キャリアの旅
(高校の100周記念誌へ卒業生の進路紹介として寄稿。在校生向け)
仲間と進化を楽しむ旅
彩りを広げた高校時代
高校時代は青春そのもので、楽しむことに飽き暮れていた。テニス部に所属しつつ、好きな馬や人物の絵を描いたり、不器用に恋愛をしたり、ビリヤードに熱中したり、友人たちと西大寺(お寺)や平城旧跡で語り明かしたり(野宿)していた。友人に誘われたギター弾き語りユニットでは文化祭で演奏もした。それまで大人しく目立たない性格だったが、1300人を前にした舞台の高揚感は忘れがたいもので、表に出ることで集団内の立ち位置が一変する、という大きな原体験にもなった。手応えのあるゲームとしての勉強もしながら、多様な遊びにも没頭したことで、人生の楽しみ方や自分の可能性を押し広げられた高校生活だった。
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世界を歩いた大学時代
上京したくて進学し、一般教養に知的欲求は満たされつつ、専門科目には身が入らなかった。当時(おそらく今も)の日本の大学にはモラトリアムの空気があり、その中での優先レーンの意味を感じられなくなり、休学することにした。
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安藤忠雄さんの建築事務所に住み込んで働く機会を得て、自分の頭と手で社会に価値を作り届ける姿勢を学んだ。「いくらホームラン打てても、野球のルール知らんかったら勝てへんで。リアリティもって勉強しいや」といった助言は若い心に突き刺さり、今にいたる導きになっている。
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バックパックとギターを背負って、インドからヨーロッパ、中東、アフリカ、北米、中南米と30ヵ国を放浪した。それまでの自分の考え方は、特殊な日本の価値観に無自覚に染まっていただけだった、と思い知らされた。世界を動かしている現実の力は、宗教とビジネスであることも実感した。乗ったレールに疑問を感じたときに、一度立ち止まって未知の領域に旅立ってみることで、世界観が根本から変わる経験ができる。旅のように人生を生きることを意識するようになった。
特化と反転を繰り返した20代
ビジネスというレバレッジ装置を通して社会に大きなインパクトが生み出せる、そう考えて経営コンサルに就職をした。課題の本質を考え抜いて、普遍性のあるフレームワークを創り出す知的技法を鍛えた(今も続く趣味・特技になっている)。高いプロ意識と生産性、方法論の確立された集団で、論理世界の一つの極みを見た気がする。一方で、HOW=方法に特化した第三者でいることの限界も感じ、その反動で、WHY=意味を問う企業理念策定や、ブランド・組織開発などの領域にも取り組んだ。20代は外資コンサル、広告代理店、ベンチャーと、3年ずつ3社、まったく違った組織文化を味わうことができた。
修行の時期はあえてバランスをとらずに、とことん偏ってみるのもよいのだと思う。偏りきってから逆の偏りに飛び込むことで土台が広がり、高次のバランスがとれるようになる。左脳から右脳への反転、支援者から主体者への反転はチャレンジグで有意義だった。
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よく働いていると心身が覚醒して、よく遊ぶようにもなる。東京タワーが見える部屋で定期開催していたパーティは盛況で、一見軽薄ながらも朝まで哲学談義をするような深い仲間もできた。
仕事はどんどん面白くなっていく
32歳からは13年間、飽きることもなく楽天でマネジメントをしている。実質的な社会インパクトを大事にする会社で、そのための主体性、行動力、チームワークなど、総合的な働く力、働く喜びが引き出される環境に感謝している。いうまでもなく、思考だけでインパクトは生まれない。思考からビジョンを紡ぎ、そのビジョンに共鳴する仲間を集め、チームとして育成していく。そのチームと、大きなアセットレバレッジをする戦略判断、やりきる実行力をもったリーダーが現実を変える仕事を成立させていく。日本がもっと元気になっていくためには、そんなリーダーが育成され、活かされていく文化が重要だと感じている。
現在の役割は、「楽天ポイント」(年間6000億円分を付与)や「お買いものパンダ」(5200万人のスタンプユーザー)といったユニークなマーケティングアセットの責任者をしている。回り道の試行錯誤をしたキャリアだが、左脳的なビジネスロジックと、右脳的なマーケティング感性をつなげる仕事に私の適性があったようだ。また、やってみて初めて分かったことだが、リーダーとして組織を作っていく仕事が何より面白かった。
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みなさんへの期待
みなさんには伸び伸びとそのポテンシャルを活かしきってほしい。私なりに実践して有効だと思った考え方を3つお伝えしたい。
まず、夢を見て旅に出ること。夢はなんでもいい(旅に出るための方便だ)。果てには何かあるはず、と動き始めれば、縁や運に導かれて人生は進んでいく。果てには空しかないかもしれないが、その旅路には必ず実りがある。
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次に、思考モードをコントロールすること。人も組織もそのモードによってできること、得られることが全く違ってくる。物理に喩えると、思考は、気体/液体/固体のような性質を持っていて、気体はふわふわと主観的なイメージ、液体はつながっていく関係性、固体は形のある客観性のようなものだ。
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この三相の思考を自覚的に使いこなすことができれば、生産性とバランスが飛躍的に向上する。この位相を決定するのは、圧力と温度であり(中学理科)、人間においては「圧=責任」と「熱=パッション」といえる。いずれ社会に出て、適量の圧(役割)を担っていくことと、そのときにこわばった固体にならないように、自分の情熱を燃やし続けること、が大切だと思う。
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最後に、役割の次元を上げる志をもつこと。学生時代は能力向上に注力してよいと思う。ただその後の役割は何段階にも渡って転換していく。学習者、消費者から生産者になり、実行者から解決者、設計者、変革者、育成者、守護者など、求められる力や姿勢、ルールや価値観まで変化していく。その時々での役割を全うしながら固執せず、次の段階へ脱皮する準備をしていってほしい。ポテンシャルあるみなさんが役割の進化を繰り返し、社会のよきリーダーになっていくことを期待し、応援したい。
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高校時代の友人は生涯の友になった。卒業して27年、つい先週は東京での同窓忘年会で盛り上がり、今週は文化祭で演奏した相方と月例ゴルフを楽しんでいる。
2023年12月