
米国大統領選挙と株式市場
1.「トランプ氏vsハリス氏」の現在の状況
注目されます11月5日の米国大統領選の投票日まで10日を切り、いよいよ近づいてきた印象です。直近の状況について、政治専門サイトRealClearPoliticsが集計した10月26日時点の世論調査で確認しますと、共和党トランプ氏の支持率が48.4%、民主党ハリス氏は48.3%と、まさに拮抗した状況となっており、この終盤になって史上まれにみる接戦となっているようです(図1)。

(出所)政治専門サイト「RealClearPolitics」のPoll Averageより
https://www.realclearpolling.com/polls/president/general/2024/trump-vs-harris
ハリス氏はバイデン大統領の次期民主党大統領候補を引き継いで以降、想定以上の勢いでトランプ氏を猛追し、8月以降は一転してリードを奪う展開でしたが、10月に入って差を縮められた状況です。激戦州であるウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ジョージア、アリゾナ、ネバダの7州についても激しい選挙戦を繰り広げており、現時点では7州ともトランプ氏がリードしているようですが、ジョージア州とアリゾナ州以外の5州はいずれも1ポイント以内の僅差となっており、これらの州は「スイングステート」と言われ、大統領選の年によって、共和党が勝ったり民主党が勝ったりする支持政党が変わりやすい州ですので、まさに最後までわからない状況と言えるでしょう(ジョージア州とアリゾナ州は2020年の選挙では民主党のバイデン氏が勝っています)。
2. 両大統領候補の選挙公約や発言内容
さて、このようにまさに混迷の米国大統領選において、結果が全く読みづらい中ではありますが、大統領選の結果による米国経済や株式市場への影響も気になるところですので、まずは、両者の選挙公約や発言内容について確認してみたいと思いますが、簡単にまとめると図2のようになります。

(出所)各種報道情報より筆者作成
図2の主要項目について、両氏の政策スタンスの違いを簡単に解説しますと以下のようになります。
① 経済政策や物価対策
・トランプ氏は、減税と規制緩和を強調しており、特に企業の税負担を軽減し、経済成長を促進することを目指しています。また、インフレ抑制も強調しています。
・ハリス氏は、中間層と低所得層の支援を重視しており、食品や住宅の価格を引き下げるための政策を実施する一方で、法人税率引上げや個人所得税の引上げ(低所得者は対象外)、そして富裕層のキャピタルゲイン課税引上げなど行う方針です。
② 通商や関税政策
・トランプ氏は、通商では米国第一主義を掲げ、二国間交渉を重視する姿勢を示しています(保護主義的)。また、広範な輸入品に対して関税を引き上げることを公約しており、特に中国からの輸入品に対しては高い関税(60%)を課すと主張しています。
・ハリス氏は、国内産業保護を謳っており、対中国では同盟国と連携した管理を重視しています。また、関税については、外国製品に一律10%の関税をかける意向ですが、対中関税率の引き上げは安保上重要な分野に絞って行い、またトランプ氏が提唱する中国への60%関税は米国家計の負担増につながるとして反対しています。
③ 産業やエネルギー政策
・トランプ氏は、自動車産業や仮想通貨、AI開発などにおける規制の撤廃・反対など、基本的に各種規制を緩める方針を強調しています。また、環境規制についても撤廃を進め、石油やガスの採掘を拡大する方針です(EVについても基本的には批判的な立場)。
・ハリス氏は、仮想通貨や利益を優先するITやAI開発などは規制を強化し、反トラスト法(独占禁止法)も強化する方針です。またクリーンエネルギーの普及を支援し、電気自動車の普及を推進する政策を掲げています。
④ 移民政策
・トランプ氏は、国境の壁の建設を完了し、不法移民の取り締まりを強化することを公約としており、また米国史上最大規模の不法移民の強制送還作戦を実施することも約束しています。
・ハリス氏は、不法移民の取り締まりは強化しますが、移民希望者が押し寄せる根本的な原因に取り組むことを重視するなど、人道的な対策を進める方針です。
⑤ 外交政策
・トランプ氏は、孤立主義的な外交政策を掲げ、世界各地の紛争から米国が手を引くことを求めており、大統領就任後はウクライナでの戦争を24時間以内に終わらせるとも主張しています。
・ハリス氏は、米国の国際的なリーダーシップを強化し、同盟国との協力関係を重視しています。特に、中国との競争において米国が勝利することを目指しています。
3.経済や株式市場への影響
以上の選挙公約や発言内容から、今回、共和党トランプ氏が勝った場合と、民主党ハリス氏が勝った場合における経済や株式市場への影響については、以下のように考えています。
① 共和党トランプ氏が勝つ場合
トランプ減税の恒久化や法人税の引き下げ、各種規制緩和や撤廃などが行われることから、米国景気や企業業績にはプラスの効果が出やすい反面で、輸入品の関税引上げ(保護主義的な通商政策)による輸入品価格の上昇や、各種減税による財政負担への懸念もあり、インフレの加速や金利の上昇などにつながりやすくなるものと思われます(直近では「もしトラ」が再燃しており、インフレへの警戒からFF金利先物市場で利下げ観測が後退してきています)。さらにはトランプ氏の孤立主義的な外交は、世界のパワーバランスにも影響を与えかねず、世界各地での紛争を助長する可能性もありますので、経済や株式市場にとっては常に不安要素として残りそうです。
② 民主党ハリス氏が勝つ場合
中間層や低所得者の支援、食品や住宅価格の引き下げに注力し、関税の引上げは必要な対象に絞って行うため、インフレ圧力は抑制されやすく、金利も低下しやすい反面で、法人税率や個人所得税の引上げ(低所得者は対象外)、富裕層のキャピタルゲイン課税引上げなどが行われ、さらにITやAI開発への規制強化、反トラスト法強化など、各種規制強化も行われることから、米国景気や企業業績、また株式市場参加者にとってはマイナスの影響が出やすいものと思われます。
ということで、いずれのケースでも、米国経済や株式市場にとってはプラス面とマイナス面の両方が存在し、どちらの候補が勝ったとしても、経済や株式市場への影響はそれほど大きくならないものと思われ、大統領選を混乱なく通過できれば(前回のように暴動に発展したりせずに)、また企業業績の動向をフォローしていく通常の展開になるものと想定しています。これは、そもそもハリス氏が勝てば、基本的には今のバイデン政権の政策を踏襲することになりますし、トランプ氏が勝ったとしても、すでに前回大統領での同氏の言動や実績は市場参加者もわかっている(すでに免疫ができている)ことも理由として挙げられます。
むしろ、大統領と連邦議会との関係がねじれる(大統領の政党と議会の多数政党が異なる)と各種政策が進みにくくなるため、財政や経済に影響が出やすくなりますので、その辺りも注視していきたいところです。
以上、簡単ですが、今回は大統領選による経済や株式市場への影響をまとめてみました。
(実際の投資に際しては、自身のご判断でよろしくお願いします。)