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食べる

 大学2年生の時にスペインへ1人旅をした。第二外国語がスペイン語だったからだ。しばしば西洋料理は、前菜から始まりコースとなって出てくる。日本でフレンチを食べた時も、両親とイタリアへ旅行した時も、やはりコースで出てきた。
 スペインのマドリードへ着いた次の日の昼、街に出て一軒のレストランに入った。そこはバルと呼ばれる酒場とレストランが一緒になった小さな店だった。入るなりカウンターに座り、メニューを見た。「慣れている行きつけのバルに来ました」と装いながら、前菜から最後のコーヒーまで注文した。注文を取りに来たウェイターと厨房の料理人が「おいおいマジかよ?」と言うような話をしていた。きっと昼間から酒を飲む客が珍しいのだろう。
 すぐによく冷えた白ワインと前菜のハムが出てきた。ハムは全部で6枚あった。お酒が弱いのでハーフボトルを半分飲んで顔は真っ赤になった。次にペンネを食べると十分にお腹が一杯になった。しかし続いて大きなサラダボウルがきた。ジャガイモが丸のまま4個入っていた。満腹だったが泣きながらそれを食べた。
 後々考えてみると、コースは2〜3人前で構成されており、昼間から一人で食べる事などないのだ。初めての一人旅に緊張し、馴染めそうな店にやっと入れた安堵感から、そんな事も忘れていた。店の中の客は、真っ赤な顔で涙を流しながら4人前のサラダボウルを食べている東洋人を見て、唖然としていた。
 1日目にして手痛い教訓を得た僕は、その後は「パエリアとハウスワインをください」といった注文をするようになった。ところが旅の途中、トレドという街でイラク戦争の抗議デモに遭ってしまった。ホテルがどこも満員で、1時間半くらい歩いてようやく一軒のゲストハウスに泊まることができた。足が文字通り棒になってしまった。外出する気になれなかったので万が一の場合に備えて、鞄に入れておいたカロリーメイト2本でその日の夜を耐えた。そして我ながら情けなく、やはり泣いた。


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