カーコラム「メルセデス・ベンツW201型190E2.3-16の思い出 Part.3」
1996年5月某日、待望のメルセデス・ベンツW201型190E2.3-16が納車された。
早速ドアを開け車内に乗り込む。ドアが閉まる時の「バス」っという音に凄まじいまでの剛性感を感じる。国産車はまるで次元の異なる剛性感、そして質感である。
電動調整式のレザーシートを合わせ、バックミラーとサイドミラーを調整する。シートはファブリックとブラックレザーで、サイドが張り出したバケットタイプだ。
「カチ」っという、まるで文字に書いたような音と共にシートベルトがロックされる。
はやる心を落ち着かせ、イグニッションオン。ヒューンというフュエルポンプの作動音を確認し、ほんの少しアクセルペダルを踏み込みながらイグニッションキーを捻る。
フヒョヒョヒョヒョンというやや重めのクランキングの後、バリュリュンという炸裂音と共に名門コスワーが手掛けたエンジンが目を覚ました。
タコメーター、電流計、油圧計の各計器類も正常。パワーウィンドウの開閉ともに正常作動している事を確認し、やや重めのクラッチを踏みシフトレバーを左手前のローに入れる。
ゲトラグ社製のミッションはシフト操作はやや重くシフトストロークも長めだ。
ウインカーレバーを上にあげ、クラッチをゆっくりと繋いでオンコース。
ローは発進用のギヤらしく、ギヤ比が極端に低いのですぐさまセカンドにシフトアップする。ヒューランドパタンなので、セカンドは左下から右上前方へのシフトとなる。
セカンドにシフトアップしてスロットルを開く。「グォオオオオオ」という咆哮とともにタコメーターの針が跳ね上がる。6500回転でシフトレバーを直線で移動させ3速へシフトアップする。
3速にシフトしてすぐに赤信号が迫ってきたのでブレーキング。急速な減速Gが全身を襲う。鬼のように効くブレーキだ。さすがはアウトバーンの国ドイツ生まれクルマだと感動。
左ハンドルにも独特のシフトにも慣れてきたので、ハンドリングチェックのため、自宅から30分ほど走った造成地の建設道路へとノーズを向けた。
2.3-16のハンドリングは典型的なFR車のそれだが、フロントとリヤのサスペンションバランスが非常に優れ、弱アンダーから攻め込んでもめったなことでは強アンダーの挙動は示さなかった。リヤに装着されたハイドロ式ダンパーの減衰の妙が際立っていた。
ボディ剛性が高く、しかも剛性の高いリサーキュレーテッドボール式のギヤボックスを採用しているのでステアリングの切り込み量と操舵量が正確に比例している。
通常このクラスの車両では、コスト的に安価なラック・アンド・ピニオン式のギヤボックスが採用されるが、メルセデス・ベンツは敢えて高コストだが信頼性の高いリサーキュレーテッドボールを選択したのである。
まさにコスト度外視。作れば作るほど赤字だったという190Eシリーズに関する当時の逸話もむべなるかなと思わせるこだわりである。
ステアリングのロックツーロックの回転数は多めで、3.5回転ほど。また、パワステは高速走行でもフラつかないよう、全体に重めのセッティングだった。