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「孫もいいの?」〜署名のこと〜

『孫もいいの?』
〜署名のこと〜

大家族でお住まいのHさんは、
72歳の女性です。


「お嫁さんにも言っとくね。
遠方にもう1人の息子がいるけど…
その息子にも言おうかな…」


頭を捻って考えこむHさん。
いつも笑顔で
明るく冗談を言って笑わせる
Hさんの真剣な横顔でした。

個人的に苦手意識のある
署名運動…
私は上手く言葉が出ません。
胸がいっぱいで
涙が出そうでした。

「4月から来れないの?
え?ほんとうに?
…それは…困るわ…」


自分の状態を想像して
お話しされるHさん。


「それまでに、歩けるようにならないと
あかんわっ」

笑顔を見せて
相手を安心させるように
常に気遣って下さいます。


「4月に…?(制度は)
すぐに決まっちゃうんかな?」


「どの先生(リハビリ担当PT2名OT1名)
にもかかってるから…
そんなことになったら…気の毒やわ…」


私の所属する会社のことも想像して
お話しして下さいます。

リハビリは週3回、看護師は月2回
訪問でサービスを受けて下さっています。
Hさんは 退院の翌日から、介護保険での
サービスを開始しました。
デイサービス、訪問看護サービス(リハビリ、看護師)、ヘルパーサービス、福祉用具(電動ベッド、車椅子、歩行器)

初めてお家へ行かせていただいてから
1年と9ヶ月になりました。


退院直後のHさんは、
寝たきりの状態でした。
ご自宅でのリハビリ開始日に
寝返りの練習をしたことを思い出します。

ベッドに1人で座る時は怖くて
ベッド柵にしがみついておられました。
両手で柵をしっかり持っていても
身体はふらふらして
前後に倒れてしまいそうでした。

起き上がりも電動の
ギャッジアップのボタンを押します。
ギャッジアップを使っていると
どんどん身体はベッドの下の方に
移動してしまいます。
ご家族はタオルケットごと枕のある位置まで
身体を引きずって動かしておられました。
枕に頭が届くまで身体を上に移動するのが
一苦労だったのです。

ベットの柵を両手で持って
両膝立てて
両足で蹴ると同時に
握りしめた腕の力とともに
精一杯に自分の頭を枕まで届かせます。
何回か練習したある日、
ご自分の力で枕まで頭が届きました。

「わあ、できた!
できるね。…びっくりしたわ。」

自分の力でできたことが
嬉しくて思わずに出た
言葉のようでした。


1年が経ち、
今は歩行器を使って
外を歩く練習ができるまでに
なっておられます。

これからのHさんは
どうなるのでしょう?
体力をつけて
歩行器でお買い物
杖で電車に乗って外出
できれば仕事に復帰…
そんな可能性を
持っておられる方です。
まだまだリハビリとして
お役に立てることがあるのではないか
個人的にはそう感じていました。

「署名ってされたことありますか?」
私はHさんに話をはじめました。
「署名のお話しなんです。」

(無理して署名してもらわなくても
構わない)嫌だったら断って下さい。
会社からは、署名してもいいよと
お客さんが言って下さるようだったら
ありがたいので、もらってきて下さい
と言われています。


「署名運動は政治活動のようで嫌だし
💦私自身は苦手なんです。」
署名運動が初めてで、
経験がないことを正直にお伝えします。
介護保険のことなので、
お話しはさせて下さい。
それは大丈夫ですか?

Hさんはうなづいてくれました。

書類を見せて読みはじめました。

署名運動の経緯をお話ししました。
Hさんは、自分の頭で考える方です。
色々とこちらの事情を尋ねて下さいました。

「それは、困るっ
こんなにお世話になってるのに
協力しないとっ」

「デイサービスにも署名用紙
持って行っていいのかな?
デイに来てる人にも頼んでみようかな?
ヘルパーさんにも声かけてみようか?
5人ぐらい来てくれてるから、
その人にも頼んでおくから。
インターネットで署名してもらえばいいし。」

「急がないとね。11月29日まで?
大事なことは、メモしておくから。
大丈夫」
ノートに書いてくれました。


どんどんとHさんのほうから
提案して下さったのです。

私の話を聞く前にあらかじめ、
Hさんが言った言葉です。
私には、やんわりとした
断り文句にとれました。

「年寄りはね、何にも口出さん方がいいのよ。署名なんて無理。なんの力もないから」
Hさんは、そう言いながらも
真剣に聞いて下さったのです。

そして
私の話を
すっかり聞き終える前に
Hさんが言ってくれます。

「こんな時は協力しないとね!
署名するわ。お嫁さんにも言っとくからっ」


「孫もいいの?」


私からの
急な話に混乱しながらも
冷静に、頭がついていくように
一所懸命に頭を働かせて下さいます。
自分の頭の中をフル回転させて
一緒に今できることを懸命に考えて
下さっているようでした。





【署名運動】

「署名は政治活動か?」

と言われるとどうなんだろう?
調べたら…政治活動そのものでした。

名前、住所、年齢
個人情報が記入されます。

政治活動の何が苦手なんだろう?
個人的には、気持ちが重かったようでした。
自分自身で縛りつけていたようでした。
自分の意見に過度な責任を感じていたのです。
そして人の目でした。
主義主張をすることで受けるリスク…例えると戦時中のような恐怖感です。

自分自身の問題に、気づかせてもらえたのです。





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