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シルバー人材日記「夜の訪問者」

忘れていた。28日の水曜日のことだ。

中学校体育館の下に設置されている市民コミュニティ施設の解錠施錠の仕事が入っていたので夫婦で出かけた。施設までは徒歩15分ほどだが、解錠施錠のために2往復しなければならないのだ。

この日は夜の7時から9時まで市民クラブのひとつ「伝統武道愛好会」の練習の予約が入っていて。午後6時半には施設の解錠を行なわなくてはならない。今の6時半は暗いよね。

施設は古い建物で、以前は図書館だったようだが、今は5つの部屋で囲碁、卓球、ヨガを楽しんだり、武道の練習場になっている。昔から大勢の人々が出入りしていたから、その人間たちの雰囲気を建物の床や壁から感じとることができる。

6時45分頃に愛好会の方々が来たので、「8時半頃に施錠に来ます」と言って、僕たちは一度帰宅する。1時間半後にまた施設まで出かけて施錠するのだが、帰宅するのは面倒なので、この日は近くの大衆食堂で「豚汁ぶっかけご飯」を食べて施錠までの時間をつぶした。

施錠時間が来たので施設に戻り、愛好会の方々が帰るのを待った。愛好会には小さな子どもたちもいて、楽しそうに大笑いしながら武道の練習をしている。30分後に愛好会の人々が帰ったあと、5部屋の窓の施錠を調べてから電気を消し、玄関に設置しているセキュリティ会社のセキュリティをオンにしてから施錠するのだが、裏口の施錠を調べていると、裏口のドアの外に若者が立っていて、「トイレを貸してください」と言う。「どこから裏口に入ってきたの?」と聞くと「ああ、ちょっと・・・」と口ごもる。怪しい。ドアを開けた途端、後ろに隠れていた仲間が現れて、「金を出せ」何て言われてこっちが文無しだとわかるや殺されるかもしれない。今の世の中はつまらぬことで犯罪に舞い込まれてしまうからね。しかし、こいつをこのままにしておけないので、危険は承知の上でドアを開けて中に入れた。すぐに裏口を施錠してから「トイレはあっちだ」と言って指さすと「はい」と言ってトイレに走って行った。

僕たち夫婦は怪しい彼を玄関で待ち、彼によって何かあれば通報する、逃げる準備をした。しばらくして彼が出てきて「ありがとうございます」と言って、そそくさと出て行った。彼の足元を見ると土足のまま。土足のまま出て行ったのだ。

しかし、彼がどうやって裏口に入れたのか? 裏口の外は中学校の周りの塀で囲われており、中には入れないはず・・・。賊の下っ端である彼は施設内を下見に来た斥候か? いずれにしても何もなかったのでホッと一安心。夫婦で施錠してから帰るのだが、施設の外の中学校のグラウンドを見ると漆黒の闇の中で懐中電灯の灯りが見えた。二人組のようだ。懐中電灯の灯りの先を見ると中学校の玄関辺りをウロウロしているように見えた。

いずれにしても巻き込まれて殺されたりしたら、その場で僕たち夫婦は、一生を終えることになるのである。まだ死ぬのはイヤだし、中学校は中学校の責任であるし、何かあれば警備会社が飛んでくるであろうから、僕たちは知らぬふりして帰ったのであった。

もしかしたら、運が悪ければ、この時に人生は修了していたかもしれない。人の運命、人の生命とは、そんなものだ。つまらぬことで一生を終えたくない・・・我ながら情けない。自分で自分を嘲笑ってやったのだった、


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