあまりのコンパクトさに度肝を抜かれた。正直、これで本当に280PSのパワーが伝えられるのか、と思っていたら、純正指定のミッションオイルはATFだと聞いて二度びっくり。
ギヤオイルよりも遥かに流体抵抗が少ないオートマ用の差動液であるATFなど、果たして極圧面だらけのトランシミッション用として使用に耐えうるのかと心底思ったものだ。
ジェミニの場合の同様で、基本は西ドイツ(当時)のオペル。クルマというものを知りつくした百戦錬磨のヨーロッパメーカーである。その設計哲学とクオリティを受け継ぐジェミニは純国産とは一味も二味も違うクルマなのである。