おけいこは子育てではない

面接練習をしていて「これまでに子育てでがんばってきたことはなんですか？」という質問に対し、お母さまの中には自信満々で、

「三歳の頃から毎日ピアノを続けています。レッスンは一度も休んだことはありません。先日のコンクールでは入賞を果たし、拍手喝采を受けました」

とお答えになる方がいます。そんなとき、わたしはこう訊ねます。

「それって、がんばったのはお子さん本人とピアノの先生ですよね？　お母さまは何をしてたんですか？」

まあ、いじわるな指摘なのですが、この方に限らず、おけいこ事に通わせることが子育ての一部だと思っているご両親はたくさんいます。上の例ではピアノですが、他にバイオリンやバレエなどが定番です。（とくに女の子のお子さまに多い）

お子さまが小さいうちから習いごとをさせるのは決して間違ったことではありません。音楽の才能、とくに楽器の才能は習熟する時期が早ければ早いほどいいという考えは一般的ですし、のちになってその積み重ねが豊かに花開いたという例もあるでしょう。またお子さん自身が「やってみたい！」と意欲を見せ、ねだられる場合もあるでしょうし、なにより、大切なお子さまに幼いうちからさまざまな未来の可能性や選択肢を与えてあげたいという親心は子を持つ親ならだれしも共感できるかと思います。

しかし、親が子育てのいちばん最初に挙げる項目として「おけいこ事をがんばってきました」と主張するのはあきらかにちがいます。（というか情けない）少なくとも、面接の場で言うべきではありません。なぜならそれは学校側の知りたいことでも、望んでいる答えでもないからです。なにより、おけいこ事は子育てではありません。このことをまずご両親はしっかりと認識しましょう。

なぜなら上でも指摘したように、おけいこ事は「親ががんばっていること」には含まれないからです。おけいこや習いごとはその特質上、先生とお子さまの関係が強調されます。そしてその関係が強調されればされるほど、親（とくに母親）の存在は薄くなっていきます。つまり「おけいこ事をがんばってきました」とレッスン数をアピールするほど、お母さまの意図や努力とは裏腹に、親がサボっているように見えてしまうのです。子育てとはなにより親と子がいっしょにいることによって成されるものなのです。

お母さまにすればこれは不本意なことかもしれません。お子さまに習いごとをさせるために、お母さま方はたいへんな努力されているからです。こども用とはいえ楽器は高価なものですし、お月謝代もかかります。習いごとの送り迎えをするのだって、かなりの負担です。それもこれも、ひとえにこどものことを思ってのこと。しかしそれはお受験において「育児」とは見なされないのです。

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これらもすべて同じです。