シルバー人材日記「エアコンの旅」2024/9/24
*これは、ややフィクションであり、事実に則るものではありません。
「変化はない放置自転車歩き」
シルバー人材話がメーンではない。またまた豪傑大家さんの話なのである。
その前にシルバー人材の仕事に触れる。今朝は「放置自転車監視歩き」である。朝7時から9時までの2時間、駅中心に300メートル地域を夫婦でダラダラと歩いて放置自転車を探すのである。今日は涼しいというか寒いくらいで「やっと俺の季節が来たぜ!」なんて、秋冬が自分のモノみたいなことを、かみさんに言いながら歩いた。
暑くなければ体力に影響が少ない。疲労度も低くなり快適であった。ただし、用心して薄い生地のリュックに大きな保冷剤を入れて背中に背負っている。これが最初は冷たくて寒く感じたのである。歩いているうちに身体も温まってきて、歩きの中盤ぐらいには背中の保冷剤の冷たさをありがたく感じた。
いつもの公園には相変わらずお兄ちゃん(多分ホームレスさん)は同じベンチに横になっている。これから寒くなるのに大丈夫なんだろうか? 台風後に一度はベンチから姿を消していたのに、また戻って来ているのだ。台風時に心配した際には「どうみても僕と同じくらいのお爺ちゃん」のような見た目だったのに、少し若い服装になって30代後半から40大前半のように見える。
それから今まで一度も触れていないが、この公園には、公園掃除を請け負っている(僕たちのようにシルバー人材ではないだろうと思われる)赤い制服のお兄さんも熱心に草むしりをしている。この人は「おはようございます」と声をかけても聞こえないような声で「おはようございます」と返事はするものの「今日もお仕事ですか?」みたいな人と交流しようとするような芳しい反応がない。
朝の歩き仕事では、あまり交流のないこの公園の交流のない2人だけではなく、数は少ないが、決まって声をかけるもしくはかけられる人物たちがいる。まずは僕がトイレを借りる建物内と駅前を掃除しているお婆ちゃんとお爺ちゃんのふたり、通学時の児童を見守る横断歩道のお爺ちゃん、花屋のおばさん・・・ああ、やっぱり少ないな(笑)。
「豪傑大家さんとエアコン」
放置自転車歩きを終えて帰宅したのだが、天気が良かったので、かみさんが洗濯を始めた。僕は目黒の打ち合わせに提出する資料づくりをしようとパソコンを開くが、ふと、かみさんの洗濯の準備を手伝おうとベランダに出て洗濯機のカバーを外したりしていた。古いアパートながらベランダは広く、ちょっとした部屋分の面積がある。ベランダの横には大家さんが管理するふた部屋分の面積がある大ベランダがあり、ここからの見晴らしは良く遠くのスカイツリーや富士山が見える。現在、この大ベランダ、僕の部屋のベランダ込みで大家さんが自分の仲間たちと防水工事をしている。予告もなく突然始めるのが大家さんの悪い癖だが、文句は言えない、仕方がない。
この大ベランダに大家さんの姿が見えた。驚いた。
「どうしたんですか?」と聞くと、「ああ、土日の工事の準備してるんだよ」と言う。うちのベランダには大きなプラスチックケース1個とプランター3つとエアコンの室外機がある。これらは大家さんたちが行なっている防水工事の邪魔になる。何しろベランダの床を剥がして防水剤を塗るのである。一番邪魔なのが、僕があとから取り付けたエアコンの室外機である。過日に導入したエアコンとは違う。こちらは10年以上を経たカビだらけの有害エアコンである。
「ベランダの荷物が多くてごめんなさい。エアコンの室外機なんか邪魔でしょ?」
「いや、持ち上げて処理するから大丈夫だよ」
「うーん・・・このエアコン死んでるんです」
「壊れたの?」
「はい、もう動きません」
「じゃあ、外しちゃおうか」
「え、今日ですか?」
「うん、やっちゃおう。待って、道具持ってくるからさ」ダダダーって階下に降りていく。
(うわわわ、決断が早いな。こっちは心の準備ができていないよ)
で、すぐに戻ってきた。大家さんは決断力と行動力に長けている。
「まずはエアコンと室外機を分けちゃおう」
「室外機だけお願いします」
「いや、電源だけでなく排水とか冷却ガスの管とかをぶった切って分けちゃう」
(ええええ!部屋の中は本とかガラクタで溢れているから、部屋の汚さがバレちゃうぜ)
大家さんは室外機とエアコン本体をつなぐ血管のような金属管をカッターで切って室外機から冷却ガスをプシューーーと抜く。
(なるほど、エアコンの構造が少し理解できたぞ)
「あとはさ、部屋の中にあるエアコンを外そう」
「じゃあ、部屋に入って外します」
「うん」
エアコンは窓をズラして特殊な板をはめ込んで降り付けてある。このアパートに引っ越してきた時に業者が行なったものだ。だからどのように外すのかが見当がつかない。
「うんしょっと」怪力大家さんが窓を開けて顔を出した。
「エアコンを持ち上げて外してみて」
「あ、はい。どっこいしょっと」バキッ!外れた。
「エアコンちょうだい」
「はい、よいしょ」
「エアコンの取り付け板も外してね」
「はい」
エアコンのはめ板は金属製でたくさんのネジで留めてある。
ようやくはめ板を外して大家さんに渡す。
(終わった・・・あっという間だった)
「じゃあ下に室外機を下ろそう」
(げげ!こないだのパターンだな。もしかしたら処理場まで連れて行かれるかもしれない)ビクビクした。また処理費用がかかるからだ。
室外機は重い。昔の機種だから重いのだ。大家さんとふたりで階段を下ろしていく。つまずいたら階段の壁にぶつかって死んじゃうかもしれない・・・覚悟しながら運ぶ。
ようやく下に下ろした。
「待ってて、車持ってくっから」
(ゲゲ! やっぱり処理場まで持っていくのかよ?)覚悟した。
ブイーンってエンジン音がして軽ワゴンが停まった。
「じゃあ、行くべ」
「ああ、待ってください。財布持ってくるから」
「金かからないから大丈夫だよ」
(え?どういうことだろう)
手を洗ってから車に乗った。
「気をつけてね」かみさんが心配そうに見ている。
ブイーン!!! タクシーの運転手である大家さんの運転は上手だがおっかない。
「どこまで行くんですか?」
「隣街との境までだからすぐに着くよ」
ブイーン!!!ブイーン!!!ブイーン!!!ってな爆音を唸らせて車は飛ぶように走る。見れば細い木調のハンドルには、何に使うのか不明なサブハンドルみたいな握りが付いていて、走りに慣れた人間の車なんだなって思った。
すると住宅地から離れた工場が建ち並ぶ場所に着いた。処理場かな?
(あ、盗んだ車を解体するヤードっつうとこか?ヤバヤバヤバ)
工場街の一ヶ所に車が入って停まった。
(うわ!ゴミが小山のように積んである、こりゃ本当にヤバいんじゃないか?)
処理場のオジサンが車に近づいてきて後ろのドアを開ける。
「エアコンエアコン!」大家さんが叫ぶ。
処理場内では小型重機(フォークリフト?)が走り回ってゴミを分別している。
ドカーン!さっきまで部屋の中にあったエアコンと室外機が金属台の上に投げられる。
(乱暴だな)
しかし、それにしてもここは何なのだ?興味が僕の視線を動かす。金属ゴミの山にはプラスチックに覆われた大中小太細様々な金属コード、小型家電、なんだかわからない塊に金属棒に金属板などが分別して盛り上げてある。
キョロキョロと見回していると大家さんが「行くべ」と言う、
「あ、はい」
「ほいこれ、奧さんにご飯食べさせてあげなよ」と言って5千円札を握らせる。
「エアコンは高く売れるね」と言いながら乱暴に車を走らせる。
「お金いらないすよ、迷惑かけたんだから大家さんがもらってください」
「いいんだよ、奧さんにご飯を食べさせてあげなよ」
(大家さんはうちが貧乏だと知っている)
「はい、ありがとうございます」
「いいんだよ、いいんだよ」と言ってハンドルを乱暴にグルグル回しながら笑う。
大家さんが運転する軽ワゴンは空を飛ぶように滑らかに走っていく。
(さすがタクシーの運転手)
「ここは伯父さんの土地なんだよ」
「ああ、テニス場も、テニス場の前の道も大家さんの伯父さんの土地だったんですよね」
「うん、市が道を作るって行ってたときの提示額より少なくなっちまったけどね」
「そうですか・・・スゲーな・・・」
「俺もそこの駐車場の土地とかいくつか持ってるけどね」
「あの瓦屋根のが伯父さん家だよ」
放置自転車歩きの際に良く目にする大きな屋敷だ。
「スゲーッすね」思わず朽ちに出た言葉だ。67歳のお爺ちゃんが口にする言葉とは思えない。
「いや、たいしたことないよ」
生活に困る事はないだろう大家さんと貧乏な我が身を比較して、これから先の人生を考えてため息が出た。
軽ワゴンは信号に引っかかることもなくアパートに向って走って行く。僕はと言えばさきほどの5千円札がポケットに入っていることを何度も確認するようにポケットをまさぐっている。
「ChatGPTによる要約」
変化のない放置自転車巡回
夫婦で駅周辺の300メートルを歩き、放置自転車を監視するシルバー人材の仕事を行いました。今日は涼しく快適で、背負っていた保冷剤も次第に心地よくなりました。公園ではいつものホームレスの男性を見かけ、彼が以前より若返ったように見えたことに驚きました。また、赤い制服を着た草むしりの男性とも挨拶を交わしましたが、特に親しい交流はなく、仕事の中でいつも声をかける人は少ないことを再認識しました。
豪傑大家さんとエアコンの取り外し
放置自転車巡回を終えて帰宅すると、大家さんが隣のベランダで工事をしているのを見かけました。うちの壊れたエアコンの室外機が工事の邪魔になると思い、大家さんに話しかけたところ、その場でエアコンの取り外しを即決。大家さんの手際の良さでエアコンと室外機を取り外し、処理場へ運びました。工場地帯に着くと、エアコンを処理場に引き渡し、5千円をもらいました。帰りの車中、大家さんの土地や経済状況を聞き、裕福な大家さんとの生活の違いに思いを巡らせながら、大家さんの親切に感謝しました。