美大卒ニートの日常 #4

会社を辞めてから3ヶ月が経とうとしている。
バイトもしていないので、私は今100%のニートである。社会との関わりがないということで、漠然とした不安に包まれる。のが自然かと思われたが、そんなことは驚くほどないのであった。

とはいえ、シンプルに収入がないので、金銭感覚は徐々に変わりつつある。家にいて、自分で料理したものを食べるのが一番お金がかからないが、一日中家にいるとうっすら虚しいので、夕方に近所のカフェなどに行く。ささやかな楽しみである。
本日は少し奮発して、カフェではなくファミレスにしてみた。人は誰しも、一口食べて「あ〜今これ食べたい気分じゃなかった」となる瞬間がある。その感覚を私は今日味わうことになる。
一人で飲食店に入った時は周りの客の様子が気になる。人との関わりが少ない毎日を送っているので、以前に増して気になるようになった。案内された席の隣の席では、一人で来店している中年女性が自撮りを繰り返している。音から察するにiphoneのライブフォト機能で撮っている。加工に頼らず地肩で勝負というわけか。頭が下がる。
前の女性二人組は地元のマブといった雰囲気。ドラマ「silent」、kpop、ジャニーズ、Netflix、ゲーム実況、ネイルが長くてボウリングができない、等、現代女性がしそうな話題が次々と繰り出され爽快。「終わったと思われたkpopアイドルのコラボカフェが期間延長されてまだやっている」という話題の際に、「マイナポイントかよ」というツッコミが入ったところがハイライトだった。「マイナポイント」が、期間が延長され続けるさまを表す言葉になる日も近い。
さて、かくいう私は全然気分じゃなかった「キャラメルハニーパンケーキ」を食べている。「キャラメルハニーパンケーキ」は3段重なったパンケーキの上にバニラアイスとホイップクリーム、そして商品名にある通りキャラメルソースと蜂蜜がかかっている商品だ。「キャラメルハニーパンケーキ」には申し訳ないが、一口食べた瞬間に、自分は「たらこスパゲッティ」の気分だったことに気づいてしまう。キャラメルソースと蜂蜜のキャラが完全に被っていることが気になる。3段重なったパンケーキを食べる際、3枚をひとまとまりとして捉えるのと、一枚ずつバラバラに食べるのはどちらが一般的なのだろう。そんなことを考えてしまうことこそが、「キャラメルハニーパンケーキ」に集中できていないことを再認識させる…。
では、なぜ私は「キャラメルハニーパンケーキ」を注文したのか。それはトイレに席に立った際に明らかになる。入店してすぐの大きな柱にパンケーキの写真が3種大きくプリントされていたのだった…入店時に印象づけられたパンケーキの写真によって、私は「キャラメルハニーパンケーキ」注文へと誘導されていたらしい。まんまと…
こんなことをしているうちに周りの客は入れ替わった。深夜に近づき、人気の少なくなってきたファミレスはなんとも趣深い。地元のマブ女性二人組が座っていた席には、華奢黒髪ツインテール美少女(しかも地雷系ではなく化粧気の少ない、mikiosakabeを着ていそうな)と、自分に似合う服をわかっている朴訥とした声の低い青年のカップルが座っていた。ジャンバラヤを食べる少女と、うどんとマグロ丼のセットを食べる青年。ふたりの料理のジャンルのあまりの違いに、青年「ファミレスってすげ〜」ファミレスが提供する料理の多様性を再認識していた。


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