シルバー人材日記「見守り歩きのFさん」
先月の話です。
真夏の超猛暑のなかに、初対面のFさんと一緒に見守り歩きをしました。Fさんが耳が聞こえないという話は、見守り歩きをする他の方々から聞いていて「充分注意してあげてね」と言われていました。
Fさんとの歩きの日、待ち合わせ場所の学習施設に行くと、驚きました。施設が閉まっているんです。聞いていませんよ(。・ω・。)施設のドアに「館内消毒で本日閉館」と書いた紙が雑に貼られていました。この日はもの凄い暑さで、買ったばかりのファンベストを着ていても少しも効果がないんです。
「中に入れてくれよ!」なんてドアの外でブツブツ言っても施設館内には人影がないんです。
「中で涼もうと思っていたのに、このままじゃ熱中症になっちまうよ」なんて一人でブツブツ言っていると、小さな高齢男性がやって来ました。「ああ、この人がFさんだな」と思って声をかけました。「Fさんですか?」すると、僕の声が良く聞こえなかったようで「はぁ?」と言って耳を僕の方に向けます。
「Fさんですか?」
「ああ、はいはい」
「ワタナベです、はじめまして、今日はよろしくお願いします」と言って頭を下げました。
「あ、よろしくお願いします。今日は施設は休みなんだね」と言って施設のドアのハリガミを見ています。
「そうなんですよ、酷いですよね、ここにいたら熱中症になっちゃいますから・・・」
「じゃあ行きましょうか?」
「はい」
「申し訳ないけれど、耳が聞こえないので僕の前を歩いてください」
「はい、じゃあFさんの歩行速度に合わせますから、早かったら言って下さいね」
「はい」と言って頷くので早速、施設から裏通りを抜けて、まずは中学校に向います。この中学校は、かみさんが施錠管理をしている施設がある学校です。見守り歩きのコースは、学習施設から中学校、幼稚園、A公園、A小学校、B公園、団地、住宅街、C公園、D公園、B小学校→終了というルートです。
Fさんの様子を見ると、少しヨタついた感じで歩いています。Fさんのために、ゆっくりと歩いて、反応を見ます。裏通りですが、車の往来もあるので注意しながら歩きます。
良く聞こえないだろうと、振り返ってはFさんの耳に近い距離で大きな声で話します。聞けばFさんは、児童見守り歩きを数年やっている大先輩なのですが、会社の検査で難聴気味だったのを放置していたせいで、完全に耳が聞こえなくなり、右の図骨に人工内耳手術をしたのですが、時既に遅く、あまり効果がないと言うことでした。
コースを2度ほど休憩しなが、終点に向ってら歩いて行くと「ワタナベさん、少し休もう」と小さな声で言います。異常な熱波で少しダレ気味だった僕も「あ、僕も休みたいと思っていました」と近くのベンチでしばらく休憩に入りました。
そこで、身の上話をしながら時間つぶしをしますが、異常熱波の中では本当の休憩にはならないのです。屋根があるベンチに座っても酸素欠乏になってしまうような暑い外気が全身にまとわりつきます。ふたりで動かずに座っていると、強い太陽光が皮膚を焼き、外気も酸素が少ないような感じがして酷く苦しいのですね。
「今日は早めに上がりましょう」と僕が言うと、最後の住宅街、公園を廻って、そのまま集合場所の学習施設に戻ります。
「施設には入れないから、隣のパチンコ屋で休憩しましょう」とFさん。学習施設の隣には、かつて靴の工場だった広大な敷地にパチンコ屋がデーンと建っており、そこの中に涼めるカフェがあるのです。カフェと言っても自販機が並んでベンチとテーブルがあるだけです。
そこに互いに離れて座って、見守り歩きの終了時間になるまで待つのです。離れて座っていたので話もできません。終了時間になったところでFさんのところに歩いて行って「終わりましたから帰りますね、Fさん、気をつけて帰ってくださいね」と言って頭を下げました、Fさんは僕の顔を見て「はい」と元気なく返事をして頷きました。
僕は、そのままパチンコ屋の外に出て自宅に向って歩きました。
その次の週は東京に知人の絵を見に行ったので見守り歩きを休みました。僕の代わりにHさんという先輩男性に代わってもらいました。HさんはFさんと長いつきあいがあり仲が良いのです。
その翌週の見守り歩きは僕と交代していただいたHさんと歩きました。休憩時間にHさんとFさんの話になりました。
「ワタナベさん、Fさんどうだった?」
「あ、普通でしたよ。Fさんが車にぶつからないように気をつけて歩いたので少し疲れましたけど」なんて生意気なことを言いました。
「Fさんさ、次の週に俺と歩いたじゃん、何だか元気がなくてさ、もう疲れちゃったんだってさ、だから見守り歩きを辞めるってさ」
「え、僕のせいなんですか?」
「いや、違うよ。そういう意味じゃないよ。何だかもう疲れちゃったんだってさ。耳が聞こえないから身体の具合も悪くなったみたい」
「そうですか、残念ですね」
それから休憩を終えて、しばらく歩くと、Fさんが「休みたい」と言って休憩したベンチが見えました。そのベンチにFさんが座って、こちらを見ているような気がして悲しくなりました。
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