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マチアプAI美女

 小田原へ移住して早3ヶ月。気軽に茶をしばきに行ったり飲みに誘える友達がいなくなってしまったので、マッチングアプリで友達を探してみることにした。

ハッピーメール、Tinder、PCMAX、COSY……意外と色々あるんだなあ。と感心。そして迷う。が、今回Tinderはパス。私は女性の茶飲み友達が欲しいのであって、男性からのコンタクトに(いやまあ、あればだが……)逐一お断りを入れるのは面倒だ。

 結局、一番登録のラクそうなCOSYという女性限定のアプリを入れてみた。前に海岸沿いで撮った写真をちょっと加工してプロフィール画像とする。自己紹介は100文字まで。

「既婚のパンセクシャル女性です。友達募集目的。色っぽいことはNG。趣味は競馬と駅伝観戦。近場でお茶でもできたらいいなと思います」

 〆て66文字。こんなところか。いや、趣味は蛇足だったか? などと逡巡しながら、ホーム画面に流れていく女子たちの呟きを眺めてみる。早速私も「暇すぎ。ゲームでもしよかな」などと面白みもへったくれもないことをタイムラインに放流してみた。それはすぐにほかの呟きの濁流に飲まれていき、画面の下流へ。

 というか、タイムラインを構成する圧倒的多数は20代だ。アラフォーおばさん、ちょっと浮いてる? とドキドキしていると、一件の通知があった。チャットでコンタクトを取ってくれた方がいるようだ。

「こんにちは、初めまして」

 なんとも簡素なご挨拶。しかし、マチアプ初心者は私の方。もしかするとマチアプ界隈では初めの挨拶というのはこんなものなのかもしれない。

「初めまして! くもはと申します。神奈川の方ですか?」

 特に何も考えずに返信してしまったが、いきなり居住地を聞くというのはなんだか「どこ住み? 会える?」みたいながっつき感があって我ながらちょっとキモい。

「返信頂けて嬉しいです。iと呼んでください。私は36歳ですが、あなたはどうですか?」

「私は日本の神奈川県にほぼ1年住んでいますが、あなたはどうですか?」

 よかった。地雷は踏み抜かなかったようだ。歳も近いし、こちらこそ速攻で出会いの機会を得られて僥倖だ。

 メッセージをくれたiさんはフィリピンと日本のハーフで、日本語は勉強中とのこと。その後LINEを交換してそちらでお互いの写真を交換したが、iさんはちょっと尻込みするくらいの美女だった。36歳、わけぇ~~! いや、自分が老けてるだけか……。とチベスナ顔になってもひとり。咳をしてもひとり。

 iさんは来月半ばまで仕事で大阪にいるらしく、帰って来たらぜひ会いましょう。と言ってくれた。こちらこそよろこんで! その時はきちんとサロンで髪を整えて、出番が無さすぎてタイムカプセル化しているメイクポーチの中身も一新しよう。それと、今日からスキンケア強化開始だ!

 夕方。午前中に登録したCOSYにまた通知があった。

「こんにちは。初めまして」

 やはり簡素な挨拶。マチアプってやっぱりこんな感じなのか~。と妙に感心。プロフィールを見ると、今度は29歳のワンちゃんを抱いた美女Hさんだ。今度はキモくならないように……!

「初めまして! くもはと申します。よろしくお願いします。ワンちゃん可愛いですね!」

「ありがとうございます。あなたは犬も飼っていますか?」

「飼ってないんですよ~。羨ましいです!」

「なるほど。大丈夫です。ちなみに私はフィリピン人とのハーフで日本語はあまり上手ではありません。ご理解いただければ幸いです」

 ……ん? またフィリピンとのハーフ? 偶然か??

「大丈夫ですよ! 私も、やさしい日本語を使いますね!」

 とりあえずそう返信して、やっぱりLINEを交換。どちらもワンちゃんがアイコン。なんだか似たような美女二人と交互に雑談を交わす。

iさん「夕食には何を食べる予定ですか?」

私「うちは焼肉にしようと思っています」

Hさん「夕食はもう食べましたか?」

私「夕食はまだです。焼肉にしようと思っています」

 どっちがどっちだか分からなくなってくる。iさんが今夜食べたのは韓国料理で、Hさんはステーキ。あれ? iさんは今夜じゃなくて前に韓国料理の店に行ったと言ってたんだっけ? Hさんには「素敵なディナーですね」とダジャレで返したが通じるか?

iさん「自由な時間に趣味はありますか?」

私「趣味は週末の競馬とスポーツ観戦で、平日の自由な時間は本を読んでいることが多いです」

iさん「私は空き時間に金融本を読んだり、ビジネス問題に詳しくなるために金融資産を勉強したりします」

Hさん「くもはさんには趣味がありますか?」

私「週末は競馬をしています。ほかに、空いた時間には音楽を聴いたり本を読んだりすることが多いです」

Hさん「それは素敵なことです。私は自由になる時間を使って金融ビジネスを学んだり、暗号資産の運用をしたりします」

 ど、どっちもサクラだ~~~~! まんまとやられた!!

 そう思って二人の美女の写真をよくよく見てみればAI写真のように見えなくもない。そんな私の曇り眼も現金ではあるが!

 後ハッピーマニアで、シゲカヨが言っていた。「男に声をかけられたら泥棒か詐欺師と思え」と。まさかそれが女性限定マチアプにも当てはまるとは。いやはや、勉強させられた。

 それにしても、どうせサクラをするにしてももう少し設定に凝ることはできんのかと思う。サクラの中の人の日本語が如何に不自然だとて、皆が皆フィリピンとのハーフなわけでもないだろうに。

 と知人に漏らしたところ、この手のメールその他は普通の知能がある者が見たら絶対に途中で気付くような手抜きに見えるものをあえて作らしい。それでも食いついてくる奴は途轍もない欲求不満かバカ。つまりとことんだませる相手であるということのようだ。

 それでいくと、私はこの手のサクラに疑いも持たずLINEのIDを渡す「バカ」の部類だ。もしも私がiさんかHさんどちらかとしかやりとりをしておらず彼女と対面を果たすような展開になっていたらどうなっていたのだろう? ネットワークビジネスの勧誘か、暗号資産詐欺の被害にでも遭う事態に発展するのだろうか? 真相はサクラ吹雪の彼方だ。

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