カーコラム「ISUZU PF60型ジェミニZZ Rの思い出 Part.1」
最近、歳のせいか昔の事ばかり考える。
明らかに老化&退行現象である。
想い出は、すべてが甘美なものとして感じられるから不思議である。
まさに「喉もと過ぎれば~・・・」。
時間の経過の中で、過去の苦しみや辛さはすべて浄化されてしまうのだろう。
人間の脳とは非常に奥深いものだと思う。
昔のクルマは良かった。。。と、思う今日この頃である。
初めて自分のクルマを新車で購入したのは1981年。ISUZU PF60型GEMINI 1800ZZ R、通称「PF60」である。
若いクルマ好きの中には「いすゞって乗用車作ってなくね~?」という素朴な疑問を持つ方も多いのではなかろうか。
ジェミニは、当時世界最大の自動車メーカーであるGMが推し進めていたグローバル戦略「Tカー・プロジェクト」から誕生したクルマだ。
「Tカー・プロジェクト」とは、世界共同開発の小型車を作り、GM傘下の各々のメーカーがローカライズ(あるいはそのまま)して販売しようというもの。簡単に言えば、共有シャシーに各社独自のエンジンとボディを乗っけて売ろうということだ。
そのため、日本版「Tカー」であるジェミニには、ドイツ(当時は西ドイツ)オペル社のカデット、英国ボグゾール社のシェベット、本家アメリカGM社のシェベット、オーストラリア ホールデン社のシェベット等々世界各国に様々な兄弟車が存在した。
Tカーの基本設計と開発はドイツのオペル社が担当した。特徴的な逆スラントノーズ(通称デコッパチ)の 初代のジェミニPF50型は、まさに日本版カデットである。
フロント/ダブルウィシュボーン式、リヤ/3リンク式リジッドのサスペンションも同じ。異なるのはエンジンのみ。本家のカデットの1200cc、1400ccのエンジンに対し、PF50型初代ジェミニはSOHC1600ccのいすゞ製G161型エンジンが搭載された。
小型軽量ボディに余裕の1600CCエンジンを搭載した初代ジェミニ(PF50型)は、そのヨーロッパ仕込みの足回りと相まって、高速から峠のワインディングまで極めて高いレベルの動力性能とハンドリング性能を誇り、当時の自動車ジャーナリスト達からも高い評価を得た。
その独自の逆スラントノーズのデザインから「デコッパチ」の愛称で呼ばれたPF50型初代ジェミニ。それはまんま兄弟車であるオペル カデットそのものであった。
軽量コンパクトなボディは、グロス100馬力のテンロクエンジンでもまったく過不足なく、機敏にして軽快なドライビングを可能とした。
ある意味において、PF50型こそがGMの目指したTカーに最も近いクルマと言えるだろう。
軽量コンパクトなボディに少しゆとりのパワーユニットを搭載するという手法は、クルマづくりの不変的なセオリーである。その観点からすればPF50型初代ジェミニは歴史にその名を残す名車である。
しかし、かってべレットGT Rという日本自動車史上唯一のオーバーステアカーを世に送り出した異端の自動車メーカー" いすゞ "のDNAは、そんな優等生的なクルマづくりだけで満足するはずもなかった。
いすゞの荒ぶる血を熱い情熱は、ビッグマイナーチェンジモデルとなった2代目ジェミニPF60型で昇華する事となる。