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エッセー「"太陽を盗んだ男"は日本映画界に燦然と輝く金字塔である」

 最初に断っておくが、この映画の監督である長谷川和彦(通称ゴジさん)自身、広島原爆での「胎内被爆児」である。

 製作総指揮:辣腕をもってハリウッドにまでその名を轟かす日本屈指の名プロデューサー・山本叉一郎。

 監督:全共闘世代最後のアプレゲール、偉才・長谷川和彦。

 原作・脚本:マーチン・スコセッシ監督の名作「タクシー・ドライバー」の脚本家ポール・シュレイダーの実兄にして同志社大学・京都大学講師のレオナード・シュレーダー。

 主演:稀代の歌舞伎者・沢田研二

 1979年、当代きっての才能が集結し、日本映画史に燦然と輝く最高傑作が誕生した。

その名は「太陽を盗んだ男」。

 茨城県東海村の原子力発電所からプルトニウムを盗み出し、手製の小型原爆を製造して日本国政府を脅迫するというブッとんだプロットは、偽善と矛盾に満ちた日本国家と、そこに暮らす「本音」と「建前」という二面性を持った民族・日本人の心の深層を看破したレオナード・シュレーダーだからこそ書き得たものである。

 高校教師の城戸誠は、かつては改革を信じ、事ある毎に牙を剥いては権力に挑みかかっていた。しかし、事無しを良しとする社会体制の壁にはじき返され「力なき正義は無力なり」を悟る。そしてその牙を隠し、虚無的な日常を送っていた。

 そんな城戸を魅了するのは「物質が物質でなくなる瞬間に発生する膨大なエネルギー」、原子力エネルギーの象徴とも言える原子爆弾であった。

 いつかは原子爆弾をこの手で作りたい! やがて、その抗しがたい欲求は実現に向け加速し始める・・・。

 主人公の城戸誠を演じられる男は沢田研二をおいて他にはいない。

 というよりも城戸誠=沢田研二、沢田研二=城戸誠、まさにドッペルゲンガーなのである。

 原子力という悪魔の力に、次第に心を蝕まれ自我が崩壊して行く城戸。それは「ロード・オブ・ザ・リング」の主人公フロドが、リングを捨てるための旅の途中で次第にリングの魔力に心を蝕まれて行くプロセスに似ている。

 沢田研二の鬼気迫る演技はまさに圧巻。叫びだしたくなるほど素敵だ!

 人智を超えた強大な力「核エネルギー」を得た瞬間から、コントロール不能なその力との果てなき戦いが始まる。そう、沢田研二演じる城戸誠は、パンドラの箱を開けてしまった愚かな人類のメタファーなのである。

 原爆製造過程で被曝した城戸誠が、タイマーがONになった手製原爆を入れたボーリングバッグ手に持ち、チューイングガムを噛みながら抜ける毛をむしりとり、繁華街を歩くラストシーンは、狂気と不思議なカタルシスが混在する映画史上最高の名シーンである。


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