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#40 トーク&トーク&トーク

ある日の新幹線内での出来事。

夏休みのせいか席が取れず、仕方なく、三席並びの最前列、真ん中席を予約。
乗車して見れば、真ん中の席を空けて、両サイドにご婦人の姿。
どうやらお二人は友人のようで、仲良く談笑中。

ご友人同士の真ん中に、わたしが座るのかしら……?
と思いながら、その席に座ります、と目で伝え、笑顔で挨拶。
すると、通路側のご婦人が席を立ち、身辺整理をしながら、前テーブルをもとに戻している。

あ、隣にずれてくれるのかな……。
そして、わたしは、通路側の席にチェンジということかしら……。

しかし、すぐにそんな想像は消え、
「どうぞ」
と、ご婦人は、あたり前のようにわたしを中央の席へと促す。

あ、通れるように、テーブルをお戻しになられてたのですね……。
でも、ご友人同士の真ん中にわたしが座る形になるのだけど、いいのかしら……。
ま、通路側のご婦人が中央席にずれるというのは、わたしの希望的予想でしかないしね……。

状況把握に向け、脳内をグルグルと回転させながら、わたしは真ん中の席に着席した。

「えっと、お二人はお知り合いで……?」
念のため訊ねれば、両サイドでご婦人が首を縦に振る。

「わたしが、ここでいいのでしょうか……?」
再度、両サイドで首が縦に振られる。

…………。
……。
???…………!

束の間の思案後、わたしは状況をのみこんで意識を変え、
「お二人はどちらから?」
と、会話を始めた。
「大阪から。USJに行ってきたのよ。これから横浜まで帰るの」
窓側ご婦人の言葉に、通路側ご婦人は相づちをうちながら、
「これ、食べてね」
と、ナッツ系のお菓子をわたしのテーブルにのせてくる。
「こっちも、好きに手伸ばしてね」
と窓婦人。
「ありがとうございます」
頭を下げながら、自分のおかれた状況に笑う。
笑ったことで心が開き、わたしの「人を知りたい」欲が走り出す。

窓婦人は、演出の仕事をされているご子息の影響で、海外にも数多く行かれ、ご自身も画家。親子で表現の世界の住人と知り、聞きたいことが脳内に充満する。
また、通路夫人は、三男を育てあげながら、現役のシステムエンジニア。少し前にアメリカ旅行にも行かれていたというバイタリティの豊かさに、これまた、訊ねたいことが満載になる。
そのせいで、何を話そうかしら……と思案する間も生まれないほど会話は弾み、わたしは、新横浜までの時間を堪能したのだ。
話過ぎて喉が渇き、窓婦人のビールに、危うく手を伸ばしてしまいそうなほどに。

絵を描く際の色の作り方。線の描き方。美意識について。作品との向き合い方や熱の放出の仕方などの、表現の世界に住む先輩の言葉。
「母親が子どもに与える影響なんて、たかだか15%なんだから、全て負わなくていいのよ」という気が楽になるような、仕事と母親業を両立されてきた先輩の言葉。

配られたナッツを口に運びながら、録音したかったな……と思うほどの内容の濃さで話は尽きない。

心が開けば、本音も零れだす。
若い頃にミケランジェロを呆れるほどデッサンしたこと、男性の筋肉の在り方、動きに合わせて浮かぶ筋、生まれる影。男性の身体の美しさやすばらしさを語り合ううちに、気づけば、恋愛の生涯現役宣言のようなものを誓い合う、窓婦人とわたしをよそに、「見すぎたせいで、もう男はいいわ」と、軽やかに笑う通路婦人。

横浜が近づいたところで、連絡先を……ということになり、名刺を渡しながら、新幹線内で隣席の人と自己紹介し合うって本当にあるのね……と、どこかで聞いた話がよぎる。

「旅の最後に貴女に会えて良かったわ」
笑顔を見せるAさん(窓婦人)と、笑顔で頷くCさんを前に、30歳も年下のわたしを瞬時に受け入れてくれた、その柔軟な心に敬意を払いながら、
「わたしも、お会いできて嬉しかったです」
と本心からの言葉がこぼれた。

あー楽しかった。

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