画材との出会い これでないとだめっ!
画材を推薦することについて苦い思い出があります。昔のことです。
今から45年以上前になるか。絵を教えに行きました。色鉛筆とパステルの併用技法でがんがん描いていた時でした。編集だのデザイナーだのと、ファックスもメールもない、とげとげした戦闘モードの日々でした。
若いしいくら僕でもぎらついていた時代です。
生意気なとんがり野郎でした。今は面影もないです。あはは。
10人ほどの生徒にパステルと色鉛筆を持参してもらいました。
ある女生徒が持ってきたパステルを使ってデモを描いてみると彼女のパステルは粗悪な品質で練りも雑でざらざらするし、顔料も少なめでこすっても紙に傷がつくくらいで色が拡がらない。彼女にこのパステルがだめで使えない、高価でも良質のパステルを買ったほうが損しないよ、と少し強く言ってしまいました。彼女は不満そうでにらむように気に入って買ったものだと不満そうでした。
彼女の持ってきた絵を見せてもらうと、ほとんど同一の薄い色合いのふわっとした絵でした。
それなりに完成度も雰囲気もある。
確かにこういう絵ならこのパステルのほうが合うのかもしれない、
少ない小遣いの中から買ったものなのかもしれない、僕は謝りました。
画材には出会いというものがあります。
同じ油絵具でも各社まったく違う、色味も違うエレキギターだってわざわざ安物を使うジミー・ペイジみたいなギタリストもいる。
そしてそれがまたぴったりする。
これでないとだめっ!という気持ちは良い方向です。
ある下町のラーメン屋で山ほどコショウをかけたタンメンが人気。香りがとんだコショウを安く買ってきてそれがコショウとしてはいまいち効かないのでどっぷりかけたらうまーい!とかえって人気が出たらしい。
新鮮なコショウをあんなにかけたらむせちゃって食べられないくらい。
これでないとだめっ!のシュールな見本です。
画材はこれでないとだめっと思えたとき
そういう時は自分の技法に「手ごたえ」を感じ始めたときです。その画材を使うと自分の絵が生きてくるということ。あるマンガ家がGペンを使うのは自分に合わないとサインペンの1ミリだけで描くようになったら表現が決まってきたと言ったのを読んだ覚えがあります。こういうことが全ての画材に言える。筆も紙もそうです。今僕が墨で描く絵に没頭してるのは「土佐麻紙」という紙に出会ったからです。(注釈:2014年頃) 厚手のがっりした和紙で大正末期にできた和紙としてはまだ新しい製品です。この紙はすごい。興味があたら日本画材屋店で手に入ります。
いろいろと和紙を試していますが、僕はいまのところこれでないとだめっ!
高橋常政
高橋常政の主な作品は下記リンクからご覧になれます。
よろしかったらどうぞ。