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カーコラム「メルセデス・ベンツW201型190E2.3-16の思い出 最終回」

 1986年式メルセデス・ベンツW201型190E2.3-16に乗り初めて1年ほどが経過したある日のこと。

 エンジンを始動するとやたらフケが悪い。まるで4本のプラグのうち2本が失火している感じ。

 アクセルペダルを踏むと、「ズモモモモ」というくぐもった排気音とともに回転計の針がゆっくりと上昇していく。

 恐る恐るクラッチをつなぎ走りだしてみると、ギクシャクした動きながらも何とか動いたが加速ができない。

 これでは一般走行は無理と判断し、いつも世話になっていたヤナセ港北工場のサービスフロントに連絡を入れた。概況を話すとフロントマンはローダーを手配、そのままドック入りと相成った。

 2日後、馴染みのフロントから連絡が入った。トラブルの原因はインテークバルブの外側に堆積したカーボンだという。

 塊状になったカーボンがインテークバルブの動きを妨げ、シリンダー内の機密が保てなくなったため、生ガスが燃焼することなく吹きぬけていたのである。

 どうやら、前オーナーはガソリンの品質には無頓着だったらしい。

 フロントマンによれば、修理にはヘッド回りのオーバーホールが必要で、その費用は約20万円前後だという。

 その値段を聞いて思わず眩暈を感じてしまったことは言うまでもなかろう。反射的に「他に方法ないの?」と聞き返してしまった。

 すると意外にも「オーバーホールほど効果は期待できませんが、インテークマニホールドを外し、インテークバルブに細かく砕いたクルミの殻を高圧で吹き付けてカーボンを剥がすという方法があります」との解答が。

 うん、なんじゃ、そりゃ? サンドブラストならぬクルミブラスト? 

 思わず「吹き付けられたクルミ粉は大丈夫なの?」と聞き返すと「ガソリンの燃焼時に一緒に燃えてしまうので問題ありません」と自信たっぷり。

 作業料金は3万円程度。ヘッドオーバーホールの20万円前後から比べれば遥かに安い。

 結局イチかバチか試してみることにした。

 それから2日後、愛しの2.3-16が無事帰還した。

 早速エンジンを始動。力強いリダクションモーターの音ともにコスワースユニットが目覚めた。

 暫しの暖気後、アクセルペダルを踏みこむ。

 ブォ~ン、ブォ~ン、スミス製タコメーターの針が軽快に上昇する。

 こりゃ凄い! さらに走りだしてさらにビックリ! エンジンのピックアップがやたら鋭い。クルマが軽い。

 後にフロントマンから聞いた話では、この手法はシリンダーヘッドのオーバーホールが困難なオールドベンツで使用するケースが多いのだという。

クルミブラスト恐るべし。さすがはヤナセ港北ファクトリー。

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