【アーカイブ】愛の、回し蹴りを入れたい。日本公開40周年『ドラゴン特攻隊』の謎②
前章でもお伝えしたジャッキー・チェン(成龍)がゲスト格で出演した映画『ドラゴン特攻隊』(83年)の前に撮られた『アマゾネスコマンドー』と『セクシー・コマンド部隊/ピンク・フォース』(共に82年)の主演は、いずれもブリジット・リン(林青霞)です。ココで気付いた方もおられると思いますが、『ドラゴン特攻隊』はジャッキーというより実はブリジット・リン主演のアクション大作3作目という位置付けなのです。ただ、『ドラゴン特攻隊』は『アマゾネスコマンドー』と『セクシー・コマンド部隊/ピンク・フォース』と決定的に異なっている点があるのもまた事実です。
『アマゾネスコマンドー』は、ブリジット・リン扮するアイパッチ姿の女盗賊ブラック・フォックスが主役です。
『ドラゴン特攻隊』の前半、極東軍の捕虜になった連合軍高級将校救出のための特攻隊隊長人選のシーンで、007(ジェームス・ボンド)や悪漢探偵、スネークキング(映画『ニューヨーク1997』の主人公スネーク・プリスケンの改変キャラか?)やロッキーに混じって、ブラック・フォックスの名前が挙がって来るのです。
『アマゾネスコマンドー』は、黒澤明監督の『七人の侍』(54年)以降、連綿と世界各国で作り続けられた”七人”路線の戦闘アクションです(英語題が「Seven Black Heroines」)。第二次大戦末期の中国を舞台に、前述してきたブリジット扮する盗賊ブラック・フォックスが、女性の凶悪犯ばかり収監されている軍刑務所から6人の腕に覚えがある女囚を脱獄させ、反乱軍の毒ガス製造要塞の破壊を目指します。『ドラゴン特攻隊』につながるフォーマットがこの時点で確立されているのですが、コメディー要素は少なめで(日本版ビデオのジャケにある「お色気」シーンもかなり控え目です)、欧米の女囚脱走映画やマカロニ・ウェスタンや冒険活劇の要素も加え荒唐無稽ではありながら、本格的な戦闘アクションに仕上がっています。日本では、80年代後半に再編集モノの粗悪な”ニンジャ映画”を数十作濫発し、世界中のB級映画マニアを激怒させた香港の映画会社IFD配給による英語音声の国際版がビデオ化されました。英語題も「Golden Queens Commando」に改題されています。
『アマゾネス・コマンドー』ドイツ版VHSリリース時の予告編動画(英語)↓
複数の女性集団が活躍するアクション・ドラマは過去日本でも「プレイガール」(69~74年)という連続ドラマが作られたり、アメリカでは「チャーリーズ・エンジェル」(76~81年)などのシリーズが人気を博しましたが、文字通りその国を代表するトップクラスの女優を7人揃えて、銃撃戦や格闘、爆破などふんだんに盛り込んだアクション映画を完成させるのは、世界中を見回してもあまり見られないケースです。
2022年にハリウッドを代表する実力派女優ジェシカ・チャスティンの企画で実現したオール女性キャストのスパイ・アクション『355』(サイモン・キンバーグ監督)の時さえ、「本来なら実現困難な企画」と言われていました。
そんな『355』の40年前、同作の5人を超えた7人の台湾トップ女優による本格アクション映画となった『アマゾネス・コマンドー』が、いかに画期的な企画であったかお分かりいただけると存じます。(この項つづく)
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