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お受験が原因で離婚!?

お受験指導の現場ではときどき予想だにしなかったことが起きます。中でも困るのが、面接練習の最中にけんかを始めるご夫婦です。

はじめは質問の受け答えがうまくいかない、ご夫婦でおたがい言うことがちがうなど、ささいなことがきっかけなのですが、次第にどちらもエキサイトしてきて、面接官役の我々の前で派手な夫婦げんかがはじまります。

お母さまは責めます。曰く、「あなたは日頃から協力的でないのよ!」「質問事項くらいちゃんと予習してきて」といった感じで、対してお父さまは「ぼくは最初から受験には乗り気ではなかった」「そもそも今回の受験は君から言い出したことだ」といった調子で反論します。まさに売り言葉に買い言葉。凍りつく我々とふたりの座席の間にあって泣きそうな顔をしているお子さん。

まあここまで深刻ではないにしろ、お受験の期間中、ご両親の間でこの手のいざこざがあるのはめずらしいことではありません。とくに試験本番直前は気持ち的にも切羽詰まっていることもあって、ふだんはオブラートに包んでいた生の感情が出やすくなります。とりわけお母さまは日頃からあまり子育てに協力的でないお父さまに不満を溜めていることもあり、ささいなことから本音が爆発、諍いや口論に発展するというわけです。

こうした夫婦げんかも最終的にお子さまが合格すれば笑い話で済みますが、中にはもっと深刻な事態に突入するご家庭も存在します。ある日、深刻そうな顔をしたお母さまからご相談をうけたかと思うと、

「先生、じつは主人と別れようと思っているんですけど……」

とか

「ひょっとしたらうち、離婚するかもしれません」

などと言われることがあります。そんなとき、わたしどもは必ずこう言うようにしています。

「離婚されるならお子さまのお受験が終わってからにしてください」と。(切実)

なぜお受験の時期にご夫婦にこんなことが起きてしまうのでしょう? それは「お受験という体験」がご両親のこれまでの子育てに対する無意識をあぶり出すからです。妻と夫、父親と母親、それぞれ互いの立場で、それまでうやむやにしてきたお子さまの子育てに対する齟齬や不一致がこの期間にはじめて顕在化するのです。

これまで何度も書いてきたように、わが子の教育に熱心なのはたいていお母さまです。父親はまったく無関心というわけではありませんが、母親ほど深く関わろうとはしません。心の内ではこうした妻の不満に気がついていますが、子どもはまだ小さいし、教育だの受験だのは当分先の話だろうと思っています。(仕事で疲れているというのもある)

しかしお子さまが年長さんとなり、現実にお受験の時期が近づいてくると、お父さまは父親としてスーツを着て学校の面接を受けなければならなくなります。そしてわが子の将来や進路に対して具体的なコミットを求められている自分に気づき、渋面を作るというわけです。

ではこうした両親の不仲は教育に無関心な父親だけの責任なのでしょうか? いいえ。この時期に育児や教育、お子さまとの関係を捉え直さなければならないのは母親もまた同じなのです。

お受験における二大関門「願書」と「面接」。お若いご両親にとってはどちらもなかなか手強い相手ですが、このふたつに共通するむずかしさとはなんでしょう?

それは説明です。

お受験のさまざまな場面において、両親はお子さまや自分のご家庭の優れたところ、長所をアピールしなければなりません。ご家庭ではどのようにお子さまを躾けてきたか、わが子の優れた特質はどこか、さらにはその部分がいかにして育まれたのか、家庭の育児方針や教育方針についてご両親は事細かに説明を求められるのです。

「願書」は文章によって。
「面接」は口頭によって。

願書や面接は、言い換えれば「わが子のプレゼン」の場でもあるのです。

しかしお若いお母さまは大抵これが苦手です。愛情には自信がある。お子さまの面倒を一生懸命みてきたこともだれにも負けない。しかしその理由を教育理念や育児理念と紐付けてあらためて説明を求められるとなんと答えていいかわからない。
なぜそれをやってきたのか。
それをどういうつもりでやってきたのか。
子育ての内容や方向性をくわしく問われ、お母さまははたと困ります。お受験とは自分がこれまで無意識にやってきた子育てのすべてを言語化し、第三者に納得できるよう説明する場でもあるのです。

つまり整理するとこんな感じです。

父親・・・今まで我が子の教育をなあなあにしてきたツケとして、ある日突然コミットを求められて困惑

母親・・・お子さまへの愛情とお世話のほかはあまり深く考えてこなかった自分の行動に、ある日突然論理とロジックを求められて困惑

当日着ていく予定のスーツに着替え、面接練習にのぞんではみたものの設問にはうまく答えられずに四苦八苦、これで本番がうまくいかなかったらどうしよう・・・と焦るところに日頃から溜まっていたパートナーに対するいらだちと不満が爆発、あげく離婚問題に発展というわけです。

ではこういう状況を避けるためにご夫婦はどうすればいいのでしょう? 

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幼児教室の先生をしています。じっさいにお受験を指導してきた立場から、お若いご両親に知っていただきたいことやお受験への取り組みかたなどをわか…

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