旅とデータと日本の課題 (4/5) 社員の熱意
では、国家成功の鍵とも言える「社員の熱意」について、日本はどのような水準にあるのだろうか。この指標は世界最大の調査機関の一つであるギャラップ社が2012年から2023年までの調査データを公開している。【図表4】
非常にショッキングな調査結果である。この最重要指標において、日本は世界最下位なのである(調査123ヵ国中123位)。熱意ある社員、の割合がたった5%しかない。つまり残りの95%はなんとなく仕事をしていたり、意に反して嫌々働いているということを示している。しかも日本の熱意が低下傾向にある一方、他国の熱意水準は年々高まって平均23%と日本の5倍近い水準である。米国にいたっては34%と、およそ3人に1人は熱意を持って働いている。20人に一人、の日本とは天地の差がついてしまっているのだ。
熱意の量が、低生産性や競争力劣後の原因となっていることは想像に難くない。世界競争力ランキングにおいても1992年まで世界一だったところから38位にまで転落している【図表】。熱意のもてない仕事時間を過ごさせていることが、生活全体の幸福低下につながってもいるだろう。
昨今の風潮として、日本のマクロ経済指標停滞や、ミクロでの賃金停滞、暮らし向きなどへの不満や不安は大きくなっており、その原因として企業戦略の不在や政治、金融政策など他責的な原因探しがされることが少なくない。しかし、それらの要素も含めた包括的な客観分析(国家の成功要因分析)から特定された原因は明快だ。日本は、やる気がないからダメになった、のである。他人や環境のせいではない、自分(たち)の問題である。
ならば、やるべきことも明快である。日本人よ、仕事に熱くなろう、ということだ。そして、リーダーとしては、熱意を持てる日本にしよう、ということである。
最重要因子で最下位、この事実は認めたくない「不都合な真実」のように感じられるかもしれない。しかし、課題解決者のマインドをもって見れば、これほどのビッグチャンスはない。最下位を起点にできるということは、伸びしろしかない、ということだ。しかも、うまく伸ばしている他国の存在は実現可能性を強く示唆しているし、その方法から学ぶこともできる。
働き方改革については、きちんと振りかえっておく必要があるだろう。まず、労働時間の実態であるが、日本はここ30年で約20%、年500時間も減少している。この間、(仕事熱意の高い)アメリカは労働時間をほとんど減少させておらず、日本の労働時間を上回るようになっている。もはや日本は働きすぎの国とは言えない (OECD内の偏差値48)。
そもそも、何のために労働時間を減少させてきたのだろうか。相関データから読み取ると少なくとも、労働時間は幸福には関係がない(相関係数マイナス0.02)。むしろ、成長に対しては長時間労働がプラスの相関(0.17)を示している。【参考グラフ】このように効果不明の労働縮小策(/働き方改革)が、「仕事は少ないほうがよい」=悪いものとしての仕事、という仕事観を助長してしまった。その弊害は計り知れない。本当に必要なのは働き方改革ではなく、仕事に熱意を持てるようにすること、であり、いわば「仕事観改革」なのである。
日本の再興に最重要なのは、仕事観の再構築である。この実現に向けて、続編ではより具体的な阻害要因や解決策、事例について紹介していく。
次ページでは、国家の戦略全体としての日本の課題を提起する。
5 戦略効率につづく
ーーー分析的な補足ーーー
参考グラフ: 労働時間と成長、幸福の関係
(「不都合な真実」を積極的に認める姿勢は、社会人として非常に重要である。問題否認の多くは知的批判の快楽や保身に由来していて、無責任さの表れでもある。結果として問題の解決を遅らせる有害性を持つ。)
(複数ソース:調査手法や回答傾向のバイアスはゼロになることはない。実用上は、データへの潔癖性を追求するよりも複数の調査結果で一貫した結果が出ているかを確認することが圧倒的に効率的である。多くの信頼性の高い機関(OECDのほかに、ギャラップ、タワーズワトソン、マーサーなどの人材系専門機関)が一貫して、日本人の仕事への低熱意、低満足の問題を報告している。)
(重要性フィルター:〇〇で日本は最下位、といったネガティブニュースは、揚げ足取り目的でナンセンスな(つまりどうでもいい)ものも多い。例えば、性交頻度でも日本は世界最下位という調査結果がある。面白いのだが、これは社会的に重要ではない。なぜなら、性交頻度は少子化度と相関していないし、幸福とも成長とも相関がないからだ。「仕事の熱意」の重大性は、重要因子でかつ最下位である、という点にある)