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エンジニアにとっての音とは

新年ですし、実際に現場も経験したのでそろそろスタンス的な話をしてもいいのかなと思ったので書いてみることにします。


音響としての音っていうと少しずれてしまうと思います。これがエンジニアといってももちろんずれているのはわかっているのですが、私にとっての音は一体なんなのか、普段音とどう接しているのかをちょっと書いてみたいと思いました。

そもそも音ってなんだ?

Hello Worldでも書いたかもしれませんが、そもそも音ってなんなんだろう。ってところまで遡ってみましょう。まず音とは何かの変化を感じることのできる物理現象くらいに捉えておきましょう。何かの変化を感じさせる…つまり変化を分けることができるんですね。身近にあるわかりやすいものだとなんでしょうか。”信号”というのがよいですね。信号機は青・黄・赤という3色から成り立っていますね。もちろん色にももっとバリエーションがあり、様々な組み合わせが考えられますね。というと身近に隠れているデザインは”信号のデザイン”と言うことが言えるかと思います。
ちょっと脱線しました。音には”周波数”という考え方があります。例えば音楽に置いて基準になるラの音は440Hzと定められています。これを倍数にして音階が作られると考えてもらって大丈夫です。では440Hzと880Hzの音は違うのか。違うんです。このとき音楽用語では1オクターヴと言います。この音の違いはしっかり認識できるので”信号”ということができそうです。でも880Hzの音は440の倍数なので440Hz *2と言うことが来そうです。さらに言うとこれ2^3*5*11の2倍と言うことができますね。このように数字を式に直していく過程を”信号処理”と呼びましょう。この数字を入れ替えることで様々な関連する音を展開することができます。
何が言いたいのかと言うと音が”信号”であると言いたいだけです。

音の処理

音の処理をするにあたって信号処理という技術は欠かせません。この信号の中に何か意味を持たせることもできます。例えば歌を歌ってみましょう。日本語の歌詞が頭に浮かぶでしょうか。ではなぜそれが歌詞とわかったのでしょうか。
それはその信号を日本語にマッピングしなおしているからなんです。つまりその音、その信号には言葉という処理をかけられることがわかってきます。こうして音は人間に処理されていくので”信号処理”というのは頭の中で常に行われています。なので技術というのはちょっと言い過ぎなのかもしれません。(もちろん専門で勉強されているかたはたくさんいます)

言葉って?

今この記事を読めているのは日本語という言語がわかるからです。それがどんな音になるかはみなさん知っている通りです。たまに海外の方で”アリガトウ”と言ってくれる方がいますね。多分海外の方はそれがどんな意味なのか我々とは違う認識だと思います。それでも日本語を喋ってくれるととても嬉しいですね。しかし日本人とは違う発音をしますがそれを”アリガトウ”と認識できるのは発音が似ているからに他ならないです。言葉と音がリンクする瞬間です。
ちょっと夢がない話になりますがボーカロイドというのは音を言葉にするソフトウェアですね。文字を打つとそれが音になります。それを人は言葉として認識できるのでこのソフトウェアが成り立ちます。
人と人がコミュニケーションをする際に音が密接に関わっていることがわかると思います。

音楽とは

少し難しい話から今度は音楽の話をしていきましょう。先ほど話したように音の倍数であったり、また周波数の比で音楽を作り出すことができます。そんなふうに考えている音楽家ってそう多くないので、エンジニアとしては周波数としても認識してるんだよ。って思ってください。多くの場合エンジニアは波形を見ることになりますし、周波数を変化させる作業をします。Syncroomで考えてみましょう。セッションする人同士の音がぶつかり合わず、一つの音楽として成り立つのはなんでなんでしょうか。そのヒントがミックスになります。実際に部屋で出している音量とSyncroom上で流れる音は違います。最終的には絶対的な音量というよりかは共演者さんとの音量の比が大事になってきます。この作業も立派なミキシングの作業になるのでこれをより複雑に扱っているのがPAだったりします。ソロで演奏するのであれば音色だったり、音量や高さが大事になってきます。複数人で音楽を作る際にはとりわけ音量のバランスをとることで音楽が成立します。音楽に限った話ではないですが誰かのことを思って演奏するので音からは感情が伝わるのではないかなと思ったりもします。当然ミキシングする人もマスタリングする人もアーティストさんもリスナーさんの思いを考えなければならないので、感情は無視できません。なので伝えたい言葉や思いを音にするのが音楽と言えます。これが意図した方向へ伝わらないと感動を得ることはできませんし、聞いている側も同じ気持ちになって聴くことができません。なので、PAやレコーディングに関わるエンジニアは全て、システマティックに手を動かしながら考えていることはアーティストの方や届けるリスナーの方への思いの橋渡しをできているのかどうかというのを考えています。音楽というのは単純に周波数で語ることができません。この音の組み合わせは理論に基づいてできているのではないので、音楽というのは複雑にいろんな要素が絡み合ってできているんですね。だからこそ難しい世界ですし、魅力的な音の世界だと感じています。作曲者も、演奏者もエンジニアにとっては天才です。

サウンド

では音響でよく聴くサウンドとは一体なんでしょうか。答えから言うと総合的な音を指します。いいサウンドだね。と言った場合には総合的に音楽としていい音が完成したことを指す場合が多いようです。逆に空間を評価する時にデッドな部屋という言葉もありますが、これは音が死んでいるというよりも残響音が死んでいるというニュアンスに近いように思います。というのもそもそも音が死んでいたら具体的な指標に基づいて話をしているのでclearityが低いとかD値がとかいう話になることが多いです。他にもST値が悪いとステージの音がデッドなんて表現をつかったりします。このようにエンジニアと聴衆には認識の差異が発生していることがわかります。エンジニアにとって、音がいいという言葉は使わずにサウンドという言葉を使うことがあります。私は音楽そのものが素晴らしい場合にはサウンドという言葉で表現するようにしています。音がいいねというのは音楽的な評価をしていないのではないかというふうに感じとれるからです。

組み合わせ

ミキシングの話ではないです。様々な要素を複雑に組み合わせてエンジニアの仕事が成り立つ話をしたい。と。
よくいうことですが、エンジニアはエンジニア中心に物事を考えてしまうのであればこれは”マニア”で止まっているのではないかなと思います。他人の音楽を一番いい音、その人の魅力を最大限出すことがエンジニアの仕事ではないでしょうか。例えばホールを作る時には自分の音も大事ですが、その時の音楽だったり、そこで演奏される音楽の時代に合わせた音響を目指して設計していくことになります。録音エンジニアはマスタリングする際に的確に処理できる音を取ることは当たり前ですが、そもそも最もリラックスした状態で録音に臨めるようにアーティストさんと関係作りをすることも必要です。コンソールでできることよりも雑談や、コミュニケーションの時間に割く時間を長く取るのはそのためです。いくら録音機材が良かったとしてもアーティストさんが伝えたいメッセージを伝えられる演奏でなければ意味がないので。ではPAはどうでしょうか。先ほど言ったように音量の比はミキサーで仕事をすればいいだけなのでそんなに難しくなかったりします。どちらかと言うとマイキングや、マイクを通すとどんな音になるからどう言うふうに歌うといいよとかそういったアドバイスをすることがとても大切です。私のスタンスですが、まず私の現場に入っていただいたら”何かを持ち帰る”ことを目標にしています。そのイベントやレコーディングが最高のものになることは最低条件であって、アーティストの方がこのステージを通して持ち帰れるものがあるのかどうか。割とマイクの話をすることが多いのですが、場合によっては歌唱アドバイスも行なっていきます。これは自分の耳だよりですし、多少の音のセンスがなければ成り立たないのですが。何をもってその音が良い音とするのか、芸術的目線を用いてテクニカル的なアドバイスを行います。なので機材をそろえたところでただ音を録ることしかできないのでここはうまく橋渡しをする必要があるんですね。

エンジニアの必要性

これを理解できてない場合には総合的なエンジニアとして活動をすることができないです。そのためには楽典から、音響理論・デジタル処理や音声学まで勉強する分野は多岐にわたります。機材は経験則で選んでいるのですが無知で望むわけにはいかないので現場で使うマイクについては事前に勉強して行ってそれ以外にも対応できるように幅広く深い知識が求められます。そうでなければアーティストにもリスナーにも音響についての知識を求めることを強いてしまいます。音響機材だったりの話は専門家に任せてればいいです。ただそれを聞かれた時に的確にエンジニアは答えるべきだと思います。一体どんなことをしていて、何をしたいのか。これを噛み砕いて話せばいいと思います。もちろん仕事の核になる話はなかなかできないのですが私はなんでこんな構成で今回は機材を選んだのかなどは考えて現場に入るので話すことができるようにしています。マイキングの話も、実際に一緒に聴きながら音を詰めていきます。一旦録音してみて、それをアーティストさんと一緒にリスナーのポジションで聞いてみて納得するまでセッティングだしを行なっていきます。エンジニアは技術的な話もさることながら芸術性についての理解もなければいけないし、音響理論的な話も分からなければならないので覚えることがかなり多いです。

ここでおしまい。

さて、全部ではないのですが半分くらいは書けたのではないでしょうか。基本的に仕事の主体になるものはよくいう音響ではないと言うのがちょっと不思議な音響の仕事です。それぞれがプライドをもって仕事をしていますが演奏、リスナーに対してどれだけの感動を提供できるのかが一番大事なところであると思います。そのために専門的な知識の勉強はかなりしますし、音に貪欲になって様々な音を聞くこともライフワークとして取り組んでいます。例えば新作のCDが出たとしたら聴いてみてマスタリングはどんなプラグインを使ったのか、どんな空間で録音したのか、マイクは何を使っていそうなのかまで耳で聞くことで勉強をしています。それゆえに自身の現場に入った時に調べるというよりかは安心感を与えられるのではないでしょうか。どこかが欠けてしまえばそれは総合的な音のエンジニアとは言えない状態です。もちろん総合があればもっと深い知識を持っているPAさんやスタジオでの音響さんがいるので色々聞いてみると良いかもしれません。何をするかも重要ですが一体何を創るのかがとりわけ必要な仕事だと思います。

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