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人事として大切にしている基本

こんにちは、リクルートワークス研究所の佐藤です。
今回は、LINEの青田努さんにお声がけいただき、HRアドベントカレンダー2020に参加させていただくことになりました。青田さん、ありがとうございます!

簡単に自己紹介をしておくと、新卒で入社したコンサルティング会社を約5年で卒業したのち、事業会社人事としてこれまで約17年間、計4社で人事を担当しておりました。

いくつかの偶然や奇跡が重なり、この4月から事業会社人事を離れHR向けメディアであるWorks誌の編集長として新たなチャレンジをしています。いまの気分はまさに、アドベントカレンダー12日の高野さんが記事にされている「新米」です。

今回は、HRに携わる方々の記事を丁寧に読みながら人事の現場を少し離れた私が過去を振り返るなかで湧き上がってきたものをシンプルにお届けしようと思います。どの項目も仕事を進める上では基本中の基本になりますが、人事としての私の経験をもとにシンプルな事例で、“大切にしている基本”をお届けしたいと思います。

1: ANDで考える

これは皆さんに突っ込まれる前に宣言しておきます。曽山さんのパクリです(笑)

今から7年ほど前、今回のアドベントカレンダーで12月1日を担当しているサイバーエージェント曽山さん主催の曽山塾に参加しました。その当時、私はHD企業でグループ人事を担当しており、HD人事の方針と各グループ企業の現場の声とのギャップに悩みを抱えていました。HD人事としてはグループ経営方針に沿った人事施策を各グループ会社向けにリリースし、運用していくことが求められます。しかしながら、各グループ会社は事業内容や事業コンディション、組織規模や社員の属性などが異なるため、HD人事発信の施策に対してさまざまな反対意見が聞こえてくる状況にあり、まさに板挟み状態でした。

そんな悩みを抱えながら軽い気持ちで参加した曽山塾でしたが、私にとってはその後のキャリアのターニングポイントになったと言っても過言ではないほど大きな気づきがありました。なかでも一番刺さったテーマが、AND思考です。それまでに、ビジョナリーカンパニーは読んでいたので、「ORの抑圧をはねのけ、ANDの才能を活かす!」という話は頭に入っていたものの、曽山さんが現場でどのように実践してきたのか、という具体的なお話をうかがい、いかに自分がORの抑圧に屈していたか、ANDの才能を諦めてしまっていたか、に気づかされ、その日から仕事に対するスタンスを変えようと決意したことを今でも鮮明に覚えています。

その日を境に、今までであればAとB、異なる意見が出てくると根回ししていかにうまく折り合いをつけるか、といった消極的な姿勢だったものが、それぞれの意見にしっかり耳を傾けて正面から向き合い、その背景をしっかり押さえるようになりました。AND思考でAでもないBでもない、新しいプランCを生み出すには、AとBをそれぞれ因数分解する必要があるということに気づき、結果としてそれぞれに徹底的に向き合うスタンスに変化しました。

その後のキャリアにおいて、新しいプランCをどれだけ生み出すことができたか?については怪しい部分もありますが、常にAND思考で立ち向かうことが私の基本スタンスになりました。それによって、多くのチャンスを手にすることができましたし、何かと二項対立で語られがちな世の中を冷静に見る目を持つことができました。

年功序列か成果主義か?

メンバーシップ型かジョブ型か?

新卒一括採用か通年採用か?

リモートワークかリアル出社か?

MBOかノーレイティングか?

ORで議論することは簡単ですが、事業会社人事にとってOR議論では物事が前に進みません。それぞれに向き合い、因数分解してAでもないBでもない自社に最適な新しいプランCを生み出す。常にこのスタンスに立ち返ることを基本としています。

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2: 鮮度の高い3Cで考える

ビジネス環境を市場・顧客:(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つに分類し、企業を取り巻く環境や戦略策定時における市場を分析する。この定番中の定番、3C分析のフレームを人事の仕事を進めるときにも丁寧に使うようにしています。

わかりやすい新卒採用業務を例に考えてみましょう。
新卒採用業務において、人事にとっての“顧客”は学生。“競合”は同業他社。さらに業界は異なっても同じカテゴリーの学生を採用ターゲットとしている企業は競合にあたります。“自社”は当然ながら我が社ということになります。

この3つの“C”を分析して新卒採用戦略を立てましょうという話はごく当たり前の話ですが、加えて私が意識しているのは、このそれぞれの”C”に鮮度という概念を加えること。

「3つのCを丁寧に毎年更新して分析して採用戦略に落とし込むことがやり切れているか?」

これは私の苦い経験がベースになっています。丁寧に作戦を立てて素晴らしいチームに恵まれ採用人数や質について大成功した年がありました。その次の年もうまくいったやり方を踏襲して新卒採用を進めましたが、何かがおかしい。明らかに歯車が狂っている。。。

途中で立ち止まって課題を分析したところ、学生の動きが変化していたり、競合企業の動きが変化していたり、自社の見え方も前年に比べて変化していたりと、細かく分析していくと採用戦略のベースとしていた3つ”C”に変化が生じていました。これでは結果に繋がるはずがありません。これは責任者である私の慢心からくるミスでした。

学生の状況は毎年変化していきますし、同じ年度内でも時期が変われば変化していきます。同様に、競合の状況も毎年変化します。ここでいう採用競合企業というのは人事が考える競合に加えて、採用したい学生が志望する企業でもあり、人事が想定する企業群と微妙にズレることも多い。そうなると、採用競合企業リストも刻一刻と変化するものなのでリアルタイムメンテナンスが必要になります。

最後の自社ですが、皆さんは自社のことをどれだけ理解できていますか?ビジネスの現場は常に動いています。そこで働く人の気持ちも変化しています。そんな動きも含めて“自社”を理解することはそう簡単ではありません。
人事という仕事は人と組織を扱うので、常に変化するという意味ではナマモノに向き合っている感覚をもつべきだと考えています。

そうなると大事なのは鮮度ではないでしょうか。

3Cというシンプルなフレームではありますが、私は人事という仕事において、”C”の鮮度を意識して丁寧に仕事に活かすことを大切にしています。

3: 言葉の先にあるものを捉える

人事の仕事をながくやっていて性格が悪くなってしまったんじゃないか、と思うことがありますが、これもその症状のひとつかもしれません。

オトナは本当のことを言わない。

自分の胸に手をあてて振り返ってみてください。小学校低学年の頃って無邪気に本当のことを吐き出してましたよね(私だけ?)。嫌いな人には嫌いと言い、むかついたときにはむかつくと言い放ち、まずいと思ったらまずいと言ってしまう。いつしか我々は相手の気持ちを慮かったり、空気を読んだりする術を覚え、本当のことを言わなくなってしまいました。これは成長の証である一方で、コミュニケーションによる相互理解が極端に難しくなったと言えます。

人事としての経験をひとつご紹介しておきます。

非常に多忙な現場のメンバーが心身ともに疲弊しているという噂を耳にしました。勤怠を確認するとかなりの超過勤務。上司に状況を確認するとどうやらプロジェクトが炎上しているらしい。このままでは体調を崩してしまうリスクがあります。そこで本人に状況を確認する流れになり、「プロジェクトが大変そうだね、無理するなよ、体調大丈夫か?」といった声をかけるシーンは皆さんも体験したことがあるでしょう。

真面目な社員ほど「大丈夫です!大変ですけどもうひと踏ん張りなので頑張ります!」といった声が返ってきます。逆に「聞いてくださいよ~もう辛くて辛くて死にそうですよ~」といった声が返ってくることもあります。

もうお分かりですよね。「大丈夫です!」が一番危ない。。。あえてわかりやすい例をあげましたが、このケースに限らず人事のあらゆる場面でこの手の裏返しの発信が存在し、私も幾度となく苦い経験をしてきました。その結果、辿りついたのがオトナは本当のことを言わない。

では、我々人事はどうすればいいのか?私は表に発せられる言葉ではなく、その言葉の先にある人の気持ちに目を向けることを意識しています。誰しも相手を思って気を遣って言葉を選んだり、ちょっと見栄を張ってしまったり、弱みを悟られないように強がってしまったり、ということはよくあります。自分の本音が自分でも見えていない場合があるでしょう。

私は、相手の言葉を受けとめつつ、静かな気持ちで「この人はいまどんな気持ちなんだろう?」「本当は何を伝えたいんだろうか?」「何を望んでいるんだろう?」といった問いと共に徹底的に向き合います。

しかしながら、言うは易く行うは難し

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人が人を見抜くことなど到底できません。そのことは十分わかっていますが、諦めずに相手に興味をもち、理解しようとする姿勢に大きな意味があると信じています。この姿勢を続けることによって、本音で悩みを打ち明けられなかった、本音で助けを求めることができなかった、そんな人たちが、10人に1人でもいいし、100人に1人でもいいので、頼ってくれることがあればそれでいい、そんな風に考えています。

私が大切にしている基本は、本当のことを言わないオトナを見抜くことではなく、相手の気持ちに向き合う姿勢を常に持ち続けること、そんな表現が適切かもしれません。

4: 隙間感度を高める

最後になりましたが、簡単そうで一番難しいテーマです。あるミッションを完遂させるときの基本的なアクションとして、ゴールを設定し、必要なタスクの洗い出し、メンバーをアサインし、優先度を考慮したスケジューリングを行い、全体計画を作成してプロジェクトを進めていくことになります。どれだけ緻密な計画を作ったとしても、実は計画に反映されない小さな隙間が存在する。そして、その隙間に対してどのように対処するかで同じ計画でも到達点とそこから見える景色が大きく変わる、そんなお話です。

今回もシンプルな場面を想定して解説しようと思います。

例えば、部下であるメンバーを階層別研修に参加させる、そんな場面を想像してください。皆さんも経験あるかと思いますが、業務が忙しいなかで時間をやりくりしてこの手の研修に参加するというのは一定のストレスがかかります。人事として育成体系の構築を担当したことがありますが、良かれと思って組み立てた研修でも参加するまでの反応はネガティブなものも多いですよね。

この状況で、管理職がやるべきタスクは何か?本人に受けるべき研修があることをアナウンスし、スケジュールを確認し、場合によっては業務調整を行う。これで十分だと思います。

しかしながら、この一連の流れのなかに私はいくつかの隙間を見出しています。まず、そのメンバーが日々の業務を進める上で抱えている課題は何なのか、次のステージに成長するためにクリアすべき課題は何なのか、といったことを日々の1on1の中で把握しておくことが前提になります。そのうえで、今回参加すべき研修の内容とメンバーの課題を紐づけて参加までにほんの一言でいいので声をかけるようにしています。

「業務が忙しいのに研修参加が重なって大変だな」(本音ではない)

「今度の研修はどんな研修なんだっけ?」(実は知っている)

「へぇ~この前、1on1で話してた課題に近いじゃん」(無理やりでもつなげる)

「終わったら感想聞かせてよ」(これは本音)

ほんの数分のやり取りです。そして研修が終わったあとに忘れずに声をかけます。

「どうだった?」

この一連のコミュニケーションがなかったとしても、メンバーが研修に参加するというタスクはクリアできるかもしれませんが、ほんのわずかな隙間を見出し、ほんのわずかな工夫で隙間を埋めることによって、上司と部下の関係の質が高まり、研修に参加する姿勢は前向きになり、その結果として研修成果も向上するでしょう。

あえてわかりやすい例で解説しましたが、このようなタスクとタスクのあいだにある隙間はいたるところに存在しています。さらにコロナの影響によってリモートワークが増加している昨今の就業環境では、この隙間をみつける感度が非常に重要になります。

部下をもつ管理職を例にあげましたが、一人ひとりが隙間感度を高め、その隙間を埋める工夫ができれば、当初想定していたゴールよりもさらに高い到達点にたどり着くことが可能になり、ゴールに到達したときの景色が遥かに想定を超えるものになるでしょう。ぜひ自分の仕事の隙間を探してみてください。

最後に

激動の2020年も残りわずか。皆さんの投稿を拝見しながら、自分の人事人生を振り返り、「大切にしている基本」としてnoteを書いてみました。やはり基本というものはいつの時代もシンプルであり、いかにやり続けることができるか?を問われるものが多いですね。

今年に引き続き来年もチャレンジの年になりそうです。自分が大切にしている基本を忘れることなく前に進んでいきたいと思います。長文にお付き合いいただきありがとうございました。来年は皆さんにとって笑顔溢れる素晴らしい年になりますよう心からお祈りをしています。

ご拝読ありがとうございました!


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