写真家が、綴ることば。三澤武彦氏。
大好きな本がある。
「三澤武彦著・自宅で花嫁のすすめ」
結婚式の写真集だ。
★★★
私は、子どものスタジオ写真が苦手だ。赤ん坊にタキシードやドレスを着せて華やかなフレームの中で笑わせたり、普通を装ったスタジオで「ナチュあざとい」状態で子どもたちを微笑ませたりするのが、どうにも見ていて恥ずかしい。友人の家に飾られているたくさんの写真の数々を、ちっとも可愛いと思わなかった。
しかし娘が3歳のとき。姉からの提案で七五三のお祝いに、お互いの子どもをスタジオで撮影して、そのまま神社で七五三祈祷をしてもらおうという流れになった。
スタジオ写真かあと思いながらも、だ。三歳の愛らしい娘が赤い着物を着たら……うん、絶対可愛い。シンプルな衣裳をえらんで、シンプルな背景で撮ってもらおう。そうだよ、毛嫌いしないで一度くらいやってみよう。
しかし結果は惨敗。
詳しくは書かないけれども、スタジオ写真はやっぱり苦手でした。
そんな矢先に知人に紹介されたのが、海野恭輔さん。
彼は室内でも野外でも、おめかししてでも普段着でも、どんなロケーションでも最高の撮影をしてくれる。
一度お願いしたところ、彼の人柄に家族一同とりこになり(彼はアメリカ在住時にベビーシッターの経験があり、子どもの相手がとてもうまい)、私たち家族の写真で2度、そして親も含めた夫の親族一同で1度、その際は父と母の生前遺影も撮影してもった。
その時の様子はこちらのnoteに。
★★★
くだんの写真集「自宅で花嫁のすすめ」は、そんな海野さんの師匠、三澤武彦氏が著者。
ビジュアルからしてなんだかもう、「面白そうなおじさん」だ。Facebookではひょうひょうとした語り口で、日常を切り取る。もちろん、自身の写真を添えて。
世間に対する批判などのやや辛辣な内容でも、三澤氏の言葉はとてもユーモラスであたたかい。ホームページの「結婚写真をはじめる人へ」シリーズは、カメラマンを目指すひとだけではなく、全クリエイターの皆さんへ届く言葉。第三章の「才能なんてスタート地点がちょこっと違っていただけのこと」という言葉は、耳が痛いひとも多いだろう。
そんなこんなで、ストーカーなみに三澤氏の書きものを読んだ私は、会ったこともないのに、すっかり彼のファンになった。
写真集が発売されたのは、2018年。私はもう自分の結婚式など考える必要がなかったけれど、普段Facebookで楽しんでいる三澤氏の言葉がぎゅっと詰まった写真集だ。買わないという選択肢はない。それに何より、平然と新郎新婦の前を横切る猫。この写真を表紙にセレクトする三澤氏の「結婚式」観がたまらない。
もうね。
これから結婚式をするひとは、みんな買えばいい。特に、ブライダルサロンでの打ち合わせの中で悩みや迷いが生じているひと。なんで結婚式をするのか、わからなくなっているひと。そもそも、結婚式なんて必要なの?と頭を抱えているひと。写真に添えられた三澤氏のコメント、インタビューページ、そして最後の解説ページのすべての言葉に「結婚式とは」があふれています。
こういう著書に出合うと、写真家はファインダーをのぞきながら何を考えているんだろうと思う。文章は思考のカタマリ。三澤さんは、撮影のときもこんなふうに柔くてのんびりした気持ちででシャッターを切っているのかしら。
(そういや、note仲間の仲さんもワタナベアニさんの著書紹介のnoteで土門拳さんについて書いていたな。うん、確かにいい写真を撮る写真家の著書にハズレはない)
実は私、初noteが「自宅で花嫁のすすめ」の感想文でした。2019年3月。それまで読む専門のだったのに書くにも参加できるようになったのは、この写真集のおかげなのです。
★★★
なぜ、私はわざわざ今二度目の感想文を書いているのかというと。それは、ブライダルまわりの写真・映像関係の皆さん、どうにか踏ん張ってください!と祈りを込めて。
前述のお二人のカメラマンへの応援と、私が週に1,2度アルバイトに行っている映像会社が休業を余儀なくされているので、そちらへのエールも込めて。
一介のアルバイト従業員なので詳細はわかりませんが、わたしがお世話になっている会社は業務の大半が披露宴関係。婚礼日前に制作する生い立ち映像、エンドロール、余興動画の撮影や編集。そして当日のビデオ撮影に写真撮影、それらすべての編集。このご時世で式場からのキャンセル・延期が相次いでいます。アルバイトは当然休みで、社員も仕事が少なくて交代で休みを取っているそうです。
「延期」ならまだ希望がある。しかし、日程の都合から「キャンセル」を選ぶカップルも少なくないそう。
ブライダル関係、主に式場のキャンセル料ばかりが話題にのぼりますが、式場のまわりにはたくさんの小さな会社が関わっている事実を、皆さん忘れないでほしい。
飲食店ばかりではなく、大変な局面にいる会社は他にもあります。飲食店のそのまわり、ブライダルまわり、理美容室まわり、休業している店や会社・業界のまわりに星の数ほど会社がある、職業人がいる。
どうかどうか、この難局を乗り越えられますようにと。そんな願いを込めて、このnoteを。
「自宅で花嫁のすすめ」はkindle版もあるので、ぜひ。三澤氏の文章、たくさんの人に読んでほしいです。そして何より写真がとても素敵です。主役の新郎新婦だけではなく、家族、友人、猫に町のひと。
もしかしたら「花嫁」「嫁入り」の言葉に抵抗があるひとがいるかもしれません。でも、この写真集の前でそんな気持ちは野暮。