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【活動録】第27回カムクワット読書会

こんにちは。本日は鈴木涼美『YUKARI』を課題作品に、横浜相鉄ジョイナスにあるUNI COFFEE ROASTERSにて開催しました。

参加者は初参加1名を含む2名でした。

今回の課題作品は「紫」が目を引きます。

どこへ? 誰が? 何のために?

歌舞伎町は異界か?

『YUKARI』の語り手が生きる場所は、歌舞伎町を中心とした新宿の歓楽街です。「普通」の女子高生だったユカリが学校を中退し、それまでの生活や名前を捨てて飛び込んだ場所でした。

作品内では、そこでの暮らしをそれ以前と切り離したものとして語られ、特に印象的なのが名前を変えることでした。

『千と千尋の神隠し』で千尋が「千」にされ、音と文字を失ったように、ユカリも異なる名前として生きることになりました。

参加者のひとりが神話学者ジョセフ・キャンベルの「ヒーローズジャーニー」について話してくれました。曰く、物語は「日常」と「非日常」に分けられ、日常で何かしらの変化が起こり非日常へ移行し、そこで試練などを経て日常に戻る。主人公はそれによって「報酬」を得るというものです。

異界へ続く?

今回で言うならば、高校を中退して歌舞伎町という非日常へ移行し、さまざまな経験(男性遍歴)を経て、結婚をきっかけに世田谷という日常へ戻ります。

上記の説であれば、ユカリは結婚相手という報酬を得たと考えられるのでしょうか。

しかし、この作品はそこが幸せなゴールには見えません。結婚前夜のユカリが新大久保らしき街の韓流系地下アイドルにのめり込みます。ヒロイックな「わたしを連れ出して」的語りもあり、それがマリッジブルーか狂うような恋心かはそれぞれの感じ方がありますが、結婚をゴールとしていないことは確かだと感じました。

手紙のあて先は?

本作の特徴のひとつが、各節がユカリから男性にあてられた手紙である点です。

高校時代に(ある種セクハラ的に)目をかけられていた先生、見初めてくれた結婚相手、かつての太客、韓流アイドル。それぞれが異なる名前で彼女と接し、それぞれでユカリも顔を使い分けているように読めました。

本人には好意的に語った行為を、別の男性にあてた手紙では嫌悪感を露わにしています。

これと同様なことは日常で耳にしないでしょうか。たとえば、陰口。たとえば、リップサービス。匿名的SNSにおける罵詈雑言を想起すれば、手紙における書き分けに納得できるのではないでしょうか。

さらに、手書きである点に着目すると、タイピングより文字を生み出す速度が遅いため、思考が行ったり来たりする点があげられます。書いているうちに思いついたことを書き、それは消すことができず(あるいは困難で)、思いつきの後で前の話題に戻ったりします。

その手紙を本当に出す手紙の下書きだとすれば、実際に出された手紙は読みやすくまとめられている可能性もありますが、理路整然としていたらこの作品の面白さはなかったと思います。

また、そもそも手紙は本当に届けられたのでしょうか(先生からはがきで返信があったと記述がありますが)。書くことは夢のように思考を整理する効果があります。ユカリが日記や落書きとして書き散らした文章の可能性、あるいは脳内でぐるぐるとしている思考を文字として読者に見せている可能性も考えられます。

思考、記憶であれば、ユカリの都合で書き換えられていても不思議はありません。その意味で、この作品の登場人物たちの輪郭はぼやけていて、そこが一種の魅力だと感じました。

語りは続く

『YUKARI』は語ることが尽きない作品で、12時半過ぎまで続きました。さらに、そこから他の作品やジャンルに話題は変わり、1時間ほど話が尽きませんでした。

SFやミステリの話題、芥川賞の傾向、映画の話題など、昼食を忘れて話しました。

次回以降の予定

次回は6月29日(土)に読書会を予定しています。
午前中に課題作品読書会、午後に「ゆっくり読む・書く」ゼミ活動について行う予定です。

課題作品の候補は下記の作品を予定しております。

・池谷和浩フルトラッキング・プリンセサイザ書肆侃侃房(ことばと新人賞)
・藤田貴大『T/S』筑摩書房

引き続き、カムクワット読書会をよろしくお願いいたします。

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